色彩魔法学校-3[エキシビジョン]
サポロドームでは中学1年生の戦闘実技試験終了後、エキシビジョンが行われる。毎年たくさんの人が集まる市を挙げての大イベントだ。中学校のゼミPRからはじまり、北島大学の色彩魔法学科の研究成果報告で終わる。
魔法学校の生徒はみんな無料で観覧できるので、蜜柑と桃も楽しみにしていた。戦闘実技終了後、観客席に行き階段を降りる。どこも人で埋まっている。顔を知っている同級生はみんな先輩や一般のお客さんに混じって上手く席をとっている。空席を探して周りを見渡す蜜柑。
「あーあ…戦闘実技の順番が遅いと席どりが不利なんだよなあ…。うーん、空いてる席……」
「あ!あそこ、空いてるよ。前の方」
桃の指差す方に従っていく。最前列に近い。ラッキーと思いながら小走りで行く。途中で陽と水利谷が慌てた顔をしていたので、手をあげて挨拶しておいた。
いい席だ。前も後ろも横も10人分たっぷり空いている。蜜柑は深くフードをかぶった男性の隣に座った。髪はおろか表情もみえない。隣には、背の高い褐色の肌の異国風の女性が座っていた。
なんとなく、蜜柑は隣の席の男に話しかけた。
「こ、こんにちは…」
「……やあ有名人」
思ったよりも低い声だった。
「君は校則を無視して、ゼミ開始前に上級呪文をうちまくることで有名だ」
「へ…えっと…」
蜜柑が戸惑っていると、少し向こうの女が柔らかい笑顔で答える。
「私はレッドグローブ。サポロ色彩魔法中学の3年生デス。隣は蒼くん。一緒にリコリスゼミに所属しているんデス。よろしくおねがいシマスね?」
「よろしくお願いします!」
なんだ先輩か…。しかもリコリスゼミの人の会えるなんて運がいい。いまのうちに仲良くなっておかないと。蜜柑はごまかすように話を続けた。
「い、いや、しかし、知らなかったなあ。中級呪文使うのが校則違反なんて…」
蒼が顔を隠したまま喋る。
「…校則を破らせてから退学を迫るつもるだったのさ…あの腐れ腹黒外道ビ…」
「あらあ、桃ちゃん、蜜柑くん。さっきはおつかれさま」
後ろから聞き慣れた声がした。蒼はさらにうつむいて喋るのをやめてしまった。代わりにレッドグローブが話す。
「城戸先生、おつかれさまデス」
「ふふ」
桃が話す。
「あの、変だなーと思ってたんですよ。こんなにいい席が空いてるなんて。ここ、私たち座っていい場所でした?」
そういえば、と蜜柑が思い当たる。
城戸が答える。
「蒼くんはね、有名人なの。授業にも協力してもらってるから、新入生以外はだいたい知ってる」
蜜柑は感づく。
「あ、もしかして2年前の!神速の!」
「?」
桃の疑問に答えるように蜜柑が言う。
「戦闘実技試験はじまって以来、最短記録であっというまに黒獣を倒した天才中学生2人組!そっか。先輩たちが!」
「そちらこそ、最強難易度の相手、おつかれさまデシタ。状態異常も入りにくい精神攻撃も物理攻撃もききにくい強敵なんデスヨ?」
レッドグローブに褒められて悪い気はしなかったが、一つ疑問が。
「え?対戦相手ってみんな違うの!?」
「そうだよ?」
城戸は悪気なく答える。
「生徒の実力に合わせて相手を決めているの。注目株は決まって順番は最後。あなたたちの試験中もリコリス先生が観客席に防護壁をはっていたの気づいてた?」
サポロドームの広さは全ての演習場もいれると、だいたい中等部の校舎全てと同じくらい。こんな広範囲に防御魔法をはれるなんてすごい人だ。
後ろから双子が手をつないでやってきた。
「おやおや。見知らぬ人がいたぞ」
「おやおや。誰もが道を開ける呪われた剣士に近づく勇者が僕らの他にいようとは」
『さすがは くじけぬ心をもつ勇者とその相棒』
蜜柑と桃は黙って目を合わせる。
「ん?これは。名乗りを待っているな?」
「うむ、我らが名乗るのを待っているに違いない」
「待っているなら、教えてあげるが世の情け!夢は世界をかけめぐるパフォーマー!色彩魔法中学2年!レモン!」
「夢は宇宙一の大道芸人!色彩魔法中学2年!バナナ!」
『二人合わせて!!』
「うるせえ。ガキども。」
うつむいたまま蒼が言う。顔はよくみえないけど、声でそうとう、うんざりしているのがわかる。
「こいつら、そういうお年頃なんだ。周りに人が来ないのはこいつらがウザいからだ。よくわかっただろう」
「あはは!先輩がいつか、ニャーんてニャ!った言ってくれないかなーと思って!」
「あはは!グローブさんがいつか、ソーナンスって言ってくれないかなと思って!」
双子は声を合わせた。
『だって、そうなったら、最高に面白いじゃん!!』
レッドグローブが立ち上がった。
