018:電磁ブレード
BGMは”レーザーブレードのテーマ(ギャバン)”でお願いします。
空中戦を展開する二人を、呆然と見守るライブレンジャーたち。
彼らが見守るなかで、二人はとある高層ビルの中へと消えて行った。
ベルゼバブが逃げ込んだビルが、この間、死闘を演じたビルだと気がついたとき、流悟は自分が誘い込まれたのだと気がついた。
しかし苦労して追いかけたのだ、今さら引き返す気にはなれない。絶対ヤツを倒す。
自分にそう誓うと、感覚を研ぎ澄まして、入り組んだビル内をベルゼバブの後を追った。
冷や汗がベルゼバブの頬を伝う。
彼は最高時速マッハ1で動ける。その動きについてくる流悟に肝を冷やしていた。
いったいどうなっているんだ。
ヤツはバケモノだ。
ベルゼバブは、自分の事は棚に上げて、心の中を恐怖で満たしていた。
だがしかし、地の利は我にあり。
だからこそ、流悟をガスルームへ閉じ込めることに成功した時の第一声は
「あ~生き返った」
だった。
戦闘員を捨て駒として駆使しながら、ビル内を行ったり来たりして何とかガスルームへ閉じ込めることに成功した。
薄暗い喜びがムクムクと心にわき上がる。
もう安心だ。そして、間髪入れずに神経ガス注入スイッチをONにした。
ガスの効果で弱ったところを、なぶり殺しにしてやる。
見たくもない自分の情けない姿を、思いきり見せつけられた。
その事への逆恨みが、より一層、流悟への憎しみをかき立てていた。
……SIGH
流悟の口から悪態がこぼれる。怯えながら逃げるベルゼバブの姿に、ついついサディスティックな感情がわき上がり、追跡に熱中して周囲への警戒が疎かになってしまった。
結果、やたら天井が高い六畳ほどの大きさの密室に閉じ込められる羽目になってしまった。
黄緑色した毒々しいガスが室内に吹き込み始める。
「ベタすぎんだろ」
流悟は毒ずいた。
とりあえず扉に正拳突きしてみる。
が、扉が凹んだだけで、ぶち破ることは出来なかった。
そうしている間にも黄緑色のガスが室内にどんどん満ちていく。
もう一度正拳突きしようとしたところで、背後に金属音がした。何かが天井から落下したみたいだ。それは排気ダクトのカバーで、見上げると、排気ダクトの入り口が剥き出しになっていた。
躊躇っている暇はない。間髪入れずにジャンプして、流悟は排気ダクトの中へと飛び込んだ。
ホッと一息。
そのまま、狭い排気ダクトの中を道なりに這って行った。そして行きついた先は、何やら研究室らしき場所だった。
色々な機器が所狭しとセッティングされている二層構造の室内、吹き抜けになった真ん中に、それは安置されていた。
まるで石に刺さったエクスカリバーの様だ。
それが、ソレを目にした第一印象だった。
導かれる様にその剣の下へと移動する。
真近で見るとそれは、無骨な鋼鉄の塊だった。
巨大な剣。全長2mはくだらないであろう。
それは目覚めの時を待っていた。
視線を横に向けると、大剣の側にあるPCの電源が入ったままになっていた。
どうやらこの大剣のデータらしい。興味をそそられてそれを読む流悟。そこには大剣の起動方法や機能などが載っていた。
感嘆の声を上げながら大剣に触れる。ヒンヤリとした冷たい感触が心地よい。
「電磁ブレード……か」
それがこの大剣の名前らしい。
通常の大剣状態の他に、刀身部分が割れて鞭状になったり、超電磁砲になったりするみたいだ。
極めつけは鍔に埋め込まれた超次元連結タービンで、これを発動させると、鞘に内蔵された超時空次元システムから無限のエネルギーを引き出して、星をも砕く威力を発揮するという。
ちょっと、盛りすぎじゃね?
