第十五話〜解説──延喜式〜
─ またこれですか。
今回解説するのは延喜式だ。つい先日に施行されたばっかりで、史実通りに動いているね。
これは所謂『三大格式』の一つで……
─ あの、そもそも『格式』とは?
ああ、じゃあそこから説明しようか。
まず初めに、この時代は原則として律令国家だ。つまり『律』『令』に依る国家体制のことだけど、本来はここに『格』『式』が必要だ。厳密に分けられていたとは言い難い場合もあるけど、基本的に前者は律令の修正補足と詔勅、後者は律令の施行細則を定めている。因みに、律は刑法、令は行政法や民法だね。
─ なるほど。では、延喜式があるなら延喜格はあるのですか?
流石美月君、鋭いねぇ。延喜格は60年近く前に施行済みだ。
本題の延喜式は、この格とセットで扱われる。延喜年間に施行された延喜格に合わせて、こっちも延喜式と呼ばれるわけだ。
─ 確かに、今は康保ですもんね。
そそ。他にもそういう例はあるから気をつけるといいかもね。
さて続いてはそのほかの例、つまり『三大格式』の話に入ろう。要するに格式3セットのお話なのだけど、その内一番新しいのが延喜格式だ。他の2つは『弘仁格式』『貞観格式』だね。さて美月君、ここまで3つの格式がこの国に溢れてる訳だけど、これで何が起きると思う?
─ ……分かりません。何かヒントを下さい。
よろしい。ヒント、式シリーズは更新に伴って前の式は廃止されていました。さあ答えをどうぞ。
─ …………ああ、なるほど。格は全部積み重なっているのですね。
そう、その通り。格はなぜか更新しても前のは廃止されず、その全てが並存したとされている。その為に法令の検索が煩雑になって、その簡便化の為に『類聚三大格』なんて書物が作られたりもしている。
─ 人類史は面倒の歴史ですね。ところで、当の延喜式の中身は?
そうだね、そろそろその話にも入ろう。
延喜式は全部で50巻、約3300条から成る非常に膨大な法令群だ。1〜10巻は神道関連、11〜40巻は太政官八省関連、41〜49巻はその他官司関連、50巻はその他諸々って構成になっている。
この中でも第9巻と第10巻には当時の官社──つまり朝廷の管理下にある神社が列記されていて、特別に『延喜式神名帳』と通称される。ここに書かれた神社は式内社と呼ばれ、その数は2861社を数える。
但しこれは飽くまで「朝廷管理下の神社の数」であって、その権勢が届かない所だったり、仏教の影響を多分に受けるような神社は書かれていないことに注意したいね。具体的には、熊野那智大社や石清水八幡宮がそれだ。他にもいろんな区分があったりするけど、長くなるので割愛しよう。
─ 他の巻には、何が書かれているのですか?
第21巻には所謂『諸陵式』、つまり天皇陵に関する事柄が実に事細かに記載されている。これは朝廷の諸陵寮が管理する上で必要な情報群であって、現代の天皇陵治定にも役立っている……はず。確か。
第22巻には「凡諸国部内郡里等名 並用二字 必取嘉名」とある。つまり「全国の郡や里の名前は、全て良い意味になるように二文字使え」ってこと。これによって全ての地名が変更された訳だ。
第24巻は租税の話で、全国の特産品や農水産物が記されている。古代日本の第一次産業事情を知ることの出来る貴重な資料だね。
第28巻は兵部省管轄の宿駅について、五畿七道における402ヶ所の所在と夫々に備えるべき馬の数が示されている。この時代の情報通信を知る良い手がかりと言える。
─ なんかいっぱい出てきましたね。要約すると、つまりどういうことですかこれ。
今のうちに原本読めるだけ読め。以上。
─ 結局学者の好奇心ですか。旦那様らしいと言えばらしいのですが……
まあ読んだところで論文書けないんだけどね。書いても提出出来ないし。残念。
─ はぁ。
美「旦那様の好奇心には、時々呆れますね」
義「酷いなぁ。これでも自重している部類だよ?」
美「……ああ、そういえば教授の方に怒られておりましたね」
義「心当たりが多過ぎるけど、今となっては懐かしいねぇ」




