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色彩魔法学校-10[特攻隊]

午前3時。ゼブラはリコリスを連れて研究林に向かった。

陽から報告があった場所の地面には黒い魔法陣のようなものが確認できた。

リコリスは顎に親指を添え、細い人差し指の真ん中を噛んだ。

「呪躯の仕業ね……」


リコリスは膝を地面につけて魔法陣に触れた。

「これ…厄介よ?」

「消せないの?」

「私にはどうにも…」

「そうか。その件はプロフェッサーの方が詳しいかもしれない。リコリスは明朝に備えることを最優先に…」


リコリスは空を仰いだ。

「…そうね。これ、良くないもの、ということは確かよ」

「もしかすると、大学や高等部が同時に封印されたのは、こういう下準備をされたからなのかしら?」

「さあ…そこまではわからないけど。直感だけど、この場所が呪われた、という感じがする」

「便宜上、呪印とでも名付けるか…明日から、呪印が他にないかトマコから範囲を広げて調査しよう。」


プロフェッサーも来ることだし…と言いかけて、ゼブラは陽気な調子で話した。

「しっかし、警棒持たせているのに木の棒で戦うかね?陽ちゃんは…」

「昨日はじめて触ったものだったから、手に馴染まなかったんじゃない?小さな頃に自然の中で遊んでいたなら、そっちの方がしっくりくるのも頷ける…」

「中学1年生のおこちゃまだもんね」

「ゼブラの使えるもんは使おうって精神には毎度、頭が下がるわ。」

「ふふ…。限られた戦力で被害を最小限に抑えるには、一人一人に全力を出してもらわないといけないのよ」

「怖い人。だからプロフェッサーに嫌われるのよ」

「ははは!私1人が嫌われて上手くいくなら、本望よ!」






4時。リコリスが言う。


「トマコから南に10kmのところに、敵の本拠地を確認したわ。これから私たち6人とプロフェッサーで攻め入る。ゼブラはトマコ防衛の総監として指揮をとるそうよ。私たち特攻隊の生存確率は…10パーセント。私も含めてね。私と一緒に最前線に行くのは…」


リコリスの言葉を遮って、レモンとバナナが立ち上がって胸に拳を当てた。

『心臓を捧げよ!』


「行くしかないんだろ」

「蒼が行くなら、もちろん私も行きマス」

「俺も行きます!」


桃は蜜柑を横目で見た。すごく真剣な目をしていた。

「私も…」

「桃はゼブラについていてあげてちょうだい。総監からそういう司令がでている。軍令には従うものよ。」

「いや!私も行きます!」


リコリスは桃の目をじっと見た。

「最前線よ?辛いものも見るわよ?」

「私はー前線で戦いたい!行かせてください!!」


蜜柑が止める。

「おい桃!適材適所だ!退け!お前は敵が倒せるのか!?」

「倒せる!」

「桃。私の隊で役立ってくれるって?期待していいわけ?」

「はい!」


「おい、桃!無理するな!」

「私は!センサーになる!誰よりも早く敵を見つける!強い敵から倒して敵の士気を下げ、トマコの侵攻を防ぎ、敵の早期撤退を目指す!敵にこちらを悟られる前に敵をみつけ、有利に戦える状況を整える!」


リコリスは目を見開いた。

「…ふふっ正解よ♡ 桃。私より優れた高感度のセンサー。あんたが上手く動けば、隊の生存率はかなり上がる。でも。逆にいえば、全員の命を背負うも同じ。大役よ。できる?」

