第五話
1ヶ月が経った。
兄さんの夏休みはもうすぐ終わる。
正直すごくすごく×10嬉しい!
兄さん達には感謝をしていないわけじゃない。
睡眠時間を奪われたことにちょっとした恨みはあるが、本を読んでも2、3分で寝落ちするということは無くなったし、家を歩くだけで息切れがするという症状はなくなった。
あと何より嬉しかったのは、あざだらけになった体で、喉が痛む日の兄さんたちに見つからなくそうな木陰で、立ったまま気付いたら寝ていたことだ。
立ったまま寝る、というのには俺としては特殊な思い入れがある。
座って寝る、横になって寝る、本を開いて寝る…。
睡眠において様々な技が存在しているが、俺は今挙げたものはコンプリートしていた。
ただ!
ただひとつ!
立ったまま寝る、という技術のみ欠けていた。
ちょっとしたコレクター気分でいたので、俺のこの時の喜びは大抵の人にはわからないようでわかるものだろう。
「やってよかったろ」
まぁ、否定することではないと思う。
俺からみても…すこしは体力がついたと思うし、ずっと寝てたもんでやっと健康的になったというのに近いと思う。
「そろそろ」
兄さんは言った。
「手合わせするか」
それは悪夢であった。夢は夢でもみたくはない夢。
夢ならどうせ翌日には忘れているが、現実はそうはいかない。
どんなあざもその後何日間かは確実に痛み続けるので、『勉強』というこの世で俺が指折りに嫌う行動と引き換えに母に頼み込んでやっとそれっぽい空気にしてもらった。
そうだというのに、兄はっ!




