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14 ボッタクリニック



 今日の診察は、ねぼけている間に終わっていた。

 明日朝から再検査と治療がある、と言われた。面倒くさい。

 薬が効いたのか、少し楽になった。

 普通の病院、普通の人達を普通に見えるようになったけれど、瞳孔をこらして大きく開いたときだけまたダンジョンや変わった人達が見えた。これは病院の中限定の視覚で、病院を出ると普通しか見えなくなった。

 ぼくは、よく寝た後の楽なカンジのまま両親と帰り、また普通の生活をして、眠りについた。



「ようお帰り。セカンドオピニオン行こうぜ」

 夢に落ちるなり、どこかウキウキしたラパードに遭遇した。そんな野球いこうぜ的な感覚で言うものじゃあないと思う。

 病院の絵が描かれたチケットをずずいと差し出している。

サガ「あれ…なんか治療してくれるとか言ってなかった??」

ラパード「勿論しようと思っていた。が、この大病院とウワサの、ボッタニカクリニックに行くには治されるべき患者が必要でな…。是非行ってみたい!ので……行こうぜ?」

 うーーん、ことわりにくい!

ぼくとしては普通に治療?してほしいと思うんだけど…仕方ないなー

 いやーそもそも夢の中の治療ってゲンジツに効果あるのかな?さっきのは効いた気はするけれど、よくわからないや。

 考え込みながら視線をずらすと、メルトちゃんも居た。

 羊のワタを黙々丸める作業をしている。お手伝いかな。

サガ「うーーーん。じゃ、行ってみよっか?」

ラパード「よしきた。メルトも行くぞ!」

メルト「はい!」

 既にカバンをラパードに差し出しているし、メルトちゃんしっかり助手しているなぁ。


 ラパードはチケットを扉にバァンと貼り「はいヨロシク」と横へ退いた。

 はぁ…とため息をもらしながらも扉に触れると、自動ドアのように左右に開いた。



 小高い草原には風がそよぎ、さざめく音がしている。

 丘の上には、草花の茂ったコンクリボックスがあった。

 2階建てほどのそれには入り口がひとつだけあって、全体が濃灰色のコンクリだ。


 ラパードはよっぽどこの病院に興味があるのか、どんどん先に行ってしまう。メルトちゃんも追いかけていく。

 ぼくは野原の風をのびのびと受けながら、楽に歩く。


 コンクリの建造物は大きく、ただひたすら四角い。

 草花も絡みにくいだろうなと、よく見ると……違和感。

 生気がなく、やや灰色だ。

 触る。

 硬い。鋭利。ざらざら。

 花びらで手が切れそうだ。

 葉も繊維の一本一本まで形作られている。建物に茂る草花すべてコンクリ細工だ。精巧すぎやしないだろうか。


 入り口らしきコンクリには『ボッタニカクリニック高等研究所 お気軽にドウゾ』と角角ばった字で掘られていた。角ばりすぎてお気軽感はあまりない。


 コンクリの前に立つと、音もなく左右に開いた。

 中へ進む。

 空気が固まっているかのように静かで、しばらく動かされる事の無かった空間特有の息苦しさがあった。


 固まった空気を噛み砕きながら吸い込み、崩しながら進む。空気って動かされないと、こんなに硬くて濁ってまずくなるんだと、感心さえする。

 受付も待合室も全部コンクリで、バリバリ。中の壁にもコンクリの草花は茂っていた。壁から5cmの範囲限定で灰色で造り物の不自然が咲いている。


 先に入った2人に追いつく。

 他に人は見当たらない。

 あんなにワクワクしていたラパードも、流石にこの固まりすぎた空間に表情も足取りも硬くなっている。

 メルトちゃんはラパードの白衣のスソを握りしめて、おそるおそる歩いている。相変わらず目は閉じていて困り眉だ。


サガ「うーん、誰もいないのかな?」

?「コンバンワ。保険証は不要。覚悟も不要。診察 しましょうね!」

 受付台から声がして振り向く。

 人形だ。丸い頭にはコンクリのツタの髪、目は服用ボタン、モルタルの球の顔。手も、体も、モルタル。

 半分だけ縫われていない口の端だけが動いてしゃべっている。


ラパード「おおっ!あなたがもしや名高いボッタニカクリニックの院長ですか!? お会いしたかった!」

 ラパードはテンションあがっているけどぼくは……めっちゃ怖い!

