色彩魔法学校-12[フードをとる]
これは夢?いつの…?
私は船でトウトから遠く離れた諸島に向かっていた。
「ごめんね、ちょっと見せたいものがあって」
船は進路をそれる。
前方から鬱屈した感情の色を感じて、友人に言ったら
「ああ、やっぱりそうなんだね」
と暗い顔を向けられた。
友人は何も言わず、ライフルを取り出してその集団に向けて打った。
「なんてことを…!」
「…当たらないのよ。」
「え…?」
「素通りするの幽霊みたいに…」
友人は苦々しげにライフルを見た。
「あいつら少しずつトウトに近づいてきていてね。早めに対策しておきたい。」
「…彼らは何なの?」
「あなたの方が詳しいんじゃないかしら」
私は彼らを見たと同時に、彼らが欲している色を手に纏った。
「それ、物に纏わせることもできる?」
初めての試みだった。でも、私にとっての数少ない友人をがっかりさせたくなかった。彼女から差し出された小さな金属に願いを込める。どうか彼らの救いになりますようにと。
それが目に見えるほど力強く色をまとったのを確認して、友人はそれをライフルに込めて撃った。
いま考えれば当たり前なのだが、撃たれた彼らは、すごく怯えていた。
「…ずいぶん懐かしい夢」
リコリスは目を覚ました。
リコリスはレッドグローブに話しかけた。
「蒼の様子はどう?」
「その、一人になりたいと。私、蒼にムリさせたくないデス。といっても、多分、またチカラになってくれマス。その、隠れて武器の、生成とか練習してましたし」
『なるほど、キャラの方向性を見失い、新しい方向性を模索しているのか』
「あの陰キャを生かして忍びの道にすすむに違いない。魔法はそう、チャクラを用いた沙遁の術。額に赤字で愛の字を入れ、砂の入った瓢箪を担ぎ……」
「いやいや戒言を取り込んで魔人王になるに違いない。魔法はそう、ザ・ルーラー!!チートな強さを手に入れた代償として、人格が変わることを覚悟しておかなければ…」
双子は互いに絵を描いて見せ合っている。
蒼がいないと、双子の会話に終わりがない。ゆえに放置するしか方法がない。
桃がリコリス先生をみつけて話しかけた。
「先生どうしよう?敵が2方向から同時に向かっています」
「強い敵がいるのはどっち?」
「えっと…では空からやって来る方…かな?数もすごく多い。300はいると思います。反対の方は、数が…5つくらいだけどあんまり大きな気を感じません」
「すげー。桃はそんなことまでわかるのか」
蜜柑が口を挟んだ。
「じゃあ私は空の方にいくわ」
「え、先生一人で?でも数もすごいし、こっちも二手に別れた方が」
「いえ、私一人に任せてちょうだい。もう一方もただ弱いだけとは限らない」
「先生!未来編の雲雀さんみたいな格好よさ!」
「戦闘が終了後に合流したら中学生に戻るんですか!?」
『10年バズーカがあれば!可能!!』
双子のレモンとバナナが茶化した。
「あは♡私は若返りたいなんて思わないわよ。若いから可能性があるなんて私は思わないわ。人の数だけ可能性があるだけ。桃、もう一つはどっちの方向?」
「あっち…。」
「じゃ、ここで待ち構えて迎え撃ってちょうだい」
『了解!』
動かず待っていると、敵がかすかに見えてきた。5体。小さいの4つと大きい1つ。デカイのは俺がやるぜと蜜柑が張り切っている。
桃が目をこすっていた。
「あれ?なんだろ?」
「どうしたんだ?」
「なんかね。4体は色を薄める呪文つかっている気がする。」
双子が叫んだ。
「ステルス!」
「謀略の知将めが!」
『リコリスを遠ざけて僕らを確実に仕留める作戦か!?』
