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012:接触・邂逅


 エレベーターが開くと、目の前を火の玉が横切った。続いて甲高い悲鳴がフロア内にこだまする。一人じゃない、複数の悲鳴が聞こえた。驚いた流悟がフロアへ飛び出すと、全身が緑の鱗で覆われた身長1m50cmくらいの怪物が複数、炎に焼かれていた。

 反対側には長い黒髪の女が、全身に炎をまとわせて臨戦態勢をとっており、突然飛び出してきた流悟に驚いて目を見開く。


 その女は紗社美だった。

 何者かに式神がやられた為、危険を承知で忍び込んだのだが、待ち伏せを喰らってしまったのだった。


「あんた夜の眷属ナイトライブか」

 思わず口をついて出る言葉。

「何? ナイトライブ?」

 紗社美は怪訝な顔で聞き返してきた。今にも炎を投げつけてきそうな気配に、身構える流悟。

 

殺気を感じて横を向くと、怪物が飛びかかってきた。こちらに向かって伸ばした指先、その鋭い爪が眼前に迫る。

流悟は体をひねってかわすと、目の前を通り過ぎる怪物の腕を掴んで手前に引いた。そのまま独楽こまの要領で回転しながら、後から続く2体目の怪物に叩きつけた。鈍い音を立てて二体の頭がぶつかり、潰れた。


視界が開けると、その向こうにいる怪物たちがしゃがみ込んで何かしているのが見えた。よく見ると、さっきまで後をつけていた黒服男が怪物たちに喰われているところだった。散乱する臓物と鮮血。

 不快感に顔をしかめた流悟が雷を放ち、食事中の怪物たちを始末した。黒墨と化す怪物。

 残った怪物たちは、流悟の雷に恐れおののき少し距離をとった。


「あなた瞑昂使いなの?」

 紗社美が流悟に話しかける。

「メイコウ?」

「その力のことよ」

「瞑昂っていうのか」

 感心する流悟を見て、紗社美は首をひねった。これだけの力を持ちながら、なぜ瞑昂を知らないのかと。


基本的に瞑昂には『地水火風』の四属性しか存在しないと言われている。が、彼女達姉妹は知っていた、瞑昂にはもう一つ、雷属性が存在していることを。

ご先祖様である芦屋道満の手記に安倍晴明が雷を操ったと書かれていた。

祖母はただの法螺話と笑っていたが、紗社美はどうしても信じられなかった。しかし、祖母も父も雷の瞑昂使いになど、今まで一度も会ったことがないと言い、自分自身、これまでの21年間の人生で一度も出くわしたことがなかった。やはりご先祖様の法螺話だとはんばあきらめかけていたところにこれである。


この男はいったい何者なのだ?


脳裏に浮かぶクエスチョンマークが好奇心をかき立てる。

「それで、ナイトライブってなあに?」

「へえ、夜の眷属ナイトライブ知ってんだ」

 二人が声のした方を振り向くと、怪物たちをかき分けて、胸元をはだけたスーツ姿の男が現れた。

「オマエラ何者?」

ニヤニヤ笑い、こちらを見下しながらふてぶてしく問いかけてくるその姿は、生理的不快感をかき立てた。


「ジョーカー」

 思わずそう答える流悟。この間思いついた名前が口を突いてでた。流悟は仮面を持ってこなかったことをちょっとだけ後悔した。

「ジョーカー? ようするにジョンドゥー(匿名希望)っていいたいわけか」

 ふふんと男は鼻で嗤った。

「で、あんたは」

 紗社美に向かって問いかける。

「そうね、クィーンってとこかしら」

 紗社美はからかう様に言った。

「ふざけやがって」

 男の白目が漆黒に染まる。そしてその口からハエが吐き出され、男の体を包んだ。男の体に溶け込んでゆくハエたち。そして男は、蠅怪人に姿を変えた。体をぬめらせ、鈍く光る体は何ともグロテスクだった。。

「我が名はベルゼバブ。この姿を見たからにはもう生きては帰れぬぞ」

 ベルゼバブはクックと笑いながら言った。今までこの姿を見た人間たちは、みな一様に恐怖の悲鳴を上げ命乞いをしてきた。今回もそうなる。ベルゼバブはそう確信していた。


「あれみたいに怪物に変身する人間のことを夜の眷属ナイトライブっていうらしいよ」

 流悟が冷めた口調で紗社美に説明する。

「うげぇ、あたしをあんな怪物だと思ったの」

 顔をしかめた紗社美が拗ねた口調で言った。


自分のことをまるで意に返さない二人の態度が、ベルゼバブの自尊心を傷つけた。

ベルゼブブは不快そうに体を揺すると、

戦闘員(ジンマジマー)

