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色彩魔法学校-5[ナイトメア]

なんだここ。暗くて憂鬱で、逃げ場がない。どこまでも続いているようで、狭い檻に閉じ込められているようで。湿った空気がまとわりついているというか…。

「いてっ」

起き上がろうとしたら、頭をぶつけた。なんだここ。広くて狭くて。

足を動かそうとしたら、何かがまとわりついてきた。

人の手?

「逃がさない 離さない 」

「許さない 堕としてやる」

「お前なんか生まなきゃよかった」

「要らない子 死んでしまえ」

「出て行くのも許さない お前だけ自由になるなんて許さない」

「私はあなたのために思って言っているのよ」


下を見ると、髪の長い女の顔があった。口ははっきり存在しているのに眼球はない。


蜜柑は血の気がひくのを感じた


太ももや腕にも何かがまとわりついてくるのを感じる。温度は人肌のようなのに、叫びたくなるほど冷たい。

振り返って上を見ると、まとわりついてくる手は数十もあった。洞窟の天井も壁も、目と耳がない人間の顔があちこちについている。


「は…話せよ!俺は行かなきゃいけないんだ!」


「私が守ってあげる あなたのために言っているのよ」


手首までのびてきそうな青白い手を振りほどこうと右手を動かそうとした。腕を掴む手が強くなり、腕を背中に押し付けられる。痛い。肩がおかしくなりそう…。


「手を動かしてはダメよ 次はもっと痛くするから」


勢いをつけて逃げ出そうと思い、左足を踏み出そうとした。

痛い。血が出る感覚。足を見ると、足の甲に青白い手があった。そのツメはありえないほど鋭く、8cm程も伸びていて、深々と足に突き刺さっていた。


「足を動かしてはダメよ 次は二度と歩けなくするから」







桃は右手を伸ばして呪文を唱える。

リコリス先生に当たるならなんでも良かった。初級の教科書に乗っていた呪文は全部試した。

でも、弱くて、遅くて。

リコリスは軸足を動かしもせず、赤の魔法でつくった短剣一本を左手に持って防いでいた。


(当てなくっちゃ…魔法を出さなくっちゃ…じゃないと蜜柑が…)


目から涙がでた。こんなこともできないようじゃ、蜜柑のことを好きでいる資格もないと思った。


リコリスは木の枝に飛び乗って、赤い蝶やヘビを手のひらで浮かべて遊んでいる。

先生の…きれいなRだな…。

「ふふ、桃ちゃんがんばって。情熱があれば乗り越えられない壁はないのよ♡」


補色の緑がきれいにみえるよう…。補色…。


桃は心を落ち着けた。

(私に…任せてくれれば大丈夫。蜜柑…どうか私を信じて下さい……)

周りの木々を見た。

(サポロの山、木、草、みんな、私に力を貸してください…)


桃の周りをきれいな緑色が覆う。

「若木色の精霊よ、我の友を守るため、いま、疾風となり、彼の者の脅威となれ…神木の一閃」


右肩に向かって放ったそれは、深紅のドレスを引き裂いて二の腕に傷をつけた。

木の葉が2つ舞い落ちた。


リコリスは自分の手の平で遊んでいる蝶とヘビから目を離さずに言った。

「合格よ♡ 蒼、やめなさい」


桃は苦しんだままの蜜柑に駆け寄った。

「先生!蜜柑は!?」

「ふふ 自分で出なきゃいけないの。蜜柑君の試練でもあるからね♡」






蜜柑は動かずにに耐えていた。

(…動ける身体あっての将来だ…。動けなくなってしまうほどに傷ついてしまっては、チャンスが来た時に生かせない…。これって、逃げじゃないのかな。機会ってなんだ?自分で切り開かずにチャンスなんてやってくるのか?でも…)

青白い手がゾワゾワと蜜柑の身体をなでる。死人のような顔が蜜柑の耳に息を吹きかける。人肌のようで心が凍る息。

(この状況を打破する方法を考えろ…この化け物に許される行動は瞬きと静かな呼吸だけ……他には何か…ないのか?向こうが喋ってくるってことは、俺の言葉にも反応する可能性がある。さっきは「離せ化け物」って言ったら、殴られたんだっけ…もっと違う言葉…相手を説得するような…何か…)


蜜柑は、桃の笑顔を思い出して、精一杯、優しい声を出した。

「こ…こんにちは」


ふーっ……耳にぞわっとした息があたる。でも、攻撃されたわけじゃない。上手く話せば交渉ができるかもしれない。鼓動が高鳴る。一言でも失敗すれば殴られる。でも動かせるのは口しかない。


「こ…ここは、とっても、素敵な場所ですね」

白い顔が、目だけ動かしてこちらをみるかのように、顔の筋肉を動かした。


「なんだか、蒼先輩らしい、と、いうか…」


腕と足を抑えている手の力が弱くなった。蜜柑は振り返らずに走る。洞窟は入り組んでいたが、出口がどっちなんて考えなかった。ここから離れたい。それだけだ。


洞窟を抜けて、しばらく走った。

ふと周りを見ると、一面、鬱蒼と茂る森。まるで自殺者の森。


「俺、なんのために生きているんだっけ」


風が吹く。

「…はっ、オレ今なに考えてたんだ!?」


自分が怖いな。こんなところに長くいると頭がおかしくなってくる。

くっそ。なんか楽しいこと考えよう。

ここ、音がなくって嫌なんだよなあ。そうだ、声にだそう。


「しかし先輩方、変わり者ばっかだよなあ…レッドグローブさんは異国人で日本文化極め過ぎだし。レモンとバナナ?って双子先輩はキャラやっべえし。なんなんだあの謎のハイテンション」