(私がそこまで見抜けてたら…)
どうしようと焦る桃を蜜柑と双子が励ました。
「倒すしかねえだろ!桃。」
「うむ、安心しろ」
「リアル6弔花はいなさそうだ」
『敵は白蘭ただ一人!!』
蜜柑は笑顔を崩さずに思った。
(蒼先輩帰ってこねーかな。正直、双子先輩のノリが辛い。ビャクランってなんだよ)
蜜柑の攻撃でステルス役の4人は瞬殺。しかし、残った敵が厄介だった。いままでと違う精神攻撃が得意なタイプ。広範囲に渡る攻撃でレモンとバナナが先にやられた。
「あぁー。やばい」
「うぁー。僕らは」
『ナイトメア攻撃が弱点』
パタと倒れた双子に蜜柑がつっこんだ。
「蒼先輩のワクチン打ってるんじゃなかったのかよ!!」
双子が倒れながら喋る。
「…。これ魔王のやつより強い」
「そう、これ、魔王よりつよいナイトメア」
「そりゃそうだ。魔王よりつよいやつでてきたから、魔王が無能になったんだから」
「魔王ー。雨の日の大佐かよ。」
「こりゃ真理の扉に失明させられるなぁ」
レッドグローブが双子を無視して言う。
「蒼が寝込んでいてよかったかもしれマセン。精神攻撃タイプは精神攻撃に弱いの。
きっと彼らより蒼のほうが精神攻撃に弱いデス」
蜜柑も攻撃するが物理的に硬いタイプで。押される。倒せそうにない。レッドグローブに補助呪文をかけてもらって応戦するが、分が悪い。
桃がテントに走った。
「桃さん!?何ヲ!?」
「私達だけじゃ倒せない!」
「えぇ。先生が来るまで耐えまショウ!」
「それじゃもたない!」
「もっと防御ヲ!!」
「蒼先輩がもたない!!」
「え?」
桃は制止するレッドグローブを振り切って、蒼のいるテントに走った。
蒼は頭を抑えて苦しんでいた。遠くまで離れていたが、その余波は、敏感に蒼を捉えていた。脂汗をかいて、のたうちまわる蒼。
もう、防御を貼る余裕もなくなってきた。おれ、ここで死ぬのか。みんな、帰ってきて俺が死んでたら、びっくりするかな。レッドグローブは…もう、俺以外にも仲間がいるから、安心だよな。もう、いいかな。あぁ。精神攻撃で死んだら廃人になるんだっけ。
蒼は廃人になった自分をイメージしたが、今とたいして変わらないように感じた。
桃の声がした。
「蒼先輩!手伝って!」
俺は思う。
(煩いな、蜜柑が倒すだろ。)
「蜜柑じゃ勝てない!硬すぎる!蒼先輩にしか倒せない!」
(俺は頭がいてえんだ、黙ってろよ。蜜柑が倒すだろ。)
蜜柑の叫び声が聞こえる。
「レモン先輩もバナナ先輩も、はじめの一撃で倒れたんです!眠りも麻痺も効かない!!物理攻撃もきかない!!」
(へぇ。蜜柑も無能か。先生は遠くに行ってたな。てことは。誰もいないから俺に泣きついてきたのか)
ドーン!と響く地面にさっきより大きな蜜柑の叫び声。
「先輩!絶対来てくださいね!」
桃がいなくなった。
様子だけ見に行くか。蒼は少し時間をおいて、立ち上がった。
戦場は散々。相手のやりたい放題。
(ステルスタイプにしてやられたな)
レモンとメロンが息も絶え絶えに話している
「あいつ硬すぎる。メタルボディかよ」
「おなかの中は経験値いっぱい。だけど」
『会心の一撃がでないと倒せない!!』
蒼は双子のおしゃべりに辟易した。
再び、広範囲の敵の精神攻撃。双子が倒れる。どうした、大丈夫か!?とボロボロの蜜柑がこちらを心配する。
双子が喋った。蒼が来たのに気づいていないようだ。
「いやいや、なんで君たち大丈夫なんだよ」
「メンタルのバケモノめ」
「僕らはふつーに、怖いの嫌いなんだ」
『幸せになりたい……』
黙る双子。しゃべる体力もなくなったらしい。