「そろそろ時間デスネ」
蒼、レモン、メロンも立ち上がる。
司会者の声がした。
「それでは、リコリスゼミのPRです」
4人の先輩たちがステージに降り立った。
リコリス先生が空を飛んでくる。蜜柑のすぐ前の席。その手すりに両足を載せて、ステージの方を向いて全ての観客席の前にブン、と魔法を張る。試験のときよりも強い防御魔法。
「それでは、高校生と中学生、合わせて12人のリコリスゼミによるパフォーマンスを開始します♡」
レモンとメロンが手をあげると、ドームの天井近くいっぱいに派手な花火が上がる。
赤、黄、緑。複数の色を一つの魔法で同時に…。歓声があがる。
レッドグローブが赤紫色のゾウをつくる。半透明のゾウがパオーン!とほえる。
蒼が飛んだかと思うと、体全てを包み込むような藍色の球体になる。赤紫のゾウがそれに乗って玉乗りの要領で前に進む
(すごい。色彩魔法で、こんなことができるんだ)
桃はドキドキしながら迫力ある演出を眺めていた。蜜柑はどんな気持ちでこれを見ているんだろう。思わず顔を向けると、目が合った。
(手を繋ぎたい。でも、恥ずかしい)
下を向いてモジモジする桃。蜜柑は再び前を向いてしまう。桃も慌てて目をそらす。演目に集中しようと前を向いた。そのとき。
高校生だろうか。龍に乗って目の前まで来ていた。右手に深紅の小さなチョウを乗せている。それが、崩れて、オレンジのガーベラになった。桃に差し出されたガーベラ。恐る恐る受け取る桃。
その花が弾けて、ヘビの形に。思わず蜜柑に抱きつく桃。蜜柑はオレンジの防御呪文を手に纏って高校生にヘビを投げ返した。それは、そこにいるはずの高校生を通り抜けて、リコリス先生の右手の中で溶けた。リコリス先生の真っ赤なドレスは、よく見ると細かなヘビの刺繍があった。リコリス先生はステージの方へ降りていった。きっとこれからがショーの本番なのだろう。
桃は蜜柑に抱きついたまま動けない。
(こんなことしてていいのかな?でもこうしていたい。)
動けないから思い悩む。いや、悩んでいるから動けない。
陽と水利谷の声がした。
「あっつーい!ラブラブじゃん!」
「青春か…いいな…」
桃が慌てて離れる。
「あああ!ごめんなさいごめんなさい!びっくりしちゃって!!」
二人は10席分ほど離れたところに立っていた。
「おまえらも座れば?ちょうど空いてるし」
「いや…だって……なぁ?」
「うん」
陽と水利谷が顔を見合わせる。
「てかおまえらよくそこ座るよな」
「え?なんかいわく付きの席なの、ここ?」
「いや、席は普通だけど」
少し時間を置いて陽と水利谷がぎりぎり届くくらいの声で言う。
「蒼先輩の近くには普通よらないぞ」
「うむ」
「え、あの黒フードのチビ?」
水利谷が顔を引きつらせた。慌てて陽が言う。
「だめだ、陽!それは、言っちゃダメだ!」
水利谷が後ろを確認して言う。
「いまちょうど、騒がしくてよかった。もし聞かれてたらお前…いいか、フードを剥ぐことと、チビっていうこと。それは絶対にしてはいけない…。絶対だ。さっき3年の先輩の近くに座って話を聞いたんだ。城戸ゼミの人なのだがな…」
2年前の4月。ある人が蒼先輩のフードを取ろうとしたそうなんだ。前々から悪い噂はあったし、生意気で調子に乗っているようにみえるから、からかってみたくなったんだろう。すると、腕が折れそうなくらいの強い力で手首を掴まれ、そのあとは…それはそれは恐ろしい世界に幽閉され、1週間は寝込んだという…
「学校の怪談かよ…」
蜜柑がぼやく。でも水利谷は軍事オタクの真面目な奴だ。冗談で言っているとは思えない。
「まあ、そう思うのも無理はないが、蒼先輩に関しては嘘のような本当の話がたくさんあるんだ。例えば…」
そのとき、次が最後になります、とアナウンスがあった。
陽と水利谷は別れの挨拶も早々に逃げるように去って行った。
パフォーマンス終了後、蒼が戻ってきた。蜜柑のとなりの席に、どかっと深く腰掛ける。
「ねえ、先輩、そのふー」
ブワッと、群青色の殺気が出る。その周りには、とても暗い赤紫の色が滲む。どんどんそれが広がって行くのを桃は感じた。
桃はあわてていった。
「ふ、ふ、ふーせんみたいな魔法!すごいですね!!」
レモンとバナナも戻ってきた。たくさん走り回ったのだろう、大粒の汗をかいている。
「我が魔王の自己防衛の結晶を風船とは!」
「可愛らしくファンシーな表現方法!なんと素晴らしい!」
『私たち、桃ちゃんのこと、とっても好きになったわ!』
リコリスがステージで最後の挨拶をした。
「本日はこれで閉幕…ご覧いただき、ありがとございました♡」