「それよりヤバいのは蒼先輩だよなあ…ヤバい人オーラビンビン出てたけど、なんだよこれ。これもあの先輩の攻撃かよ。精神攻撃って…。そんなジャンル、アリかよ」


蜜柑は歩きながら喋る。また同じ道だ。ぐるぐるぐるぐる回る。


「あのゼミでまともなのは桃だけなのかな。そういえば桃は元気かなあ。今頃、桃もこれやられてるのかな?もしあいつだったら、さっきの化け物にも優しくしそうだよな。お人好しだもん」

「はあ。リコリス先生の授業は、思ったよりペース早いな。スパルタって聞いていたけど、ここまでとは」


考えることがなくなってきた。でも、なにも喋らなくなったら発狂してしまうような気がする。


「てか、みんな何のために生きているんだろ?レッドグローブさんはやっぱ国のため?なのかな。レモンとバナナは…夢が大道芸人?だっけ。桃は…なんか恋愛ものの小説とか好きそうだよなあ。蒼先輩は…考えたくないな。あのオーラ、まじゾッとするわ。てかあの蒼先輩に対しての双子先輩すげえよな。まじ勇者。コント感すらある。はあ…念願のリコリスゼミなのになあ…」


蜜柑はリコリスを思い出す。

色か…リコリス先生っていえば赤だよなあ。何も付け入る隙がない情熱の赤っていうか…。


蜜柑は立ち止まって、色を具現化してみた。

うーん。これじゃオレンジって感じかな…もっと赤く…これじゃ朱色かな?


…もっともっと赤く…。リコリスのドレスを思い浮かべる

これかな?情熱の赤。赤より紅い深紅。

手元が揺らぐ


…難しいな。すぐ暗くなったり白くなったり。

赤も暗くなると嫉妬や邪悪って感じだよな。明るくなると甘えや依存を表すような色になるし。

赤って難しいな。


蜜柑はエキシビジョンで見た真っ赤なヘビを思い出す。あれ、リコリス先生の魔法だよな…純色の深紅をつくって手から離すか…


やってみたけど、手から離すとすぐ消えてしまう。

難しいな。深紅だから難しいのか?得意な色だとどうなんだろ。





蜜柑のおでこに手をあてる桃に、リコリスは声を掛けた。

「これね、本当は2年の8月の夏期合宿でやる内容なのよ。地方の魔法学校はやらないの。サポロだけ。

夏休みを迎えたらみんな蒼の洗礼を受ける。…蒼君ってほんと逸材よ?呪躯の攻撃によく似ているから、ワクチンとして、みんなに経験してもらっているのよ」


蒼は近くで一番大きな木に体を預けて、眠そうにしていた。





蜜柑はややオレンジがかった赤をつくった。#E65226-赤橙。透明度を0.95まで高めた。

(オレにはこれが創りやすいな……)

蜜柑は座って、朱色の塊を胸にあてる。

落ち着く。僕を照らす、僕の色。


ふと思いついて、朱色を空に投げてみた。そのままで戻ってきた。

リコリス先生のヘビを思い出す。あれはひとりでに動いていたよなあ…。オレがこいつに生命を与えるなら、何を選ぶだろうか。もしレッドグローブさんなら蝶、蒼先輩なら蜘蛛って感じだな…あはは蒼先輩、トラップ得意そう。


…オレなら、そうだな。虚栄に見えてもいいから強くありたいな。牙もほしいし、威嚇もしたいし、飛びかかりたい、それって…そうだな。ライオン?


色が形になった。透明度が1になって、意思をもって走り出す。

行こうか!オレの色!






次に目が開いたとき、目の前に桃の顔があった。

「…え?」

桃の表情がくるくると変わる。…あれ、桃、混乱してる?


「蜜柑くん、おつかれさま♡」

リコリス先生が降りてきた。


「さて、桃ちゃんもワクチンうっておこうか♡」

身構える間もなく、蒼が桃の目の前に来た。倒れる桃。





双眼鏡でそれを見ていた黄色の少女。

「こっちは蜜柑だけじゃなく桃もだ。行儀の悪い新入生へのお仕置きってわけじゃないらしい」

周りに誰もいないのに、誰かと話しているようだ。

「……そうか。やはりゼブラもか………人間相手の戦争はリコリスが協力しないし、黒獣関連ならゼブラは動かない………そうだな。私もそう思う……そう、真実は、いつも一つ!!!」


「なに言ってんすか先輩…」

蜜柑が桃を背負って歩いてきた。レモンはびっくりしていた。

「おや?蜜柑くんはリコリスと戦わないのかな?」

「テレパシーで喋ってたんでしょ?この子たち、そういう特技があるのよ」

「すげえ……」


「じゃ、蜜柑くん♡ 桃ちゃんのことよろしくね?」

「ああ、一度もおろさずに保健室に連れて行きますよ。体力と持久力の訓練なんでしょ」


桃をおぶって校舎へ歩いていく蜜柑を見ながら、レモンは小さな声で言った。

「……先生、これから何が起こるのですか」

「さあ…起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。でも準備だけはしておきたいのよ」


リコリスはため息をつきながら言った。

「私たちが危機と認識したときには、準備のための時間は全くとれない…そんな気がするのよ…」



陽「オレの名前ってなんて読むの?」

水利谷「おいまて。早まるな。ルビにモブってつけられたら、お前、立ち直れるのか?」

蜜柑 (笑えねえ…)

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