「やります!私に!やらせてください!!」


リコリスは微笑んだ。

「……ありがと。正直、嬉しいわ。私は、強くなりすぎた。防御が強くなって、若い頃のような感度は減った。正直、あなたが来てくれて嬉しい。預けるわよ。全員の命。」

「! はい!」

桃も微笑んだ。


作戦開始。船にのる準備をする。






双眼鏡で海をみた。蜜柑はトマコ海上に昨日までなかった島が確かにできているのを確認した。


「島がいきなりできるなんてあるのかよ。」

「異世界みたいなものだと思うわ。プロフェッサーの言葉を借りれば次元が違うのよ」


「プロフェッサーって、北島大学無事だったの?」

「昨日の包囲という異常事態があったから、すぐにパコダの調査を切り上げてここに直行してもらったのよ。いずれにしろ、ここを戦地にするしかない。」



「あの、先遣隊はこちらで?」

26歳くらいだろうか。男が来た。

「私は若葉と申します。はじめまして。その、プロフェッサーから先遣隊に同行し、色彩魔法を使った医療技術を伝授するよう言われまして」

「先遣隊?おとりよ?♡」


レモンとバナナも言う。

「致死率90パーセントのおとりだぞ!」

「ノースアイランドの未来は僕らの時間稼ぎにかかっている」

若葉は顔を青くした。

「え?えええ!?そんなぁ!プロフェッサー!ぼく聞いてないですよおおお!」


「うん?あなたどこまで知ってるの?」

「あぁ、リコリスさん。ゼブラさん。あの、とりあえず報告できることとしてはですね。ノースアイランドは呪骸により包囲されていますね。あの、内地から応援を呼ぶんですよね?」

「いいえ?」

「は?」

「そんなことしたら、内地も狙われるじゃない。」

「とにかく、いまは、トマコに狙いを絞らせる。そして、次の日手を打たれる前に、リコリス隊にて、命がけの撹乱をしてもらう。我々はその先に防御を固める。」

「は?えと、私も防御を固める方にいきたい。」


怖じ気づいている若葉に、あきれ顔でリコリスが言う。

「最新の医療技術をプロフェッサーから学んだのはあなたでしょ?我々にはあなたが必要。来てもらうわよ。」

「ひ、ひぇええええ!その、わたしは!わたしはですね!そんなつもりで!そんな我はこれより死地に入る!みたいなそんな気持ちでここにきたわけじゃあないんですよ!」

「そう?」

「その、プロフェッサー含む皆さん、変な魔法陣に夢中になって離れなくてですね!私は早く大学に帰りたい一心で!こちらにきたわけです!」

「てことは?北島大学に帰りたいと?」

「はい!私は大学に戻って、報告をしたいんです!メールとか上手く遅れていないみたいで。電話も通じないから直接いかないと…」

「北島大学ねえ…帰れないわよ?」

リコリスが長い髪をかき上げながら言った。ゼブラも到着したようだ。


「調査した人からの報告によると、地理的にそこにあったものの、既に存在していないようだ。そこを見ろ」

「自然が豊かですねえ」

「トマコ色彩魔法高等学校があった場所だ」

「え?」

「まるで200年前に戻ったかのようでしょ?すごいものなのよ北島大学跡地もこんな感じ」

「えええええ!?じゃあ私はどこへ帰ればよいのですか!」

「その辺も考える時間がないので、リコリス率いるサポロ中学の学生数名が囮で敵の攻撃を牽制して時間を稼ぐ」


「過酷な運命の少年少女たちなんだ!俺は涙がでそうだ!」

「うむ。可哀想だな」

「さすがは鬼と名高いゼブラ!」

「せめて、プロフェッサーの秘蔵っ子の大人1人ついていって、知識を与えてあげたいと思うよな」

「ええええ」






水利谷が来た。

「よお蜜柑…特攻だってな…」

「おう、生きて帰ってくるから心配するな」

「あの…言っておきたいことがあって…。はじめの襲撃のとき、音が聞こえたんだ…。誰も気づいてなかったみたいだから、恥ずかしくて、誰にも言えなかった。それで、昨日さ、どうしても気になってモールス信号で置き換えたら、文章になったんだ…」


-ナブッテカラミナゴロシ-


「あいつらの標的は多分リコリス先生だ。きっと20年前のことを恨んでいるんだよ。一緒に行くおまえが心配だ。……死ぬなよ。」

「…サンキュ。てかそれ、ゼブラに伝えたのか?」

「伝えたが…。それで?って言われて。」

「そっか。」


(たしかに。それがわかったとしてもあまり意味がない。オレたちがやることは変わらない。)

それでも、蜜柑は友人の心配が嬉しかった。

「サンキュな。水利谷」


当然、若葉もついていくことになった。

船に揺られながら、「行きたくない行きたくない」とつぶやいている。



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