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15●▼マァッッド・ ドクタァァァ


※気分が悪くなる事もあるのでご注意ください。



 今日は精密検査の日。

 今朝の治療でもうすっかり治った気はするけれど……

 けれど、そんな訳にはいかない。ラパードは自由診療がすぎるから。現実の治療たりえない。


 お母さんと車で、病院までいく。


 病院からは学校で体育の授業をしているのが聞こえる。


 

 普通の病院の中へ入る。

見ようとすれば見える変な病院ダンジョンをたまに見ながら進む。


 お母さんは、今日は眠くないのかとか、学校はどうかとか聞いてくる。ぼくは当たり障りないよう返事をする。

 前は面白がりながら夢の話を聞いてくれたけれど、今は……きっとまた困った顔で止めてくるだろうし、言わない。


 昨日来た診察室に着く。予約済みなのですぐに順番がくる。眠そうなディスプレイお姉さんの前を通り過ぎる。


 昨日と同じに、白衣に乗った三日月で現実の顔が見えないお医者さんは、宇宙船の診察室で待っていた。


「ヤァおはよう。さっそく精密検査をしよう」


 宇宙船の奥の丸い扉のバルブを回し開け、歩く三日月を追う。

 7階の中空と黒の中のまばゆい銀河が交錯するパイプを通り抜け、隣の建物へのドアノブを回す。

 開かれた一室は、真っ暗で広さがわからない。真ん中に、いかにも清潔に磨かれた寝台と、それを通す分厚い機械のトンネル一人分だけが照らされている。すべて消毒済みな衛生的な空間のにおいがする。


ちがう。


 ここは大手術が行われ人が死んでしまった場所なのだ。掃除洗浄除菌を徹底して既に残骸はないけれど、広い部屋の壁すべてに血飛沫が飛ぶほどの


「さぁ、横になって」


 本当は「いやだァァ!!」と叫んで暴れて逃げたかったけれど、お母さんの前でそれはできない。それは気のせいなんだと現実のぼくを大人しくぎこちなく台の上に乗せる。

「薬を入れるよ。力を抜いて」

 ぼくのうでに注射器が刺さる。痛みがないので見ていなければ気付かなかったかもしれない。中で、紫と黄色のコミカルな笑顔のヘビ二匹が、尻尾の先を結ばれたままゴキゲンにバタバタしている。現実は透明な液だ。ぼくの気のせいなはずなんだ。

 そんな奇異な液体がぼくのうでへ注入されていくのを、ただ見ていることしか出来なかった。


カラダの中をうねりめぐり

ぼくを 絡め ゆめへ おとす


ねむけ

おちる

サヨウナラ






カラダがスカスカのペラペラだり。

そんな感覚で目を開ける。


 ぼくは、ぼくがプリントされた一枚のペラペラと、一方向しか見えないカメラ状になってしまった。


 お母さんのいない検査室。

 現実のぼくが乗った寝台がトンネル機械の中へ滑っていく。


 その向こうにある三日月の顔が欠けていき、猫の爪になり新月…真っ暗になる。そこから上限の月が半月から満月になるように、金色の瞳の顔が現れた。

 ひどく眠そうな垂れた目は、どこかラパードに似ている。紫の艶やかな髪はなぜか…毒を思わせた。とてもうつくしく微笑んでいると思わせようとしている皮を貼り付けてあるかのような顔の下には、きっと何か嫌悪してしまいそうなものがあると感じてしまう。

 現実では白衣の下はワイシャツとズボンを着ているように見えたが、ほんとうはパンツしか履いていない。さっそく嫌悪した。


「やぁようこそ僕のラボラトリーへ! 歓迎するよ。サガミソウタ君」

 とても嬉しそうに招かれてもぼくは早く帰りたい。この病院もマトモじゃなかったのだ。疾く帰りたい。

 よく通るいい声も美しい顔も、ぼくにとっては鬱陶しい。


「お母様も待たせていることだし、さっそく研究室の見学に移ろうか」

 いやだ。けれど変態医者につられて、ペラペラのカラダはヘラヘラと奥へ。


 黒い壁を突き抜け、上空を昇り、別館の窓へぶつかり抜け、青緑の壁と機械で塗り尽くされた部屋へ、ペラペラと移される。


「おっと僕は原土檄夜(ハラドゲキヤ)先生だよ変態ではないよ」

 ペラペラのカラダは心もペラペラに見透かされるらしい。おそろしい。

聞いたはずの名前はよくわからなかったせいか、覚えられなかった。


「さぁご覧あれ。こちらが新機にすべての権能とほとんどの知識を移設し終わり、機能を停止させたはずのボタニカBTN_DDD05だよ。なんで起動しているのかな?不思議だね」

