表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/24

9睡目 エレガントルタ ワーの塔



チーーーン


ぼんやりとしていたら後ろからのベルの音で振り向いた。

エレベーターの扉が開いて女の人が乗っている。

赤い曲線のかしこまった服を着ていて、赤い帽子を深く被り、口紅で赤い小さな唇と灰白色の顎までしか見えない。

「お乗りになられますか?」

よくわからない。乗っていいのかわるいのか…

「おう、地上21階まで頼むぜ」

また後ろから声がして振り向く。

灰色のスーツでこれまた灰色の帽子を深くかぶっていて、ヒゲのアゴと口だけ見えるおじさんだ。顔も手も灰白色く、どこか画用紙の最後にある厚紙のようだ。おじさんの向こう側にはいつもの白い診察室だ。その人はそのままぼくの横を通り過ぎ、エレベーターへ乗り込んで行く。



そうか診察室にこのエレベーターが来たのか。カバンを持って慌てた様子のラパードも走ってきて

「俺ものりますっ!サガも来てくれ」

ぼんやりしていたぼくの手をとってエレベーターに一緒に乗った。

寝ぼけた頭で何か言わなきゃいけない事があったんじゃないだろうか?と思い返しているうちに

ゆっくりと扉は閉まっていった


「タコヤキ診療所転送モードよりエレガントルタ・ワー帰還モードへ移行。21階以外をご希望の方はお早目にお伝え下さい。転送波状効果で少々揺れます事を予めご警戒ください。」

おじさんと女の人と、ラパードとぼくがエレベーターの中で静かに揺られている。

「あと-3階も頼む。チップだ」

おじさんは分厚いバラの花びらを固めたチップ状のようなものを女の人に渡す。

隣にいるラパードはカバンの中から色々取り出しては確認して戻してを繰り返している。

ラパード「はー…初めてのちゃんとした往診だな…前回はよくわからんかったが大丈夫だろうか…」

とにかく落ち着かない様子だ。

エレベーターの外は真っ暗闇で、エレベーターの中が映り込んで全然見えない。

映り込んだぼんやりした頭のぼくは…寝ぼけた目にぼんやり顔。ラパードは、何か書き込むのに集中している。メガネの隙間からみえる赤い目が胸をザワザワさせる。メガネごしだと気にならないのに。


と、突然ゆれる。

横方向に円を描くようにグラグラグルグル

少し目が回る

横から「うっ…」とか聞こえる


カーン


と鐘を叩く音がしてから回るゆれは降りるエレベーターの動きに変わった。

外が見えるようになる。


広い広い空に赤いバラの花びらが舞い踊っていた。

風に舞っているにしては激しい動きでぶつかり合いグルグル回っては急降下急上昇ぶつかる。風と花弁のすれる音がヒュウヒュウザワザワと聞こえる。

きれいだけれど目が回りそうだ。

「エレガントルタ・ワー帰還完了。警戒解除。21階までしばらくお待ち下さい」

抑揚のない硬い声で女の人は告げる。

「おう悪いな。我が束はロォズィだ。そしてこちらはエレベーターガールのエレズィタさん。」

おじさんが自己紹介してきた。束とかよくわからない。女の人…エレズィタさんもささやかにお辞儀した。

ラパード「タコヤキ診療所のラパードです。こっちは友人兼助手…だと俺が勝手に思ってるサガです」

サガ「えっ助手…?そうかぁ外に出るの手伝ってることになってるから助手なんだね。サガです」

そうだ一応役立っているらしいからぼくは助手なんだった。

ロォズィ「おう、よろしくな。実は妹のロザリィが長期間の反抗期でな。直接見てもらいたかったんだが、意地でも動かんくてな…エレもずっと摂ろうとしない…そこにラパード氏が往診も出来るようになったってんで頼んだんだ」

