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色彩魔法学校-15[呪い]

空気の抜けた風船のようにしぼんだ敵。

(なんで俺だけが。なんで俺だけこんな思いをしなきゃならないんだ)


その化け物は陰惨に泣いている。憂鬱に、鬱蒼と、暗いオーラと涙を垂れ流している。


蒼 が急かす。

「行こう。あいつにもう敵意はないよ。絶望に染まって泣いてるだけだ」


桃だけがかすかに声を聞いた。

「ユルサナイユルサナイ」

「おれがいままでやってきたことはなんだったんだ?俺は何のために生きてきた?欲しい欲しい。俺が生きた証が欲しい。俺の命の全てを使って世界に爪痕を残したい」


桃は覚悟の色を感じた。体を動かす。ゼブラのときには動けなかった、体が動いた。


蜜柑。私、あなたを助けられた。やっと、私のなりたい色になれた。


瞬間、黒い矢が桃に当たった。左肩から黒い呪いが侵食して、黒い魔法陣のようなものが描かれて行く。


蜜柑の時が止まった。


桃が話す。

「蜜柑。好きだよやっと、言える。わたし、やっと、蜜柑に告白できるわたしになれた。あのね」


蜜柑は蒼、レモン、バナナ、レッドグローブを見る。みんな何も言ってくれない。

縋るような思いでリコリスを見ると、聞いてあげなさい、と言われた。


「あのね、私、蜜柑が好き。大好き。愛してる。私、蜜柑のこと幸せにしたい。辛いことや苦しいこと、一緒に経験して、それで、笑ってもらいたい。一緒に笑いたい。私、蜜柑と一緒に幸せになりたい。私が幸せなとき、蜜柑にそばにいてほしいの」


蜜柑の目から涙がこぼれた。

思わず、声が出た。


「俺、おれ、桃が好きだ。ずっとずっと好きだった。本当はいつも、離れたくなかった。ずっとそばにいたかった。おれ、桃のこと幸せにしたい。何か新しいことをするとき、間違ったとき、成功したとき、お前と分かち合いたいんだ。おれ、桃がそばにいないと、本当に幸せだと思えないような気がするんだ。おれ、桃が好きだ!」


なんだろ、この感情。熱はそのままで、あったかくて、やすらぎがあって、幸せで、少し暗い青さえ飲み込んで。複雑で、まちがいとか、そんな概念さえ覆すような。


あぁ、すごい。こんな気持ちになれるなんて。

おれ、いま、桃と全く同じ色をしてるみたい。




視界が変わる。


なんだろ。ここ、あったかくて、気持ちいい。天国?違うなこの色。


この色は…桃だ。そう、桃の色だ。


なんだろう。蒼のナイトメアとは違う。

双子のいう、シンクロの世界?

歩いていく。足跡が鳴る。


ふうん、シンクロって足音もなるんだ。


歩いて行くと途中から場面がかわる。

黒と白と灰色の絶望の配色。でも、この先に桃がいるような気がする。行こう。





蜜柑も桃も動かない。体から色が抜けて灰色に近づいていく2人を見て、レモンとバナナが言う。

「桃だけじゃなくて蜜柑まで」

「ウツるのかもな」

「次に目を覚ましたとき、呪い骸になってたらどうしよう」

「ゾンビみたいに僕らも呪い骸になっちゃうのかな」


レッドグローブ が言う。

「先生、ここは2人から離れた方が賢明デハ」


蒼がレッドグローブの前にでた。

「俺は諦めないよ。桃と蜜柑が犠牲になる終わり方なんて絶対に嫌だ。俺が桃の精神に入る。引っ張り出してくれ」

「無茶ナ!」


レッドグローブに続いて、双子も止める。

「中二病かよ!」

「蒼!今までさんざん、魔王と言ってきてなんだが、僕らは人間なんだ!」

「いや、中二病の魔王は大好きだが」

「ここは現実だ!現実をみろ!」


レッドグローブはリコリスを見た。リコリスは何も言ってくれない。


レモンとバナナは言葉を続ける。

「蒼は魔王だろ!」

「人外の残虐さと冷たく切り捨てるところが君のアイデンティティだろ!」

『命を賭して人を助けるなんて貴方らしくない!!』


リコリスは蒼に向かった。

「蒼。あなたとレッドグローブを黒獣オリハルゴンと戦わせたのは、あなたに身の程をわからせるためだった。なのに、威圧だけで動きを止めて、レッドグローブの睡眠魔法がかかったとはいえ、夢の中に入って黒獣を殺してしまった」あの残虐さ、冷たい色。あのときの強さを少しも損なっていないのに、どうしてこんなに美しい色をもてるようになったの。」