 だってこの空間にこの怖い顔……って言ったら失礼だろうけど、怖いよ!

ボッタニカ「ソウ!私がボッタニカクリニック高等研究所所長のボッタニカ様よ!」

 高らかに掲げるように口の端で喋る。

ボッタニカ「さぁさぁ診察を始めますよ雁首揃えて診察台に転がりなさい!」


 ボッタニカさんの勢いと、小さいのに怪力な腕によって診察台にそれぞれ乗せられる。

 えっぼくだけじゃないのかーそこは安心……できない。

ボッタニカ「さーぁどのツラから診ようかしらね! ……よし、この一番手遅れそうなのにしましょ!」

サガ「ええー僕から!?」

 えええコワイこわい怖い……


 黄色と赤のボタンがぼくを覗き込む。

 スルスルとコンクリのツタがぼくを取り押さえる。

ボッタニカ「その夢と現をゴッチャにするパリラパッパラパーなワルい頭はもう、一生夢禁止ね!夢に落ちず気を失って体力回復に徹するのにしましょう。それが一番だワ!」


 そんなの困る!確かに夢みすぎで疲れているけど夢がなくなったら人生つまらない!

 そんな心の叫びをしている間にメルトちゃんの方を覗き込みにいく。


ボッタニカ「そんな癒着した瞼はオカシイわ!キレイに切開して、洗浄異物除去消毒抗菌して、よーく見えるようにしてあげましょう。ココロの頑丈さがタリナイから一部平たくして壁でくるんで電極刺してしまいましょう」

 診察台にのせられてからすでに震えていたメルトちゃんはさらに震えだした。


ボッタニカ「そして、アンタ!!アタシの患者を軒並みかっさらいやがってヨォ……患者の都合の良いように生易しくイジるソレは治療じゃないわ!患者受けがいいから人気が出てるだけ!もしやそこの2人も自分の都合の良いように、夢にばっかり落ちるようにさせてるんじゃないの?!」


 ……えっ!!??

 思わずラパードを見る。メルトもバッと振り向いた。

 ラパードは、あっけにとられた顔して何秒か止まった後、

ラパード「はぁ…?もしそんな施術があってもする訳がない。だがもし無意識下でそういった所業をしでかしているとしたら、マズイな。その辺り大変詳しく伺いたいが、治療方針と患者への対応がクソなので」

 ガン!と白い棚が現れて中から電動ノコギリやドリルが転がり出る。

ラパード「治療拒否だ。帰るぞ!」

 ラパードは自分に絡んだコンクリツタからギャリギャリと壊していく。が、

ボッタニカ「拒否は不許可ァ!平淡で他人にただ扱われる喜びだけのニンゲンに、なれェェ! 余リソースを、渡せェェ!」

 ツタをドリルにして暴れだしたので、ぼくも刀を…

 おっと刀…どうやって出すんだっけえーとえーと、あっ出た!

