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異世界婚活ツアー  作者: 三郷せの
第二章
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50/65

迷子4

壁を伝ってなんとか上体を起こし、背中を預ける。

体と頭を少しでも休めておこう。


助けはきっと来る。

きっと来るはずだ。

今までどんな最低な事態でも、結局はどうにかなった。

だから今回もどうにかなる。

きっとエリアス辺りがまた助けに来て、どにかしてくれる。

きっとそう。


とりあえず一旦はピンチから抜けられた。

後は隣の部屋のあいつらがこのまま来なくて、助けが来ればいい。

それだけだ。

単純なことだ。


戻ったら今度こそ絶対日本に帰ることを検討しよう。

あっちに帰ったら立場がないとか言ってる場合じゃない。

金とか立場とか、命あってのモノダネだ。

少なくとも日本にいれば、こんなに生命の危機を感じることはない。

病気とか事故とかだけとりあえず気にしときゃいいんだ。

憲法第9条万歳、銃社会反対、平和ボケ大国日本素晴らしい。

殴られて打ちつけた頬は痛いし、腕も痛いし、ていうか体中痛し、もう散々だ。

こんなの真面目にやってるOLに降りかかる事態じゃない。

こんな国大嫌いだ。


あ、でもやっぱりあっちで肩身の狭い思いするのも辛いなあ。

実家帰らないといけないだろうしなあ。

でも死にたくない。

絶対に死にたくない。


「お姉さんは、名前なんて言うの」


色々決意を固めていると、子供が澄んだ声で聞いてきた。

なんだか不思議と落ち着いてくる、歌うようにも聞える綺麗な声だ。


「私はセツコ」

「セツコ。不思議な名前だね」

「まあね、この国の人間じゃない」


むしろ日本名がいたらびびるわ。

佐藤とか山田とか、懐かしいわ。

会いたいわ。

でもミカって日本名ぽいよな。

女の子の名前だけど。


「あなた、名前は?」

「私はマリカ」


子供は腫れた頬をわずかに緩めて微笑んでくれる。

マリカって、女の子の名前だよな。

いや、でもミカの例もあるしな。

女の子なのかって聞くのは失礼かな。

まあ、いいか。

どっちでもいいや。

子供は子供だ。


「マリカ。私の国、同じ名前、あった」

「そうなの?素敵な偶然だね」


マリカは嬉しそうに、目を細めて笑う。

その弾んだ声に、こっちまでなんだか嬉しくなってきてしまう。

エミリアのように、優しい空気を持った子だ。

こんな状況で会うんじゃなければ、すごく嬉しかったんだけど。

さすがにこの子は結婚してないだろうし。


「マリカって花の名前なの。セツコの国ではどういう意味なの?」

「えっと」


マリカってどういう意味って言われても困るな。

漢字を当てればどんな名前にでもなるし。

真理香とかが一番多いのかしら。

真実の香り?