大剣の仕様に書かれていた、誇張が過ぎるその表現に、流悟は苦笑した。
実は誇張でもなんでもない、そのままの意味だったことを後々知ることになる流悟。そして彼は、その威力に度肝を抜かれる事になるのだが、それはまだ先の話。
手を触れる。そのヒンヤリとした感触と重量感を感じながら、流悟は大剣の柄に手をかけ、思う。
露骨すぎる……と。
あまりにも露骨すぎた。まるで流悟にこれを使えと言わんばかりのお膳立て。何者かの作為をビンビンに感じた。
だがしかし、彼はあえてそれにのることにした。使えるもの、利用できるものは何でも利用する。それが彼の主義だ。
取説によると、電磁ブレードを起動させるには、超時空次元システムに火を入れなければならないみたいだ。
車のエンジンを始動させる際、まずはセルモーターを回す必要があるのと同じ様な感じらしい、
超時空次元システム、一度火が入れば、後は半永久的に稼働しつづけるようだ。
逆に言えば、初回の起動には膨大なエネルギーが必要となる。
そのエネルギーを流悟の雷で賄おうというのだろう。
「いいぜ、利用されてやる。だがしかし、起動したら、この電磁ブレードは俺が戴くがな」
研究室の中央に、静かに安置された電磁ブレード。その柄を両手で握りなおすと、目を瞑って大きく深呼吸を一つ。
それから、ありったけの雷を電磁ブレードへ注ぎ込み始めた。
グンッ……グンッ
超時空次元システムが雷を吸収しはじめスパークする。
グン…グン…グン
過剰なまでのエネルギーを吸収し続け、輝きを増してゆく超時空次元システム。
グングングングングン
やがて、それは臨界点を突破した。
幾何学模様の輝きが、電磁ブレードの鞘に疾る。
流悟は大剣を鞘から引き抜いた。
この大剣は刀身が長いので、縦ではなく、鞘の横から出し入れするようになっている。
抜き放った大剣は、半月を描いて上段に構えられる。瞑昂を込めると剣が光り輝いた。眩い光り、衝撃が室内を震わせる。それはまるで魔神の咆哮だった。
ビリビリと手首から伝わってくる電磁ブレードの鼓動。これは間違いなくヤバイものだ。はやる鼓動を抑えながら、そう確信した。知らず知らず顔がほころんでいた。
剣を鞘に戻すと、それを背中に押し付ける。そしてそこに雷を発生させて大剣を絡みつかせた。リニアモーターカーのように電磁ブレードを背中に浮かせる。当然といえば当然なのだが、浮かせているので重さは感じなかった。
そして改めて、鞘から剣を抜いた。
大剣を天に掲げ、刀身を眺める。刃部分が、吸い込まれそうなほど妖しく、蒼紫色に輝いていた。
「すげえ・・・カッケーなぁ」
ワクワクが止まらない。流悟は電磁ブレードを手に持ったまま、研究室から外に出た。
試し斬りがしたい。
そんなことを思いながら。
電磁ブレードの妖しい輝きに見惚れながら廊下を進み、突き当りを右に曲がって少し行ったところで、ベルゼバブにバッタリと出くわす。
思わぬ再会にベルゼバブの眼が見開かれる。そして、電磁ブレードを目にした途端、逃げ出した。
ガスルームから消えたと思ったらなぜこんなところにいる?
てか、あのガラクタ起動させやがったのか。
ベルゼバブの頭によぎるクエスチョンマーク。混乱し、もつれる脚を必死に動かす。
そんなベルゼバブを背後から眺める流悟。彼は電磁ブレードを鞭状にすると、ベルゼバブを絡めとって、そのまま近くの壁に叩きつけた。
カエルが潰れた様な、うめき声を上げるベルゼバブ。
「ライジングブレード!」
流悟は超次元タービンを駆動させた。
電磁ブレードがスパークし、刀身が眩いくらいの光を放ち始める。流悟は、電磁ブレードを正眼に構え、ベルゼバブを睨み据えた。
禍々しいほどの輝きを放つ大剣。
ベルゼバブこと蝋乱零次は、その輝きを見つめながら、岩波鷲志と中井博士がガス室作戦を持ちかけてきた時の事を思い出していた。
するとふいに、記憶の中の二人が、こちらを向いて不敵に嗤った。
見開かれるベルゼバブの眼。
自分に向かって電磁ブレードを振りかぶる流悟を見ながら、零次は理解した。
コイツに電磁ブレードを持たせる為に、オレは利用された。のだと……
「大地斬!!」
流悟は振りかぶった光り輝く大剣を、垂直に振り下ろした。真っ向唐竹割りだ。
「シュ~ジーッ!! てめぇ裏切ったなァァァ」
そんな絶叫を上げながら、ベルゼバブは消し炭となって消えさった。
菌鬼:ベルゼバブは死んだ。
輝きを失った大剣を背中の鞘に戻しながら、安堵のため息をつく流悟。超次元タービンは一度使うと、再び使う為には三時間のリチャージタイムが必要だった。
高層ビルから飛び去る流悟を、眺める男が二人。それは岩波鷲志と中井博士だった。
「これで本当に良かったのか」
「モチロン。いいじゃないか、ワクワクするねえ」
鷲志は、先程見た電磁ブレードの威力に胸を高鳴らせた。ベルゼバブの死など全く意に返した様子が無い。
「それでこの後はどうする」
「まだ果実は青い。熟すまではもう少し手入れが必要だな」
鷲志は、流悟が電磁ブレードの扱いに慣れる為に、次はどんな手を打ってやろうかと思案し始めた。
◇◆◇◆◇
その夜
万屋籠目事務所
「おっきい~。何このデカブツ」
事務所の隅に横たえられた、電磁ブレードを眺めながら玲緒奈が言った。
自分の身長よりもデカい大剣に、目を白黒させている。
電磁ブレードがデカすぎてかさばるので、自分のアパートに置きたくない流悟が、紗社美に頼み込んで、事務所に置かせてもらう事になったのだ。
「敵のアジトからかっぱらってきた」
コンビニ行ってきた、くらいの軽いのりで話す流悟に、玲緒奈は詳しい事情解説を要求する。
その夜の万屋籠目は、怪物退治奇談で大いに盛り上がった。
俺たちの闘いは、まだ、始まったばかりだ!! 第一部完
リアルが慌ただしくなってしまったので、連載は一端中断です。
再開した際には、またよろしくお願いします。敬具