 何台か並ぶ青緑の機械のうちの1つを見せられる。天井近くまである長四角の機体には、操作ボタンの代わりに洋服のボタンがあちこちにあり、いくつか点滅している。緑の配線が多くあり、ツタのようだ。

「昨夜不正アクセスがあったようだね。すでに休止コマンドは入れてあるからじき眠りにつくよ」

 そこまで言うと、いつのまにか座っていたキャスター付き椅子で滑りながら、隣の機体の前まで行く。


「こっちが現在稼働中のRPDDD06こと、レアパーツ・ドリームダウンドクター! 僕の最高傑作さ!」

 先程の機械と違い、シンプルで平坦で、真ん中に扉と小さい窓がついているだけだ。横に古いデスクトップパソコンと赤いスマホが繋がっている。画面には虹色のコンペイトウがひとつ。


 早く帰りたい。

「現在の夢ヶ丘病院睡眠科の治療は入院も外来もコレ一台!」

 早く帰して。

「カルテもノウハウもキモチもココロもオカネカセギも全部オマカセ!」

 帰して。

「そんな夢の機械のヒミツ、見たくないかね?見たいだろう?」

 見たくない。

 そう言っているのに目はカメラはその小さな覗き窓に寄り、覗き込ませる。


赤い。

赤い森。

赤い珊瑚の森。

細かに広がる赤い枝が森を構成する。

ときおり絡む緑のツタのコード。

赤い空気の粒が幾つか上へ昇っていく。

珊瑚の森の奥に象牙色の柱が。

夢を人を見通す赤い球体2つが。

遅く脈打つ緋色の源が。

肌色の迷路と知能の塊が。


血管、骨、眼球、心臓、脳。


吐き気。我慢。嘔吐。

朝ごはんのおにぎりが強い酸に混じって出る。


「おやおや、オトモダチを見て吐くなんて非道いじゃないか。そうだよRPDDD06ことドリームダウンドクターのラパード君は僕のかしこくてかわいい息子君だったんだよ。生まれてから君くらいの歳までは毎日検査観察滅菌が欠かせず手塩にかけて育てたよ。看護師がね。そして毎月2万円のお小遣いとネット環境も与えて悠々自適の一室の白い一生だったろうね。名前は……確か……原土新夜君って付けたんだっけかな?今は管理しやすいよう人体標本みたいになってるけどね」


もう吐くものはない。

寝ているぼくの顔がよごれて気持ち悪い。

このわるい変態は、まだ吐くのか。


「まぁそんなワケで吐くほどキライになったオトモダチから離れるためには、君が夢で付けている白い石をちゃんと手放さなくてはいけない。現実の診察室まで持ってきてくれれば後は僕が処置しよう」

 否定する隙も与えないよう話し続けられる。

「それは夢を楽しく見られる宝などではなく君を夢の奥へ奥へと転げ堕とす猛毒なのだよ。このままでは君は夢から覚めることのない夢堕ちになって、ニンゲンのフリを続けられなくなるよニンゲンなのに!」

「きみの大事な家族も夢うつつの、陶睡[とうすい)状態の続くきみを見続ければ絶望するだろうね」

「困るだろう?悲しむだろう?」

「さあ早く毒の杯を切除してあげるから持ってくるんだ。それともこのまま転げ堕ち続けたいというのかい?」


「そうか!持ち出し方が分からないのだね。五里夢中の中を無我夢中で探すしかないな。がんばれ少年。手助けは最終手段までとっておいてあげよう期限は次回診察の来週金曜日だからね早く持ってきてくれるとうれしいな」


いつのまにか傾いてずれていた視界に、隣にあったパソコンのディスプレイが傾いて映る。

白い診察室に緑の頭とピンクの頭が見下ろされていた。

監視されていたんだ。

あの白い部屋は、夢じゃなくこの緑の機械の中の脳の中。

その事実はぼくはどうしたらどうしよう


バヅン

と、電源を落とされた感覚がした。





起き上がり吐いたものを拭う。

ガクガクと震える。

夢は監視されていた。

くさい。

あの真剣に患者を診る目は変態の檻の中なんだ。

眠れば監視の檻の中。

いやだ。いやだ。


「治療は無事成功しました。ちょっと刺激が強くて吐いてしまったようですがお家に帰って休ませてあげてください」

「少し夢と現で混乱すると思いますがすぐよくなりますよ」

 いけしゃあしゃあと変態医者はお母さんにアレコレともっともらしく話す。

「わかりました。ありがとうございます」

 お母さんもお礼言わなくていい。


急降下部すぎて続き描き終わるまで溜めてあったのですが出すことにしました。

オラァ!

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