チーーーン

エレズィタ「21階です」

ベルの音が響きエレベーターが止まる。

扉以外の三面の窓からは広い空と花の嵐しか見えないので、扉が開いたら…どうなるんだろう。

そう思う間にゆっくりと扉が両に開く。

静かな石の一室に灰色の肌が服ごと脱ぎ掛けてあり、対奥の扉の窓からはまた花の嵐が見える。

ロォズィさんが手をあげたかと思うと手袋を脱ぐかのように手を外す。

中から花の嵐が舞う。

花の嵐が片隅の小さいテーブルに飛び、また手の中に戻る。

小瓶を持った手がまた手袋でも着けるかのように手をはめ直した。少し甘くてすっきりした花の香りは頭のぼんやりを少し覚まさせる。いい香り。

ロォズィ「おう、もういいぜ。-3階まで行ってくれ」

どういうことだろうと思う間にここでの用は終わったようだ。

エレズィタ「エレガン体の解放はエレベーター内では禁止です」

エレズィタさんはすこしムッとしたかのような口ぶりでそう言った。

エレベーターの床に落ちずに小さくヒラヒラ飛び続ける花びらを見ながら、この人の体の中には花びらが沢山詰まっていてそれが体なのかもしれないと思う。

ロォズィ「すまんすまん。今拾う」

ロォズィさんは懐から紐が通ったビニール袋を取り出してそれに拾った花びらを入れる。お祭りの夜店の金魚を入れる袋そのものだ。中に泳ぐのは花びらだけれど。

ラパードも一枚拾って見ていた。

ラパード「貰ったらダメですか?」

ロォズィ「おう、おれのエレガン体か?いいぞ。やろう」

袋の中には10枚以上の花びらがヒラヒラ泳いでいて、ラパードの拾った3枚を入れてからラパードに渡す。

ロォズィ「そのうち動かないエレになるから、重ねて置いとけば3エレくらいになる」

ラパード「ふむふむ…作ってみますね」

体から出て飛び回る花びらがエレガン体で動かなくなったのがエレ…

じゃあ外の飛び回ってる花びらは…

エレズィタ「-3階まで少々お時間かかります。ご案内が必要でしたら申し出て下さい」

ラパード「お願いします」

エレズィタ「では…外を舞うは我らエレガントルタの、空を自由に舞える本能、エレガン体です。エレガン体は花弁様のエレとエレが発するベクトルで構成されています。」

エレズィタさんは淡々と話す。

そうだったんだ。あの花の嵐はエレガントルタっていう人?達だったんだ。

ラパードはノートとエレズィタさんを交互に見ながら何か書き込んでいる。

エレズィタ「そしてトルタ体はエレガン体を収める理性であり、体にして棲家。このエレベーターと並立しているエレガントルタ・ワーの塔内に脱衣して安置されます。」

エレズィタさんが一息つく。

そこへロォズィさんが熱く語りだす。

ロォズィ「そして我らが空を舞うは、

戦いであり、祭りであり、糧なのだ!

この美しい空はエレガントルタの生き甲斐であり、誇りなのだ!」

帽子で隠れていた目の部分には、煌々と花弁が体内で舞い上がる様が見える二孔があった。口はいくら喋ろうとも一字に結ばれたままだ。

ロォズィ「他種には理解してもらいようがないのは分かってはいるが!あの花嵐の一つ一つが素晴らしくせめぎ合う雄弁な花弁なのだ!あぁ…私も早くワーに加わりたい…」

熱のこもった語を聞いても花嵐は縦横無尽の好き勝手に飛び回っているようにしか見えないまま、エレベーターは降り続ける。窓に寄って下を見ると、花の嵐の向こうに花びらが積もっているように見えた。

エレズィタ「あと数秒で3階以下、アンダァエレに突入します」

花の嵐が途切れ、花びらの地面が現れたかと思うと、

地下へ降りたかのように外がまた真っ暗になった。

いや真っ暗ながらもエレベーター内の光で微かに見える。積もり積もった赤い花びらの中を沈み続けているのが見えた。

風の音も花弁のすれる音もなく、エレベーターと低い駆動音だけが揺れている。


チーーーン


エレズィタ「-3階です」

ゆっくりと扉が開く。


階段下。乾いた花びらが落ちている。

挿絵(By みてみん)


