第四十話〜御代代わりと院の悪癖〜
正暦六年二月二十二日、花山帝は元服を迎えた懐仁親王に位を譲った。史実より9年ほど遅くなったが、ここに漸く一条帝が践祚したのである。なお、何の因果か、弔意などとは関係無しに花山帝は譲位早々元慶寺で出家された。義懐ら近臣も理由不明と言うが、いずれにせよ史実通りに花山院と追号される事になるだろう。
一条帝は即位して直ぐ親政を宣言され、30年ほど前の村上帝以降久しぶりに摂関不在の朝廷が誕生した。御代代わりに際して元号は正暦から長徳へ改元され、私も大納言正三位へと昇進した。
さて、此処からは少しきな臭い話をしよう。法皇となった花山帝だが、やはりというか何というか、早速女遊びに首ったけらしい。しかもその相手が前太政大臣である藤原為光の四女(藤原儼子)らしい。こうも史実通りだと一周回って嫌になってくるのだが……
余談ながら、現在右中弁を務める藤原伊周は為光三女に好意を寄せているとの噂もある。
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「……で、その噂がどうしたんですか? 旦那様が他人の噂を気にすること自体がかなり珍事ですが」
「否定はしないけども。この話は、どっちかと言うとゴシップじゃなくて預言なのよね」
「歴史上の出来事ならそうと言いませんか?」
「良い言葉が出てこなかった」
「はあ。で、何が起きるんですか?」
そう、ここからが本題である。とある姉妹の下にそれぞれ通う法皇と官吏だが、実は互いのことを知らない。よって伊周は、花山帝の目当てを自身の想い人と勘違いしてしまう。そこで彼が採った行動が、事もあろうに武士を率いての襲撃である(厳密には、相談を受けた弟の隆家が実行)。結果として花山帝は無事だったものの、最終的に両名を含む10人が処分を受けることとなった。この一連の騒動を「長徳の変」と呼ぶ。
「なるほど、勘違いからの乱闘騒ぎですか。いつ起きるんです?」
「来年の正月半ばだから、まだもう少し時間はあるさ。はてさてどうしたものか……」
「花山帝に女通いを辞めさせれば良いのでは?」
「あの方は諫言程度で辞める方ではないし、それよりも個人的には史実をなぞって欲しいのよ」
未然に防ぐだけなら、今の朝廷にチクるとかいっそ2人を合わせて誤解を解かせるとか色んな手が考えられるだろう。だが今回の場合、先の政変と違って起きて欲しい理由があるのだ。
「……排斥するおつもりで?」
「直球だねぇ。まあそうだけど」
そもそも、伊周の父親はあの道隆である。今でこそ京外に追い出された過去の人物だが、朝廷には未だに5、6人ほど子息が残っている。何とかして彼等を排除しなければ、真の意味で小野宮流擁護は完了しない。可能なら全員まとめて、と言いたいが、父親がいない以上彼等に後ろ盾は無い。1人でも重罪で左遷されてしまえば、残る人間も退かざるを得ないだろう──史実でもそうだったし。
「……何と申しますか、変わられましたね」
「えっ、そう?」
「ええ。よく言えば野心家、罵るなら調子に乗っていらっしゃる」
「野心家も褒め言葉として怪しくない?」
とにかく、来年のその時までに方策を練っておかねばならない。根本を解消するわけではなく、かつその解決に1枚噛める方法を。




