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17 まだ生きている。


 青緑の機械の中身は全開で詳細で、すべてを伝えてしまった。

 外側は雑で「らぱーどくんのからだ」とか書いてあるくせに。

 後ろを向いたままの腕は、ぼくの掴むだけで湿っぽくなる手を振り払ったりはしない。

 ただ落ちていく。

ただ突然に何もなくなった白い空間を落ちる。

周りの赤い網膜のような赤サンゴの螺旋階段が上へ登っていくから落ちていくと感じる。


 その向こうで、あまり動かない赤ん坊の影を倍速で動く大人の影が世話をする。

「そうだ俺は先天性免疫不全だとかで、こんな一室で一生を終えたのだった」

 どこか呆然とした口調で話し出す。

夢の中というのは勝手な映画館のようだ。自由落下で白い固室ごと、繋いだ手から振り返った記憶の中へ滑り落ちていく。どこか遠くから絶叫が、聞こえるような、雑音のような。

「他人から見れば不自由で、何処へも行けず、つまらなく、かわいそうな人生だったろう。たまに来ていた親戚もそんな風に憐れんでいた」

 カラカラと空回る映写機の音は、落ちながらも少しづつ自分で動き出す赤ん坊と世話をする人の影を映し出す。

 赤ん坊は転がり立ち上がりよじ登り飛び跳ねる。計測機器で遊んでしかられる。

「ところがどっこい」

どっこいと来たか。

緩んだ手を握り返しながら振り向いたラパードは半笑いだ。赤い目がぐらぐらと揺れている。

「結構愉快な人生を送るわけだ。今どき小遣い2万円にネット環境と、看護師さんの強力な協力なんてあれば、悠悠自適で色々出来る」

 部屋は貼り紙やおもちゃやノートであふれていくのを世話する人がしぶしぶ片付ける。

 ディスプレイとキーボードに向き合う時間が増える。

 院内清掃ロボを組み上げ院内を走らせ画面内で外出する。

 ドローンを組み上げ空を飛ぶ。

 見舞いに来た子とビニールカーテンごしにゲームをする。

「まぁこれがいけなかったようでな。ちゃんと対策してあったのに菌が入ったらしい」

 寝込む。

 点滴が増える。

 機材が増える。

 男の子の影は機材で見えなくなった。


「しかしながらどっこい死んでない」

 機材は替わり緑青の機械が一台置かれている。難解な機体は夢のない姿で夢を収めている。

「俺は相変わらず白い部屋の中だが多少外に出られるし生きている。まだ生きている。」


「まだ生きている」

「死んでない」

「生きて いる」


そう言いながらも崩れ座り込んでいく。

傾いたまま、まばたきもせずぐらぐらと目が揺れている。

「大丈夫だ」

「生きてる」

自分に言い聞かせながらも上手くはいっていない感じがした。


手が離れる。

何もなくなった白い一室に。

扉は診察室へ開きっぱなしだ。


 フラフラと立ち上がり、帰っていく。白衣の背中も髪も、ビショビショだ。

「まぁ、ちょっと考えさせてくれ。疲れたし休む」

 ラパードは、おぼつかない足取りのまま自分のベッドの方へ回りこみ、ついたてで囲い、見えなくなった。


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