その場所はすごく長い階段の裏側のように天井が斜めだった。白い天井がくだり続け、床と合わさる。足音だけが響く閉め切られた空間。そのスミの手前に、その子はいた。

全身やドレスが芯なしトイレットペーパーの芯で出来たかのような…そんな女の子が座り込んでいた。


ロォズィさんは早足で近寄り、

ロォズィ「ロザリィ、ラパードセンセが来てくれたぞ。診て貰うんだ」

そう言って隅から少し移動させ上を向かせる。目が空く。黒いぽっかりとした孔の目。先ほどの小瓶を開け、穴へ注ぎ始めようと

すると

パカッパカポコッカスッパタパタ

トイレットペーパー様の芯の体が暴れてぶつかる音が響く。

少しづつ大きくなる甲高い女の子の声が聞こえ始めた。

ロザリィ「ィャィャイヤイヤ!!なんでエレガン入れちゃうのよ!!バカロジー!やァーー!」

声と同時に動きも激しくなり、全身で転がって暴れている。

ロォズィ「この通りなんだ…ホラ!何がイヤだってんだ!エレガンを入れないと干からびて動くことも喋ることもワーも出来なくなるんだそ!」

ロザリィ「それがいいってんのよバカァァ!!」

ラパード「はぁ…」

ラパードはちょっと呆けつつも暴れるロザリィちゃんの近くに座り

ラパード「医者モドキをやってるラパードだ。どうして動けなくなるまでエレガンを摂りたくないのか、何か重大な理由があるのだろう…是非教えて欲しい」

とても丁寧に聞いた。

それを見て、ロザリィちゃんは暴れるのをやめた。

ロザリィ「ふぅ、バカロジーには何度も言ってンだけどね…アタシね、ワーとか全然好きじゃないしやりたくないの。それでね

ロォズィ「なんだと!!アホザリィ!!エレガントルタの誇りであるワーを!したくないだと!!!」

ロォズィさんは声を荒げて怒り出す。

エレズィタ「ロォズィ氏、ステイ」

エレズィタさんがさっとロォズィさんの目元を覆い腕をからめとる。ロォズィさんはモゴモゴいいながら静かになった。

ラパード「で、エレガンを摂らず干からびてしまいたい。と?」

ロザリィ「そうなの!そしたらミケェレさんが来て、アタシを持ち帰って、おウチに飾ってくれるンだって!ミケェレさんのおウチには干からびてないと行けないから…干からびて待たないといけないの!」

そう言うロザリィちゃんは少ない花びらがツヤやかに目の奥で光って…たぶん語り口からして、キラキラ乙女の目なのかもしれない。

ロォズィ「ムゴゴ…ミケエレという人物はエレガントルタの誰も見たことも聞いた事もない…オマエの妄言ダ…」

ロォズィさんはエレズィタさんの指の隙間から花びらを漏らしながら呻いている…

ラパード「あー…ミケーレさんな………ちょっと呼んでみるか」

眉間に皺寄せまくりながらラパードはポケットからスマホを出した。

ロザリィ「呼べるの!?」

ロォズィ「実在するのか?!」

無茶苦茶驚く2人をよそに、

スマホからアンテナのようにハンカチを取り出し……静かな部屋にプルルルルと呼び出し音だけが響く。

3度目の途中で音が止まる。

ハンカチがヒラリと落ちる。

落ちたハンカチから

ミケーレ「はァいラパード君!来たニャ!コレクター&商人のミケーレニャッ」

渋ボイスの、太っちょで豪華な服を着た2mくらいの全身フワフワ三毛猫おじさんが現れた。

ロザリィ「キャァァミケーレさぁん!会いたかった!」

ロザリィちゃんはすごく嬉しそうで目の中がすっかり花嵐だ。


ミケーレ「そんな事になってたニャんかー。どおりで干し終わんニャいニャーんと思っニャ」

でっかい猫…ミケーレさんは腕を組んで、渋声でニャンニャン言っている。

ラパード「確か俺がラパードって名乗り始めた頃から…かなーり長期間ロォズィさん代理通院してるんですけど?エレガン点孔用瓶何本作ったと…え?ずっとミケーレさんのせい???」

…よく分からないけど大変困った事態のまま長期間過ぎたんだなぁ…

ラパードも…思わず笑って…ないな。目が。目が怒ってる。口は笑ってるのに。

ミケーレ「ごめんニャー…ニャーもここにはたまにしか来れないから…じゃあラパード君にエレ干しきってもらったら一緒に行こニャ!」

ラパード「いや、どうやって??」

ロォズィ「否!そんな飾られるだけのトルタ殻な生き方なぞエレガントルタには似合わない!さぁロザリィ!ワーに行くのだ!戦い、舞い、そして活きるべきだ!誇らしく!鮮烈に!」