漢字ってものがあって、一つ一つの文字には意味があって、そして一番ポピュラーな字は、真実の香りって意味で。


って、そんな面倒な説明できるか。

そんな会話能力はない。


「えっとね、私の国も、花の名前。他にも意味ある。でも、花の名前も、ある」


茉莉花って書いてマリカって読む漫画が昔あったわ。

うん、嘘はついてない。


「本当!?」

「うん。白い、小さくて、かわいい花。お茶にもされる」

「素敵だね!この国のマリカは、黄色くてね、大きな花なの****で、綺麗なんだ」

「そう。素敵ね」

「うん」


マリカはやっぱり嬉しそうに笑ってくれる。

うん、いいことした。

この選択であっていた。


「セツコは、どうして連れてこられたの?」


そんなの私が聞きたい。

一体私が何をした。


「分からない。道、迷った。一緒にいた、女、えっと、いない、いなくなった」

「*****だったんだね」

「それは、どういう意味?」

「あ」


私が言葉が不得手だと分かって、マリカは少し考え込むようにして首を傾げる。

そしてゆっくりと平易な単語に直してくれる。


「えっと、迷ってる人。迷った子供」

「………うん、分かったわ」


迷子ってことか。

そしてわざわざ迷った子供ってつけるところを見ると、子供用の単語なのね、そうなのね。

ここは知らない土地だから迷うのよ。

私だって別に、東京の中じゃ迷ったりしないのよ。

まあ、池袋駅とか新宿駅とか東京駅とかは、出口探して迷ったりするけど。


「ここら辺は、*****、えっと、危険なところ。セツコ、*****がいいから、狙われたのかも」

「*****?」


また分からない単語が出てきたぞ。

オウム返しに聞くと、またマリカは一生懸命考えてくれる。

細くて頬がこけてるけれど、目鼻立ちは随分整った顔の子だ。


「セツコ、服が高そうなの。いい服。見た目がお金持ってそう」

「ええ!?」


身なりがいいってことか。

これ身なりがよかったのか。

周りの人間はもっとよさげな服を着てるから気付かなかった。


「そ、そうだったの」

「うん。この辺りは、危ない人、多い。運が悪かった」


まあ、確かに立派なスラム街って感じだった。

人は全然いなかったけど。

それにしても、その危険なところにマリカは住んでいるのか。

確かに服は質素で、随分痛んでいるようだ。

そういう層の子、ということだろうか。

ああ、こんないい子にそんなこと考えちゃうって、やだやだ。

やめやめ。


「えっと、マリカは、ここにいたら、あいつら、きた?」

「うん………、私は、家にいたら、あいつらが入ってきて、急に家使うっていって、****たら、叩かれて、縛られた」

「………酷い。痛そう」

「ううん」


マリカは健気に笑って首を横に振る。


「叩かれるのは、慣れてるから平気」


う、重い。

重い重い。

誰に、なんで。

つっこんでいいのだろうか。

いや、つっこむのはやめておこう。

なんて言ったらいいか分からない。


「でも、あいつら、ただの泥棒とかじゃない。マーリス、えっと、王様の敵って分かる?」

「あ、分かった、分かった!」


思い出した。

そう言えばこの前の時も、そのマーリスとかいう奴だったっけ。

反政府組織だったっけ。

あいつら本当にロクなことしねえ。

無能テロ集団はさっさと滅びろ。

一般市民を巻き込むんじゃねーよ、クソ。

この国が嫌ならさっさと出てけ。


「誰か、仲間を待ってるみたいだけど」


マリカはあいつらがいる部屋を繋ぐ扉をじっと見ている。

それから、ふっとため息をついて俯いた。


「王様、大丈夫かな」


マリカの言葉には、素直な心配の響きがあった。

王様ってことは、あいつだよな。

あの下半身暴走馬鹿王。


「………マリカは、王様が好きなの?」

「うん」

「へ、へえ」


マリカの迷いのない首肯に、咄嗟に返事が出てこなかった。

そうか、あいつも一応、国民にはそれなりに愛されてなくもないのか。

ネストリが前にそんなこと言ってたっけ。

本当だったのか。

話盛ってるのかと思ってた。


「これまでの***より、ずっと賢い人。ずっと***。えっと、ずっと、いい」

「***って」

「えっと、偉い人。お金だけ取って、酷いことする人達。ミカ王はあの人達よりずっと、国をよくしようとしてくれている」


貴族ってことかな。

そういえば貴族社会が腐敗しまくってて大変だったって、ネストリが言ってたっけ。

