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第四十話〜御代代わりと院の悪癖〜

 正暦六年二月二十二日(995年3月25日)、花山帝は元服を迎えた懐仁親王に位を譲った。史実より9年ほど遅くなったが、ここに漸く一条帝が践祚したのである。なお、何の因果か、弔意などとは関係無しに花山帝は譲位早々元慶寺で出家された。義懐ら近臣も理由不明と言うが、いずれにせよ史実通りに花山院と追号される事になるだろう。

 一条帝は即位して直ぐ親政を宣言され、30年ほど前の村上帝以降久しぶりに摂関不在の朝廷が誕生した。御代代わりに際して元号は正暦から長徳へ改元され、私も大納言正三位へと昇進した。


 さて、此処からは少しきな臭い話をしよう。法皇となった花山帝だが、やはりというか何というか、早速女遊びに首ったけらしい。しかもその相手が前太政大臣である藤原為光の四女(藤原儼子(たけこ))らしい。こうも史実通りだと一周回って嫌になってくるのだが……

 余談ながら、現在右中弁を務める藤原伊周(これちか)は為光三女に好意を寄せているとの噂もある。


 *>────<*


「……で、その噂がどうしたんですか? 旦那様が他人の噂を気にすること自体がかなり珍事ですが」


「否定はしないけども。この話は、どっちかと言うとゴシップじゃなくて預言なのよね」


「歴史上の出来事ならそうと言いませんか?」


「良い言葉が出てこなかった」


「はあ。で、何が起きるんですか?」


 そう、ここからが本題である。とある姉妹の下にそれぞれ通う法皇と官吏だが、実は互いのことを知らない。よって伊周は、花山帝の目当てを自身の想い人と勘違いしてしまう。そこで彼が採った行動が、事もあろうに武士を率いての襲撃である(厳密には、相談を受けた弟の隆家(たかいえ)が実行)。結果として花山帝は無事だったものの、最終的に両名を含む10人が処分を受けることとなった。この一連の騒動を「長徳の変」と呼ぶ。


「なるほど、勘違いからの乱闘騒ぎですか。いつ起きるんです?」


「来年の正月半ばだから、まだもう少し時間はあるさ。はてさてどうしたものか……」


「花山帝に女通いを辞めさせれば良いのでは?」


「あの方は諫言程度で辞める方ではないし、それよりも個人的には史実をなぞって欲しいのよ」


 未然に防ぐだけなら、今の朝廷にチクるとかいっそ2人を合わせて誤解を解かせるとか色んな手が考えられるだろう。だが今回の場合、先の政変と違って起(・)き(・)て(・)欲(・)し(・)い(・)理(・)由(・)があるのだ。


「……排斥するおつもりで?」


「直球だねぇ。まあそうだけど」


 そもそも、伊周の父親はあの道隆である。今でこそ京外に追い出された過去の人物だが、朝廷には未だに5、6人ほど子息が残っている。何とかして彼等を排除しなければ、真の意味で小野宮流擁護は完了しない。可能なら全員まとめて、と言いたいが、父親がいない以上彼等に後ろ盾は無い。1人でも重罪で左遷されてしまえば、残る人間も退かざるを得ないだろう──史実でもそうだったし。


「……何と申しますか、変わられましたね」


「えっ、そう?」


「ええ。よく言えば野心家、罵るなら調子に乗っていらっしゃる」


「野心家も褒め言葉として怪しくない?」


 とにかく、来年のその時までに方策を練っておかねばならない。根本を解消するわけではなく、かつその解決に1枚噛める方法を。

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