敵は蜜柑を狙っている。両手剣を担いでの肉弾戦。蜜柑は、何度向かっても、弾かれる。
蒼は武器をつくった。青紫の短剣。蜜柑の横に立って共に戦う。
「え!?蒼先輩、大丈夫なんですか!?」
「双子が黙ったから出る気になった」
リコリスは空から自身を生徒から引き離す敵の罠を知った。
「ナメんじゃないわよ!弱点が違っても数が多くても、すぐに片を付けてやるわ!」
「ー虹花火!」
7色の光線が10秒で300の敵を撃破した。
(蜜柑と桃、蒼、レッドグローブは大丈夫かしら…思ったより遠くまで誘導された…。はやく戻らないと)
ついに蜜柑は気絶した。双子のおしゃべりも聞こえない。蒼が一人で戦っている。
が、敵は硬い体をもっている。攻撃は細いたくさんの足ではじかれ、蒼も木にぶつかる。その木が倒れて、蒼の体も崩れ落ちた。
(やっぱり、僕じゃ倒せない…)
蒼は、後ろを振り返って蜜柑を見た。
敵は蜜柑をねらってくる。蒼は蜜柑を守るように、体をひきずって敵に立ち向かった。少しずつ押されている。こんなの、時間稼ぎにしかならない。疲れた。あちこち体が痛い。昔を思い出して不快だ。
服もボロボロ。破れたフードから、忌々しい白い髪がのぞいている。
(見た目気にしてらんない)
僕は何のために戦っているんだっけ。
蜜柑のような情熱もなく、僕はいつだって、僕だけのために学び僕だけのために人を利用し、僕だけのために生きてきた。そんな僕が蜜柑を守ろうとする。それって、結局、自己満足のため?
桃が蜜柑のそばについて何か言っている。
桃。まだ蜜柑のそばにいるのか。巻き添えを避けるには、離れておくのが合理的だ。ノースランドは世界のための囮で、サポロ色彩魔法学校はノースランドのための囮で、リコリス隊はサポロ魔法学校のための囮で、蜜柑はリコリス先生の囮だ。なんで桃はあんな非合理な行動をとっているんだろう。
蒼は時間がゆっくり流れているのに気づいた。あれ、これって、走馬灯かな?じゃぁいっか。ゆっくり考えても。ねえ、桃。君はなんで蜜柑のそばにいるの?せっかくの走馬灯だし、桃の感情でも読んでみるか。あったかいな。蜜柑のオレンジににてる?いや、リコリス先生の真紅?いや、違うな。これはもう少し。
「蒼!あなたなら倒せる!あなたにしか倒せない!」
声が届いた。走馬灯状態って便利だな。でもリコリス先生が戻るまでの時間稼ぎだから、時間は早く流れてくれた方がいいんだけどな。うまくいかねえな。
はぁー。僕にしか…倒せない…。か。どうせここでみんな死ぬなら…試してみるか。
蒼は、すごく自然に、敵に近付いた。蒼以外の時が止まっているのか、敵は、何も抵抗しなかった。自然に、蒼は敵の白い画面を剥いで、その醜い顔を両手で包み込んだ。
僕にはわかるよ。君の苦しみが。僕が背負うから、君はもう苦しまなくていいよ。
なぜか、そう思った。
次の瞬間、敵が消滅した。
「勝ったーー!」
と声がして、桃とグローブが駆け寄ってきた。蒼は照れくさそうに下を向いた。
リコリスはそこだけを空から見ていた。
(成長するのは、私や桃だけじゃないってことね…。ゼブラ…いけるかもしれない。このまま敵のトップを叩けるかも……)
しばらくしてレモンとバナナが目をさました。
「あれ、闇の帝王がフード脱いでる」
「あれ、身を隠すのをやめたのか我らが魔王よ」
『陰キャラ卒業、おめで…』
「殺すぞお前ら」
蒼が凄んだ。前より強い気迫にあてられて、双子はお互いを抱きしめてブルブルと震えた。
レッドグローブは一人うつむいていた。世話を焼いて甘やかして救った気になっていた自分を恥じた。