 そう叫びながら空中に胞子を放り投げる。

すると胞子が膨張し、中からさっきの小型怪物が飛び出してきた。ワラワラと現れる小型怪物たち、そいつらは裂けた口から涎を垂らし、不敵に笑った。


 戦闘員(ジンマジマー)と呼ばれた小型怪物達が奇声を上げながら一斉に襲い掛かってくる。圧倒的な物量が二人に向かって押し寄せてくる。

稲妻の轟音が室内に轟き、雷撃が暴れまくった。黒焦げになって悪臭をまき散らす戦闘員(ジンマジマー)

流悟の放った雷によって、戦闘員(ジンマジマー)は一瞬で全滅した。


呆気にとられるベルゼバブ。

そして我に返ると、こんどは魔蠅を放った。

耳障りなモスキート音を立てながら、幾匹もの魔蠅が襲い掛かってくる。その向こうでベルゼバブが高笑いをあげた。

「どうだ、これだけ小さければ雷をくぐり抜けるぞ」

 己の力に酔いしれた、醜悪な傲慢さをまき散らしながら叫ぶベルゼバブ。心の中ではどうやって流悟をなぶり殺してやろうか、更にその先では紗社美を凌辱して楽しむ妄想で頭がはちきれそうになっていた。

 しかしそんな妄想などすぐに打ち砕かれることとなる。

 

 今度は紗社美が炎を展開した。炎が魔蠅を焼いてゆく。紗社美は魔蠅を焼きながら護符を取り出すと、それを焔鴉に変えてベルゼバブへと放った。焔鴉は炎の軌跡を描きながらベルゼバブへと突っ込んでゆく。

迎え撃つベルゼバブは、口から再び魔蠅を吐き出すとそれを手元に集めて大鎌へと変えた。鈍くテカる大鎌。刃にヌメるドス黒いテカりがいかにも毒々しい。

凱風一閃。大鎌が斜めに斬り上げられ、焔鴉を切り裂いた。火の粉を散らして消滅する焔鴉。


更にもう一度焔鴉を放とうとする紗社美に、ベルゼバブが襲い掛かってきた。

「一回死んどくかぁ。殺すぞおらァ」

怒声を上げながら距離を詰めてくる。


 流悟は躊躇った。

 本来ならば、このまま懐へ突っ込んで鉄拳をお見舞いするところなのだが、正直、全身を毒々しい色でヌメテラさせているベルゼバブの体に触れるのは何だか躊躇われた。ひょっとしたらステータスが毒状態になりそうな気がしたからだ。


 そこで雷で作った円月輪を放つ。スパークする円い物体が、ベルゼバブへ向けて一直線に飛んでいった。

 ベルゼバブは大鎌で円月輪を切り裂くと、その勢いのまま紗社美に襲い掛かった。

サッサッサッ。意外に素早い三連撃が左右上から紗社美を襲う。

彼女はからくも二連撃目までかわしたが、三連撃目をかわすことが出来なかった。刃が眼前に迫る。彼女の肝は冷え、ドッと冷や汗が噴き出した。

やられる。

そう覚悟を決めた瞬間だった。敵の大鎌があらぬ方向に弾かれたのは。


目を見開き、口をぽか~んと開けるベルゼバブ。女を血に染めてその媚肉を喰らってやる。そう確信していたベルゼバブは、何が起こったのか一瞬分からなかった。その思考の混乱が明暗を分ける。


流悟の蹴りが再び飛んだ。目が眩むほどの稲妻を纏わせた神速の蹴りが。

吹っ飛ばされ壁に激突するベルゼバブ。プスプスと焦げた嫌な臭いが辺りに漂った。

怒声を張り上げるベルゼバブに流悟の雷鳴円月輪が襲い掛かる。しかしそれは、ベルゼバブの眼前で四散してしまった。


驚く流悟。ふいにベルゼバブの傍らに人の気配がした。ハッと息を飲んで視線を向けると、そこには1組の男女が立っていた。

筋骨たくましい若者と、魅惑のボデイーラインを浮かび上がらせた、ぴっちりとしたニットのタイトミニワンピースを着た絶世の美女。それは岩波鷲志いわなみしゅうじ加藤夏奈かとうかなだった。 


「やるね。なるほど、これが瞑昂使いか」

心底楽しそうに笑う鷲志。そんな鷲志にベルゼバブが情けない声で助けを求めた。

「おいおいしっかりしろよ零次。これから楽しくなるんだろ」

 呆れ顔の鷲志にベルゼバブが叫ぶ。

「俺を戦闘狂のお前と一緒にすんな。早くメディカルポットへ連れてってくれ」

「ふざけんな。俺の楽しみを奪うんじゃねぇ」

そう言うと、鷲志は全身から白い蒸気を噴出して怪物に姿を変えた。

狂鬼バルムンクである。

全身から放たれる殺意のオーラに、思わず2~3歩後ずさりする紗社美。

流悟はその全身で表現される、喜びと自信に満ち溢れた物腰に、コイツは強敵だと確信した。



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