ロォズィさんはいつのまにかエレズィタさんから抜け出している。

ロザリィ「イヤ!ミケエレさんのお家に飾ってもらうの!」

エレズィタ「行かせてあげなさい」

ロォズィ「エレズィタさん!何故エレガントルタの誇りたるワーの一員が減るのを容認するのか!ミケェレ氏とグルなのか!」

エレズィタ「いえ、ミケーレ氏は今日初めてお会いしました」

ミケーレ「ニャフー。ロザリィちゃんが来たらアンティーク椅子にお座りしてもらってエレとビーズで花嫁さんみたいにお飾りするのニャー」

ロザリィ「素敵!」

ラパード「なるほど一枚づつピンセットで取り出せばなんとか…面倒だな…」

ロザリィ「お願いできますか…?」

もうグダグタだ。

エレズィタ「エレガントルタの大半はは本能のままに空を舞うだけの好き勝手な生き者なのに、なぜ飛びたくない者を飛ばせようとするのです。旅立たせてあげなさい」

ロォズィ「おれの妹に死ねと言っているのか!?」

エレズィタ「飾られ置かれるのを死ぬと同意義と考える貴方は、分かり合えません。私とて飛ぶのを嫌いエレベーターガールを続け、エレを得ていたというのに?他の飛ぶのに疲れたエレガントルタが地下で乾ききり、持ち去られた事にこれまで誰も気づかなかったというのに?」

ロォズィ「他に…連れ去ったのか!」

ロォズィはミケーレさんに詰め寄った。

ミケーレ「ニャフ!これまでコッソリここの地下に遊びに来てたけど乾いたトルタちゃん達以外会ってないにゃ!皆乾いてから相当経ってたけど、一緒に行く?って聞いたら喜んでくれたニャ」

そうこうしてる横でラパードはロザリィちゃんの目からお箸でエレを取り出している。ヒラヒラを素早く挟んで出すを繰り返す。器用すぎじゃないかな。

ロォズィ「…何人だ…」

ミケーレ「え?連れかえったトルタちゃんニャ?ロッサちゃんにイバラくんとエーレルさんにマキサちゃん…4人ニャ!毎日お掃除してお飾りして…みんなワーよりコレクション室を気に入ってくれてるニャ!」

ロォズィ「…本当に…本当にか?」

ミケーレ「そうニャー。ロザリィちゃんにもし気に入って貰えなかったら…また帰しにくるニャ」

ロザリィ「絶対気に入るに決まってるわ!」

ミケーレ「ニャフーそうだと嬉しいニャァ」

ラパード「ふぅ、あと10枚だがこれ以上抜くと喋りにくくなるがどうする?」

抜いたエレガンを袋に収めるのが面倒になったようで、その辺でヒラヒラしている。

ロォズィ「………絶対だぞ。絶対少しでも嫌だったら帰すんだぞ?」

ロザリィ「おにいちゃん…」

ミケーレ「約束するニャ!」

ラパード「よし、では残りエレも摘出するぞ」

ロザリィ「お願いします。ラパードさん、本当にありがとう…」

静かになった階段下様空間に、お箸のパチ、パチ、と挟む音だけが響く。

助手っておでこの汗を拭きにいくべきなのかどうなのか悩んでいるうちに

ラパード「摘出完了!あとはベクトルがもう少し収まればミケーレさん宅に行けるかと」

汗をラメ紫色のタオルで拭き取りながらお箸を仕舞った。

ミケーレ「えぇー?ベクトルも抜けないのニャ?」

ラパード「」

ミケーレ「おぉん…わかったニャ。ありがとニャー。お代は…今はコレだけだけど今度診察室に持ってくニャ!楽しみにするニャ!」

笹の葉を赤で染めたようなものに包んだ何かを手渡すと

ミケーレ「じゃぁ滞在限界だし、ベクトル抜けた頃にまた来るニャ!多分すぐニャ。ロザリィちゃんまたニャ!」

カラになったロザリィちゃんは、微かに手を振り返していた。

ブニョッとした音がしてミケーレさんが消える。

ぼくも消えそうになる。

やばい。寝ちゃダメだ。

いや起きちゃダメだ。

扉…扉を出すんだ…

白壁と同じ白い扉…

よし出てきた…


出た…かな…



圧巻だった花吹雪の中にピンクのひとひらがありそれを手に入れると赤ワイン1本と交換してもらえる話をどこかで聞いた気がしたのだけれど、テレビで見たのか、それも夢だったのかが思い出せない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