5睡目 不定形生物ゼロハチさん屋台
また今日も診察室の夢に来た。
夢の中では起きたてのせいか、ちょっとねむい。
今日はラパードはとりあえず見当たらなくて、部屋の真ん中に看板らしき物がある。
えー何何…
『現在仮眠中です。急ぎでない方はこちらの菓子を一人2つまでどうぞ。ごゆっくりお待ち下さい』『急ぎの方は裏へ回って起こすか、看板上部の赤い緊急スイッチを押して下さい』
へぇ…ご丁寧だなぁ。さすがお医者さんだ。
とりあえずカゴに入ってるおやつを一つもらおう。『アレルギーや無害を確認して召し上が』途中まで書いて飽きたのかな…多分鉄塊とかよくわからないキラキラな石といっしょにチョコや水まんじゅうといろいろ入っている。いろんな患者さんが来るんだろうな…
多分りんごジャムっぽいのが入ったぷるぷる水まんじゅうを一つ袋から出してかじりながら、白いついたての裏側へ回ってみる。
ベットがあってイカが飛んでいた。
イカだ。
1cmくらいの厚みの、1マス1cm?のドットで書いたような、丸っこくデフォルメされたイカだ。ドットイカ?
ふよふよ浮かんでいたけれど、ぼくを見つけたとたん少し素早くなってベットの影に隠れた。
まさかこれがラパード…なわけが…と思いつつベットの上を見るとラパードは普通に寝てた。
「…タコヤキ……3パック…」
寝言がタコヤキだ。イカヤキじゃないのかぁ。
ベットの陰からイカがこっちを見て隠れたり出てきたりしている。動きがドットアニメだ。
「おいでー食べたりしないよ。ぼくとあそぼう?」
声をかけてみると、おそるおそるドットイカくん?は出てきた。
まばたきしたり足がにょきにょきうごいたりも、すべてドットアニメのようにコマ送りだ。
手乗りサイズだなーと思いながら手を出したら乗ってきた。触り心地は固めのプラスチック消しゴム。重さもそんなかんじ。
しばらくドットイカくんと遊んだ。
転がしてみたりフリスビーみたいに投げたり…イカくんも楽しいのか、もっと!もっと!と言わんばかりに嬉しいカオで、跳ねて戻ってくる。面白いけどラパード起きないなーと思っていると
ドズゥン パラリラロラルラリラレラー
バイクっぽい爆音と不良がやたら鳴らしそうなラッパ系の音が聞こえた。
「んぉっ!!?なっなんだなんだ迎えかっ!!」
やっとラパードが飛び起きた。イカくんはびっくりしたのか、いなく…
なってないや。タコツボをどこからか引っ張ってきた。あっこれ昨日、中に何かいて、勝手に動いてたやつだ。これに入ってたのはイカくんだったのか。
「おぉ…来てたかサガ。まぁゆっくりしてろ…ねっむ」
「うん。おやついっこ貰ったよありがとー」
ラパードはもそもそと起きてきて、タコツボを持って、ついたての表へ行った。
とりあえずぼくも行くのにした。
部屋が何故か暗くなって風が吹いている。ついたて越しからでもわかる何かがビカビカ光っている様子と、ドドドと響くエンジン音にビビりつつもついていくと
屋台だ。
逆光の中に風に『お で ん』ののれんがはためく屋台。
その前にとても綺麗な人が立っていた。
風にあおられた銀色の長い髪がしなる。逆光なはずなのに輝いてみえる整った顔は優しく微笑んでいて、青緑の瞳がキラキラきらめいて宝石みたいだ。
滑らかに揺れ、微かに虹色に光る白のワンピースに
茶色の腹巻とゲタが果てしなく似合わない。
「こんばんわ。フーちゃんを迎えに来てみたんですけど大丈夫ですか?」
エンジン音の合間に澄んだ声が聞こえる。
「はい。固着化完了してますよ。こんな感じで良いですか?」
ラパードはタコツボに乗ったドットイカくんを差し出した。お医者さんモードで敬語だ。
「まぁっ!すごくしっかり固形化されてるわぁ!さすがタコヤキさんね!」
綺麗な人はイカくんを受け取って感心している。そうだラパードはタコヤキさんだった。
