表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/49

第十三話〜桂川、海の如し〜

 康保三年閏八月十五日(966年9月1日)、私は晴明の屋敷にいた。


「……桂川の氾濫と来ましたか。確かにそろそろ野分の時期です、あってもおかしくないでしょうが……情報元はどちらで?」


「いつも通り、夢とお考えを。実際に起きるかどうか、占えませんか?」


 当然、実際に起きることである。4日後には桂川は決壊し、右京の五条大路から六条大路の範囲は水没する。もとより古代からの暴れ川であるから、先の内裏焼亡よりは信用されるだろう。


「占うのは構いませんよ。まあ義憲殿の情報ですから、大方起きるのでしょうけど。しかし、占って何になさるのです?」


「夢で見るには不吉なものですから」


「……承りました。では、占いましょうぞ……」


 *>────<*


「そうして今に至るってわけよ」


「旦那様はいつも唐突ですね」


 ここはお察しの通り、桂川の氾濫箇所である。前の鴨川氾濫のような光景を呈している。


「今回は動かなくても良いと、旦那様から伺っていた筈ですが」


「堤防の修復とかは山城守殿がやってくれるからねぇ。今回は無事らしいし、お呼びも掛からないと思うよ。それはそれとして気になるから来たのさ」


「野次馬ですか」


「歴史家の好奇心だよ」


 元々この辺り一帯は湿地になっていて、違法ながら農地と化している部分も少なくない。そのため被害者は史実でも多くないと予想される──史料が無いので詳細は不明だが──が、今回はほぼ0人に抑えることができた。


「いやぁ、流石義憲殿。占いの通りでございますな」


「おや、晴明殿。ここにいる旨は伝えていなかったと思いますが……」


「いえ何、うちの式神に探させておりましてなぁ」


(旦那様、やっぱり式神っているんですかね?)


(流石に諜報員とかでしょ……多分)


 どういうルートで探り当てたかはともかく、後で向かおうと思っていたので都合がいいと言えばいい。


「主上への密奏、感謝します」


「いえいえ、義憲殿が取り次いで頂かなければこうも行きますまいよ。お陰で宣旨も容易く出されたとか」


 今回の水害に際し、私と晴明の二つのルートを通じて奏上した(厳密には、晴明は天文博士(てんもんはかせ)であった師の賀茂保憲(かものやすのり)を通じた)。二方向から同じ奏上を受けた村上帝は内侍に宣旨を伝え、蔵人頭から担当の人間に伝えられて宣旨として下された。

 宣旨の内容は右京南部の避難指示であり、これは奏功したと言えるだろう。


「旦那様、これ歴史改変では?」


「うーん、まあそうなんだけどねぇ。史料にあまり残ってない部分でもあるし、大きく変わることもない、と、思う。多分」


「随分歯切れが悪いですね」


「断定出来るものじゃないからね。もとより閑散とした地域だから、後世に多大な影響を与えることはないんじゃなかろうかなぁ」



 本来なら介入するつもりは無かったのだが、なぜ私は歴史を変えたのだろうか。

 もしこれが出来るなら、前回の鴨川でもそうすべきであった。左京は人口も多いし、むしろそちらでこそすべきだった筈だ。ただの気紛れで助けたり助けなかったりが変わるなぞ……


「……なるほど、これが未来人か」


「義憲殿、今何と?」


「ああいえ、何でもありませんよ。ただ、鴨川の時もこう出来たらな、と」


「霊夢を常に見るとは限りません。此度は見て、前回は見なかったと言うだけの話……と考えれば、幾らか気休めにはなりましょうぞ」


「…………」




 私は未来人として、如何にあるべきだろうか。大概のタイムスリップものは歴史改変をしたりすることが多いが、私にそれだけの資格があるだろうか。私は将来起こることを知っている。誰がいつ生まれ、任官し、老い、死ぬか、少なくとも天皇や貴族達のそれはほぼ完全に把握出来る。村上帝の御代代わりの時期も、実頼の死期も知っている。


 私は、どうあるべきだろうか。

美「桂川ってそんなに氾濫しやすいのですか?」


義「古代から近現代まで、むしろ落ち着いてる方が珍しい川とも言えるんじゃないかな。最近の氾濫は2013年だったかな?」


美「なら、護岸とかも古そうですね」


義「5世紀以降に入ってきた秦氏とかによる『葛野大堰かどのおおい』とかが代表例だね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