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色彩魔法学校-2[城戸先生の授業と戦闘実技試験]

7日目の実技演習の時間。


「お前ってすごいな!もう20色の魔法を物質化したんだって!?純色の物質化で全色OKでたのって蜜柑と桃ちゃんだけじゃん!」

蜜柑に友だちができた。ちょっとウザいけど、気のいい奴だ。

「陽もがんばらないと、ゼミに行けないんじゃない?」

「あはは。ゼミ行けるやつがすごいんだよ。俺はエンチャントの方で十分かな。なんていうかさ、実力の違いを感じちゃうんだよね」


蜜柑は桃の方を見た。攻撃魔法の練習をしているみたいだ。何発か撃っているみたいだけど、魔法がでないのか、練習用の小さな黒獣はぽかんとしている。周りの女生徒が笑う。

「かわいそうで躊躇しちゃった?」

「えと…えと」

どもっている桃に、城戸が声をかけた。

「気にしないでね。きっとこれからどんどん上達するわ」


桃が相手をしていたのはウサギ型の黒獣だった。凶暴なため厳重な檻に入れられている。つまり、安全な場所から魔法を撃ってみましょう、という練習をしているのだ。黒獣は動物に似ているが、酷く凶暴で人に懐かず扱いにくい。野生の黒獣はその凶暴さから周りの動物をパニックにさせ人里にも被害が出ることがあるので、見つけ次第、殺すか北島大学に連絡することになっている。北島大学の色彩魔法学科では、黒獣の扱い方が体系化されているらしく、生きたまま捕獲して全島の色彩魔法学校の授業で活用されている。


「てか、桃ちゃんって、もともと知り合いなんだろ?もしかして付き合ってるとか?」

少しイライラしてきた。この陽というクラスメイトは、中学デビューでもしたいのだろうか。明るいキャラをつくっている感じがして少し腹立つ。

「…別に」

「またまたー。羨ましいなあ。もう仲の良い女の子がいて」


ドン!という音がした。強い攻撃魔法で黒獣を仕留めたらしい。

水利谷みりたにか。あいつもすごいよな…って蜜柑?」

陽は歩き出す蜜柑の後を追いかけた。







放課後、桃はいつものように声をかけた。

「蜜柑くん、一緒に帰ろう?」

蜜柑は前もって決めておいたセリフを口にした。

「おれ普通に友だちと帰るし。お前も友だちつくれよ」

「そ、そっか。じゃあ、あの、また、明日、学校でね」

「おう」 

桃は切ない顔をして教室から出て行った。






さらに7日後。今週は城戸との個人面談がある。大きな目的は進路相談だが、いままでの授業の様子や小テストの結果を踏まえて、クラス内での順位が本人にだけ、こっそり教えられる。


「まじ!?おまえ2番!?てっきり1番だと思ってたわ!」

陽が蜜柑に言う。

「2番か…でもリコリス先生のところになるんだろうな。あそこって毎年2人だけ、ゼミ生とるんだろ?」

「20年前の英雄、深紅のリコリスか…」

水利谷がつぶやく。

「謎の侵略者、呪躯を1人で追い払った英雄にして、色彩魔法学校の創始者であり、色彩研究のカリスマ。…いいなあ蜜柑は…おれは…3番だった。軍人になりたくて。ここを志望した。正直、蜜柑をみるまではトップをとれると思ってた」

陽があはは、と笑う

「まあ、こんな学校だし、上には上がいるもんだろ?」


蜜柑は思った

(しかし、1番って誰なんだろう?)


教室を見渡す。たしか今日これから、最終実技試験の説明がある。試験説明の時間はあと10分後。慎重に1人でいるときを狙って面談をしている城戸が、そばに陽や水利谷がいるにも関わらず、俺に声をかけて面談をしたってことは…急いでいるから?…もし、これ、順位が低い順から呼ばれているんだとしたら、もしかして、今面談している人が…?






