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後世譚〜河の流れの、その先で〜

 久化五年(2023年)4月。京都府内という狭い地域で、日本史を大きく左右する大発見が相次いだ。


 京都御苑南西の端、旧閑院宮邸の東で発掘許可が降りた。かねてより藤原公任が遺した『北山抄(ほくざんしょう)』にて、このエリアの屋敷──東洞院中御門第について度々言及されていたためである。果たして、この発掘調査は大変な成果を挙げた。


 京都市左京区のさらに郊外に、既に廃寺となった寺がある。名を応宝寺と言い、史跡名としては応宝寺跡と呼ばれる。従来は見向きもされないようなマイナーな遺跡であったが、今回の発掘はその認識を大きく改めることとなった。

 先の東洞院中御門第の発掘後、同屋敷の持ち主たる野寺氏菩提寺だったこの寺を調査する運びとなった。掘ってみれば、屋敷跡以上の出土遺物が得られた。


 *>────<*


「…………これを、どう理解しろと?」


 目の前にあるのは、あまりにも大量の出土遺物。A4ほどの大きさの石板150枚。しかもこれは一連の発掘で得られたうちのごく一部であり、総数は未だ判明していない。個人が行うにはあまりの大事業と言え、その内容と共に行動理由の解明が急務とされた。


 だが。


「内容はどれも写本。清慎公記、源氏物語、枕草子、そして野寺氏の日記が全て刻まれている。予想される制作時期は10世期末だからほぼ原本だろうけど……」


 膨大な石板は、屋敷地下と寺の地下に分けられていた。何れも石室を作り、崩落がないように支えも作られていた。かつ石板と石板の間には緩衝材とでも言わんばかりに布が敷かれていたようで、繊維片も検出された。

 石板の文字は大きさが一定で、一枚当たりの字数がほぼ全て同じである。刻まれた日付とともに通し番号と書名も隅に刻まれ、それぞれを混同しないようになっている。


「…………遺そうとしている、よなぁ……」


 小野宮流直系である一条家の伝来品に、来歴不明の文箱があった。平安色を持つその箱は厳重な封印が施されていたが、中身はこの石板群の場所を示すものだった。紙や布は腐食が酷かったが、石刻と象嵌が遺っていた。どちらも同じ文面で、きっと紙の方も同じだろう。噂によれば、応宝寺にも同じ口伝があったらしいが……


 明らかに、異常である。もはや狂気的とも言えるこの遺物群は、果たしてなんのために作られたのか。あらゆる可能性を探っているものの、未だに答えは一つしか見出せない。


「──()()()()()()()()()。でも、なぜ?」


 平安貴族が、己の趣味のためにここまで出来るだろうか。否、明らかに異質である。

 もとより、書物を残そうという気風が無いわけではない。史書や戸籍はその最たる例であるし、歌集なども見方によってはそう言えるかも知れない。

 だが、いずれも「紙として」写本など行ってきただけであり、石に刻んで将来に残そう──なんて発想は起きるはずがないのだ。数年前にSNSでネットスラングを粘土板に刻んだ猛者がいたと思うが、あれは異質だからこそバズったのだ。まして自分の日記を石にする者がいるだろうか? いや、いない。


(──材料が少なすぎる。想像にしかならないな……)


「旦那様、大学の方がお見えです」


「ん、ああ。少し待っててくれ」


 解読箇所に印を置いて、作業を中断する。当分の間は同じことの繰り返しになるだろう。




 もはや遙かなる、我が()()()()。野寺氏嫡流、東洞院家が現当主のこの東洞院義憲が、貴方様の真意に迫って見せましょう。どうか、御照覧あれ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今年の大河ドラマ、光る君へを見てこの物語を思い出し、改めて読み返させていただきました。何度読んでも面白くてすぐに読み終わってしまいました!
[一言] 一気読みさせていただきました♪(〃∇〃) ほうっ……、面白かったです!いろいろ考えました、   ……石板発見時、源氏物語その他諸々はどの程度 パラレル現代に伝わっていたのか、気になります (…
[良い点] 素敵な物語をありがとうございました
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