リコリスは髪をかきあげた。

「きっと、桃のおかげね。桃なら少し手伝えば、蜜柑も一緒になんとかしてくれる気がするわ」

そうだ。この若い時期は、やる気と気合だけで、不思議となんとかなってしまうのだ。


「わかった。蒼の意見を採用します。レモンとバナナは、蒼の精神が崩れないように支えて」


『正気かリコリス!?犠牲者が増えるだけだぞ!?』


レッドグローブも覚悟を決めた。

「 レモンさん、バナナさん!私からも!お願いします!」


レモンとバナナが顔を見合わせた。

「わかった。わたしも勇者になろう」

「うむ。世界を救ってやる」

「先輩と後輩の不幸を見て見ぬ振りして生きたとして」

「私たちは幸せを感じないだろう」

「僕らは創作の世界でも幸せでいたいけれど」

「現実が幸せじゃなきゃ冗談を言う意味も薄れる」

「幸せのためならなんでもするが僕らのモットー」

双子は深く息を吐く。

『協力するが、僕らは世界一の大道芸人になるまで死にたくないんだ。君らも手を貸してくれよ?』





蜜柑は白と黒の樹海をぬけて、崖の多い灰色の荒野にきた。

(桃は?どこだろ?)


ずいぶんと黒くて深いところまで来た。きっとここに桃がいる。歩いていくと波の音がした。


なんだあいつ?カメレオンのように大きくキョロキョロ動く目。二つに裂けた舌。とにかく気持ちが悪い。

顔はどう見てもカメレオンだけど、全体的な体格は人間に似ている。体が半透明なのか?とにかく背景と同化していた追いにくい。でも見失ったら終わり…。蜜柑は慎重に跡を付けた。


カメレオンは桃を抱きかかえて、どんどん黒い道に降りていく。カメレオンは崖を飛びおりた。


「くっそ!桃をどこへ連れて行く気だ!」

蜜柑も仕方なく飛び降りる。


カメレオンは、船にのって、墨汁をこぼしたような真っ黒な川を下る。仮面の呪骸が船を動かして行ってしまう。


蜜柑も船に乗ろうとするが、仮面の呪い骸はどいつもこいつも言うことを聞いてくれない。

途方に暮れたそのとき、後ろから肩をつつかれた。目と口を縫い付けた呪骸が蜜柑を船に乗せて桃を追う。


川は沼にたどり着いた。広くもない。深いだけのゴミだらけの沼。呪い骸は、桃にその辺に落ちていたであろう、空き缶やペットボトル、お菓子の空き容器を巻きつけて沼に沈めようとしていた。


(やっと追いついた)


蜜柑はカメレオンを殴った。倒して殴ってもカメレオンは俺に纏わりついてくる。それを殴って、蹴って、ふりほどいて、歩いた果て。


顔だけ水面に浮かべている桃をすくい上げる。いまもなお、桃にまとわりつく、カメレオン。桃に触れられないよう、それを蹴っ飛ばしながら、川から遠ざかる。ずいぶん、暗くて、深いところまで落ちてきちゃったな。1人では登れそうにない。


大丈夫。きっと、誰かがなんとかしてくれる。信じて待とう。


何度目かの瞬き。その瞬間。世界が変わった。

灰色と黒だけの世界に群青色が足された。崖の一部がガラガラと音を立てて崩れ、穴があいた。洞窟の先には緑色がみえる。


蜜柑は目を覚まさない桃を抱えて歩き出す。


(蒼先輩…ありがとう)


徐々に蒼が緑の道に。緑の道が黄色に。黄色の中に紫が光るそれを掴む。赤の蝶が舞う。ここなら…帰れそうだ!情熱があれば成し遂げられないことはない。そうだろ?リコリス先生!


カメレオンがくる。


「しつこいなぁ!」と言って追い払う。

「おまえは行けねえんだよ!」


3度目に振り払ったとき、右腕が掴まれた。掴んだのは桃だった。

桃は、その手で蜜柑の手を握り、反対の手でカメレオンの手を掴んだ。


「みんなで一緒に帰ろう?」


蜜柑はカメレオンの手を取った。3人で手を繋ぐ。どうしてあのとき、あんな優しい行動をとれたのかわからない。でも、もしまた同じことがあったら、同じように手をとるんだろうな。



リコリス先生がレッドグローブと一緒に、蒼の中から蜜柑をひっぱりだした。






ここはどこだろう。病院みたいだな…

蜜柑は目を覚ました。


呪躯の拠点が島ごと消失して、太平洋に漂流しそうなところを若葉が船で迎えにきてくれたらしい。


研究員たちが話しをしている。

「同じ色のシンクロが不治の病も直す治癒術となる」

「それが道連れの死の呪いさえも浄化したのだろうか」


リコリス先生がプロフェッサーのことを研究員に尋ねている。プロフェッサーはトマコに残っているらしい。


「あら、蜜柑。目が覚めたのね」

「桃は…!?」

「生きているわ。この船に乗っている」

俺はほっと胸を撫で下ろした。桃が生きている。

「蜜柑君、ちゃんと聞いてね。呪いは印となって残るわ。向こうも命をかけたものだから、呪いは重いのよ」


「まず、トマコに帰りましょう」


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