「うんうん。桃ちゃんは保育士になりたいのかあ」

「はい!あの、変…でしょうか?」

「全然?保育士でも色彩魔法は生かせるわよ?きっといい保育士になれるわ」

 桃は下を向いて笑顔をつくった。


「で、成績というか、ここまでの順位ね?あなた一番よ♪」

「ええ!?」

「ふふ、でわね」


 桃が出る。実技試験の説明開始の時間が近い。急いで教室に戻るのだろう。続いて城戸先生が教室を出る。廊下に蜜柑がいた。先生は立ち止まり、蜜柑に笑みを向けた。


「桃の方が俺より上か。……ねえ。聞き捨てならないんだけど、センセ」

「あら蜜柑君、聞いてたのね」

城戸はふんわりした笑顔を崩さずに言う。


「順位なんてあんたの独断だろ?何か桃に入れこむ事情でもあるの?」

「正当な評価よ」

「…あいつ、物質化は純色20色つくれるけど、攻撃魔法なんてひとつもできていない」

「ふふ、微かだけど、できてはいるのよ?」

「…いまはそれでもいいとしてさ。1週間後にはやるんだろ?戦闘実技試験。桃に戦闘ができるとでも?」

「あら?あなたに戦闘ができるとでも?」

「余裕だね」


城戸はわずかに薄暗い笑みを蜜柑に向けた。

「あなたはね、火力は高いけど、命中率が低すぎる。」

「え?」

 図星をつかれて蜜柑は固まった。

「そう…例えるなら、目隠しして銃を連射しているようなもの。危なっかしくてとても扱えない。火力が強い分、命中率が低いのはチームにとってはメイワク」

 教師は下を向いて笑った。


「ふふっ最初の戦闘実技試験は、個人種目ではないの。動き回る幻獣相手。攻撃もしてくる大混戦。もしパートナーに攻撃魔法をあてたらE評価がつく」

「それは」

「そう。あなたの夢を叶えたいならE評価は1つもあってはならない」

「……」


 教師は蜜柑の目をみて笑顔をつくりなおした。

「大丈夫、打開策はあるわ。桃ちゃんと組みなさい」

「え…あんな落ちこぼれ」

「戦闘実技試験は今週の金曜日」

「そんな急に!?組み分けは来週だろ!?」


城戸は蜜柑の言葉を無視した。

「あなたの性急さ、熱っぽさをよくわかって、コントロールしてくれる子、あなた探せるのかしら?いや、つくれるのかしら?桃ちゃんは優秀よ。そう…あなたが大砲なら彼女は狙撃手。力の強いものほど、それを扱える人は限られている。あなたが気取らず自分を出せて、しっかりコントロールしてくれる。そういう人が必要よ。私は担任として、貴方を扱えるのは桃ちゃんしかいないと断言するわ。他の人と組んだら、不可がつくこともね」

「……」


(何が大砲、何が狙撃手だ 俺には桃に手のひらで転がされているのがお似合いだってか!?くっそ!)


釈然としない気持ちで教室に戻ると、別の先生が戦闘実技試験の説明をしていた。慌てて教室に入る蜜柑。

「では今すぐパートナーを選んでもらうぞ、5分で決めるように。」

ざわつく教室。


陽と水利谷が蜜柑をみた。蜜柑は立ち上がって桃のところにいく。

「あのさ、桃…桃さん、俺とパートナーくんでください」

周囲の生徒がはやし立てる。

「えー、蜜柑君いいなあ、私も狙ってたのに」

「やったね!桃!あの蜜柑君がパートナーなら実技突破まちがいなし♪」

「あはは、蜜柑君やっさしー!」


何と言われようが蜜柑は気にしなかった。これも夢のためだ。俺は夢を叶えるためなら、なんでもやる。桃は両手を頬にあてて少し下を向いていた。



実技試験の敵は絶対に教えてもらえない。待機部屋から二人ずつ抜けて行く、最後まで残ったのは、蜜柑と桃だ。


サポロドームは本日のみ、1年生の戦闘実技試験、つまり黒獣相手の闘技場として使われる。

(なんだよ、これ)

蜜柑は敵をみて、ゴクリと唾液を飲み込んだ。敵は高さ8mはある、巨大なカメだった。黒くて巨大なカメが、甲羅を浮かせてくるくると回している。その場で素早く方向転換をしてみせて、今にも突進してきそうだ。


(こんなの、みんな、どうやって倒したんだ?)

実習で相手したような、ウサギやハトのような黒獣とは違う。なんだこれ、なにこれ。

おれ、いまから、こいつと戦うの?