「えっまぁ…それほどでもあるような…」
ラパードは顔をそむけて照れている。そりゃこんなキレーな人に褒められたら照れちゃうよねぇ。でもこの人、男の人なのかな女の人なのかな…おむねが平らだとわからないけど聞けないや。
「お代はいつものタコヤキでいいかしら?」「はい!」
屋台の机から取り出したタコヤキを受け取るラパードの表情は、この人に負けず劣らず輝いている。大好物すぎじゃないかな?いつもの眠そう顔と全然違うよ。ん??おでんの屋台なのに…まぁいいか。
「あらー貴方はだあれ?お友達?」
「えっぼく?」
急に話しかけられて焦っちゃう。
「ぼくはサガだよ。えっと…患者さんだけど一緒に遊びに行ったりお話ししてるしお友達…かな?」
と、ラパードをみると
「えっあっ…そ、そうだなオトモダチ…だな!」
嬉しそうな顔してるし、オトモダチでよさそうだなうふふ
「そうかーオトモダチかぁ…」
そういうその人は…青緑のキラキラ光る瞳の中の、暗い暗い瞳孔をぐにぐにとこらして、その奥底からこちらを凝視している感じがする。気のせいかな…
「私は名前は無いんですが、タコヤキさんが仮に呼んでくれた、不定形生物ゼロハチって名乗る時もありますよ」
不定形…??
「えっ…カルテに書いた仮名ですけどいいんですか?」
「不定形6人目だから06って書いてたのに、8がいいってワタシが言ったら「じゃあ08で」って変えてくれたのが嬉しかったわー。あっワタシ不定形なので自由に型を変えられるんですよー。フーちゃんはまだ崩れやすいから固めの軟体生物に成形してもらってるんですけどねー」
結構テキトウに名前決まっちゃうもんなのかな…イカだけどフーちゃんなんだね。
「そ、そうですか。気に入っていただけたのなら良かった…?」
「あっそうだ!ラパードも今はタコヤキさんじゃなくてラパードだ…よ…」
と、ぼくが言っている途中に、光っていた瞳の孔がギュワッと全部開いて真っ黒になった。底の無い暗闇は深く深く底知れず、おそろしいと思ってしまう。微笑んでいた口元もギリリと歯軋りしていて…
「ど…どうかしましたか?確かに最近ラパードになりましたけど」
「ああっワタシったらつい!ヒトミシリってやつですーヒトミひらいちゃったわウフフ」
ゼロハチさんはなんでもなかったかのようにやさしげな微笑みに戻ったけれど、酷く気になってしまう。
「それじゃあ帰りますねぇ。また崩れちゃったらお願いしますー」
ゼロハチさんはドドドと爆音が大きくなった屋台の運転席にひらりと乗り込んであぐらをかいた。抱えたタコツボからドットイカくんが手をふっている
「はいぃまたどうぞーー!」
ラパードは爆音に負けないよう叫びながらハンカチをふっている。
ぼくも手をふりかえした。
屋台が少しづつ浮かんでいき、少しバックした後、すごい加速をしながらギュゥンッと音を立てて消えた。
風が止まり、いつもの静かな診察室に戻る。
いや、風で多少散らかったり汚れたりしているかな。イカスミ…みたいなのも屋台跡に点々と落ちているし。
「ふぅ…1パック味わってから片付けがんばらねばな」
「うん、ぼくも手伝うよ」
お掃除するのは大変そうだ。
「そうか…サガにはいつも世話になっているし…1パック…食べ…るか…?」
5パック貰ったうちの1パックを…そ、そんな辛そうに渡そうとするならいらないよ!
「いやいやいや!いいよ!タコヤキ大好物なんでしょ?ぼくお菓子のほうがすきだし!あ、もういっこもーらおっとわーい」
カゴからお菓子を選んでムシャる。…あっ…微妙…虹色のグミすっごい微妙…そして眠い…
「…たこ焼き最高なんじゃぁ〜」
至福の表情でたこ焼きを頬張るラパードの顔がぼやけていく。
掃除不参加かも。ごめんね眠い…




