努力値
翌日はみんな、腫れ物に触るような様子で俺に接した。
「でもね、ルーカス。努力値でうまくいくこともあるから、落ち込まないで?」
「そうだぞ。魔力量は努力してどうにかなるもんじゃない。だが他は努力値がある。どうにでもなるから諦めるなよ」
みんな最後にはそういった。
努力値。
俺だって努力というものを知っている。
努力値は努力してようやく得られるものだ。
頑張って頑張って、根性で頑張って…。
でも俺は根性というものがわからない。どれだけ考えてもわからなかった。だから勉強も、運動も、努力というほどしたことがない。周りに尻を叩かれてもやらなかった。
なぜか?…やっぱりわからないが、幸せすぎるのだろうと自分で納得している。誰かに復讐するとか、どん底で誰に貶されたとか、そういう経験がない。
家族に守られてきたに近い俺の生活には、そんなものは最初からないらしかった。
だから?
いや、別に俺は諦めているわけじゃない。ただただ面倒くさい。どうせ最初からフリーターになるくらいのつもりだったのだから、これを理由に今日は眠ろう。
「魔力量40…」
「魔力量1.414.213…」
これがなんの役にたつだろうか。
「1.414.213か」
何度も何度も復唱して、俺はこのあと夢の中で56237…と続けて眠りについた。
努力値を持ち上げても、周囲の腫れ物対応は変わらない。それから数日間、みんな、俺のことについては過敏に反応した。俺の知る(起きている)平均12時間に限りだが。
俺としてはその方がありがたいのだが、兄だけは違うらしい。
「剣の稽古に付き合ってやる」
兄はそう言って、俺に木刀を渡した。