城戸先生がスタート!と合図をする。

さっそく、巨大なカメは突進してくる。

これ、このまま受けたら死ぬか?

わからないけど、とにかくやるしかない。命中させられるかな。

不安だ。でもやるしかない!やられるまえにやれだ!

「赤黒き劣情の炎よ……」

 桃が蜜柑の腕を抑えると共に、すばやく呪文を唱える。


「青き防御!」

敵が後退する。

「緑のバリア!」

 身の安全が確保された。蜜柑はあっけにとられる。

 こんな状況でこんな冷静に、こんな色々魔法うてるなんて…こいつ…すげー

「黒き鉄柵!」

 怪獣の動きが完全にとまった


(あとはとどめを……)

「あ…赤き槍!」

 怪獣は無反応

「お…オレンジの弓!!!」

 また無反応

(……?)

蜜柑は目を凝らす。桃はたしかに魔法をうっている。そうか。こいつ、攻撃魔法がうてないんじゃない、打っても弱すぎて効果がないようにみえるんだ……。こいつ…こいつ…落ちこぼれかと思ってたけど……全部の魔法使いこなしてるんじゃねえか…。あああむかついてきた。あのくそ教師の言う通り、俺がこいつより下だと!?認めたくない!認めたくない!!!


「桃さがれ」

「え」

「俺の見せ場!」

「は!はいいい!」

「赤黒き劣情の炎よ目の前の敵をのみこめえええええ!!

 バーニン!ダークレッドドラゴン!」




観客席。フードを深くかぶった背の低い男。その隣の異国風の女。そのまわりに教師が集まっている。


「…一撃必殺」

「ひさしぶに、みましたね。」

「ええ」

「実技評価、ランクSね。ペーパーの結果も良かったんでしょ?」

「二人ともいつも満点です」

 おお…と声が上がる。

「あの一撃必殺の男の子、強いなあ。心が強い」

「あれも冷静な女の子の判断あってでしょう。はじめは心に焦りが見えましたもの」

「こりゃクラス分けが楽しみ……」


「うふ 優秀ね♡」

「リコリス先生!!」

胸が大きく開いた深紅のドレスを身にまとい、リコリス先生が現れた。20年前の呪躯大戦で活躍した、一騎当千の英雄。色彩魔法学校の実質的な建設者。色彩魔法の研究者としても知らない人はいない、超有名人。色彩魔法を学ぶ全ての人の憧れ。


「蜜柑くんに桃ちゃん♡ 二人セットで私がもらうわ」

教師たちは落胆した。みんな自分のゼミに優秀な学生がほしいのだ。

「え…蜜柑くんは最上級職を目指しているので喜ぶとは思いますが……」

「ですが?」

「その、桃は、あの、」

 リコリスにだけ聞こえるように耳打ちをする

「保育士になるのがその、夢と…」

 あはは!とリコリスが笑い出す。

「そんなの、私のクラスにくれば変わるわよ。ふふ、あの子……私好きだわぁ♡」

 ヘビのような鋭い目になる。男性教師はゾッとした。

「じゃあね♡」


リコリスは立ち去った。フードの男の子と異国風の女も共に立ち去る。それを確認して教師が言う。

「ずるいよなあ、リコリス先生。本来ゼミ生の獲得は教師全員に選ぶ権利があるドラフト制。被ったら生徒が選ぶ、なのに、ああやってこっちに来て牽制していくんだからさあ。卑怯だよ」

「そうそう。優秀な生徒が集まっているもんだから、成果も高くて俺ら太刀打ちできないじゃん」

「俺、桃ちゃん、指名しちゃおうかなあ」


「だ!だめです!」

仕事を終えて、観客席まで戻ってきた城戸が言う。

「あの二人は引き離しちゃ絶対だめです!!!」



 廊下を歩きながら、リコリスはつぶやいた

「そうそう♪あの二人はセットじゃないと価値がない♡ ふふっ」



今日の実技試験、怖かったけど…なんか楽しかったな。

やっぱり蜜柑君と一緒に組めたから、楽しかったのかな?

桃は城戸に言われたことを思い出す。


(蜜柑くんへの感情の色か…)

桃は考える。…あのときより、少し、鮮やかになった感じがする…かな。

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