まあ確かに金を持ってる権力層ってロクなことしないわよね。

自分で稼いだ金じゃないからってじゃぶじゃぶ使いやがって。

私の金を返せ。

そいつらを見ていたら、確かにミカは有能なのかもしれない。


「だから、王様が死んだらいやだな」


また思考が脱線しそうになっていると、マリカは俯いたまま言った。

私は不安を打ち消すことが出来るように、明るい声で言う。


「王様はきっと、平気。だって、強い人、いっぱいいる。周りに」

「………うん、そうだね」


あいつの周りには確かに強い奴が沢山いた。

その一人でも私によこせ。

つーかこういう時に役に立たないなら、本当に無駄。

何が守ってやるだ。

あの役立たず。

でも助けにきたら許してやってもいい。


「………助けは、来る。待つしかない?」

「あいつらを怒らせるのはよくないと思う」

「………うん」


そうね、確かに刺激しても、いいことはない。

じっとして助けを待つのが一番いいだろう。


「そうね。大丈夫。助けは、くる。きっと来る」

「うん」


マリカはこくりと頷いた。

それから少しだけ考えて、小さな声で囁く。


「でも、逃げられるようにしておいた方がいいかな。用意はしておこうか。セツコ動ける?」

「え」

「そこの戸棚にナイフがあるの」

「え、っと」


私はマリカと違って足は縛られていない。

後ろ手でとても不便だけど、壁を伝ってなんとか立ち上がる。

そしてマリカが指さした戸棚の方にゆっくりと歩く。

あいつらが気付いて入ってこないか、心臓がドキドキしてきた。

嫌な汗を掻いている。


「そう、3つ目の引き出し」


3つ目とか、ちょうど手が届かなくて不便なんだが。

体を捻って後ろを見て、なんとか場所を確認して、縛られた手で開けようとする。

くそ、建てつけが悪い。


「よっと、よ、くっ、わ」


ガタガタと大きな音を立てるのが怖くて、何度か休止を挟みながらなんとか開ける。

幸い、気付かれることはなかった。

気付かれたらどうしたらどう言い訳すればよかったんだ、これ。

あれ、もしかして、私マリカに生贄にされた?

違うわよね違うわよね。


「あ、あった!」

「し!」

「ご、ごめん」


嫌なことを考えながら、ナイフをなんとか見つけ出す。

それは小ぶりで、私が元々持っていたナイフよりもずっと質素で頼りなかった。

そういやあのナイフ、なんの役にも立ってないな。

逆になんかあのナイフのせいで責められてたし。

やっぱりあの女は疫病神だ。


「セツコ、ナイフ使うのは、得意?」


慌てて首を横に振る。

そんな物騒な特技をもった覚えはない。

リンゴの皮むきすら、20センチもいかない女だ。

ピーラーとフードプロセッサがあればそれでいいじゃない。

悪くないじゃない。


「じゃあ、貸して。とりあえず隠し持っておく」


頷いて、マリカの横に座り、そっと後ろ手に渡す。

マリカは小さな手でしっかりとナイフを握った。


「ありがとう。これで手と足の縄切れるけど、ちょっと、様子見しておこうか」

「う、うん」


なんて頼りがいのある子なんだろう。

この子が一緒にいてよかった。

あのアルノを除いた男どもとは大違いだ。

ていうか私こんな子供にナイフ持たせていいのか。

いくら苦手でも、子供に危険なことさせようとする大人ってどうなの。


いやいや、でも、私がナイフを持って何かできるとは思わないし。

いや、この前は刺したり切ったりしてたけど。

う、嫌な感触思い出した。

溢れる血、漂う鉄の匂い、マグロを切るような感触。


「………う」


吐きそう。

やっぱ無理。

大人とか子供とか関係ない。

私は何も出来ないです。


「大丈夫、セツコ?具合悪いの?」


マリカは心配そうにこちらを見上げている。

細い手足、あどけない顔。

でもやっぱりこんな子になんかさせるって、私鬼畜過ぎかしら。


「………あ、えっと」


でも私がナイフを持って何か出来るかしら。

この子を守ったり出来るのかしら。

そっちの方が危険かしら。


バタン!


「ひっ」


その時いきなり、隣の部屋と繋がっている扉が開いた。

グレイの髪の男が、そこに立っている。


「おい、女、出ろ」

「え」


グレイの髪の男は、私をじっと見ている。

私、なのか。

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