 白くひかる刀はコンクリのツタを豆腐でも切るかのようにツルツル割った。ぼくのツタを解いてメルトちゃんのツタも、体を切らないようにそーっと……

 とか気をつけてるウチに、ヤバい。

 壁のツタも微かに荒ぶり始めてるし、ラパードは電ノコでの応戦の動きが……もう、全然ダメ。腰を入れてふんばって切らないと。あぁー絡め取られてる。だめだぁー。

「逃がさないわよ!治療を受けなさい!!」

 ツタは暴れる動きから少しづつ冷静な捕まえる動きになる。ぼくも怒っていたので向かってくるツタ全部切り落としてやった。あっこれ飛ぶ斬撃とか出るすごい!おおっ部屋の端まで滅多切りできる。カベのツタも髪のツタもベッドも、ラパードの電ノコも……しまった。バラバラだ。でも暴れるツタは全部壊さないといけない。


 静かになる。

 コンクリの破片塵が空気を濁す。

 部屋は粉々のめちゃくちゃだ。

 ラパードもメルトも呆然。すこし巻き込んでスリキズとか出来てる。ゴメンね。やりすぎた。

 ベリーショートにされて愕然としている暴れん坊ボッタニカ氏を壊そうか、逃げようか。

 頭がワルいと言われたのだから、ワルいコトをしてしまってもかまわないかな。割る?悪?

 いやダメだ。ぼくは悪いコじゃない。頭がちょっとわるいだけだ。

 もう、即帰りたかったので扉を3人分足元に外開きに開けて、落ちるように帰った。



「あだぁ!!」「うぐっ」「キャァ!」

 タコヤキ診療所入り口にぼくらは転がり落ちた。重力が下から横に切り替わり、二人の重さ(ヒジやカカト)はぼくにささった。

 大変イタイのをガマンして、慌てて立ち上がり、扉をおもいっきり締める。動かないが垂れ下がっていたツタが、バヅンと挟まれて割れた。

ボッタニカ「ちょ、ちょっと!損害賠償しなさーい!営業妨害の器物破損に、乙女の髪への傷害罪よ!」

 くぐもった声と、扉がガタガタしてうるさい。

 チケットを剥がすと、静かになった。

サガ「ふー、エライ所だったね」

ラパード「あ……あぁ。正直すまんかった」

サガ「ホントだよもう!」


ラパード「しかしボッタクリニックがあんな場所だったとは……どおりでこんなゆるい診療所に患者が来る訳だ。俺が手に負えなくても上位互換があるとタカをくくっていたが……まぁ、無理せず頑張らんとな」

 ラパードは一人で何か納得したようだ。メルトちゃんが背中のチリを払ってくれたのでぼくも払ってあげよう。

ラパード「よし治療するぞ!おそらく時間が無いしここでいいか。サガ、横になれ。すぐ終わる」

サガ「えっ、ここで?」

 このコンクリのチリやらツタの残骸の上??無駄に広くて診察台が遠いからってそれでいいのかな?

ラパード「腕立て伏せポーズも可だ」

 さっきの今で診察されたい気分にはなれないけれど、ここはラパードを信じることにする。ぼくは腕立て伏せはヘタだから寝転がる。

ラパード「はい、そのままー深く息を吸ってー……ゆぅっっくり、吐いてー」

 すぅーーー……はぁーーー

 頭から首の骨、背骨を辿り腰へ行く手の動きはいかにも診察をしているかのようだ。


「いたくないからなー……1……2」

 すーーーはーーー


「3……」

 すーーーあーなんか眠はーーー


「……4」

 はーーー……すーーー……


「……5ッダァーーー!」

ボリバキポキペキョゴキ




「ギャァァァアアア!!!!?」

 ひどい!うそつきヒキョいよラパード!!

 と叫ぼうにも、既にいつものベットの上で朝で、飛び起きてるので文句は届かない。

 はぁヒド……スゴい音だったけど痛くは無かったかもしれないのでウソつきとは言えないのがまたヒキョい。


 すごく頭がスッキリして、部屋の壁紙の細かい模様や色の差、隅のホコリまでクッキリ見える。体も軽くて踊りだしそう。

 でもダメだ。お母さんがぼくの叫びを聞いて駆けつけてるなうだ。絶対ムダに心配する。

 何事もなかったかのようにパジャマを着替えだしておこう。

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