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『16歳前日 ⑤』

肩の上にクロを乗せたまま、少年はあっという間にトリジンとの距離を詰めと、右手に握る銛をトリジンの顔に向けて突き出した。


人目に素人のそれと分かる緩い突きに、「遅い!」とトリジンは首だけ右に捻って最小限の動きでその銛をかわし、 即座に反撃に移ろうとした。


 次の瞬間、「やっぱそうかわすよね」という少年の声が、トリジンの左耳に届く。


 その言葉に反応し「やばい」と感じたと同時に、トリジンのみぞおちに激痛が走り、身体が後ろに崩れ落ちた。


崩れ落ちながら視界の隅に映る少年の姿に、少年の胴回し回転蹴りが、自らのみぞおちを直撃した事を理解した。


 ――――最初の緩い突きは囮で、こちらの蹴りが本命だったのか――― 

トリジンは少年の格闘センスに舌を巻いた。


 この年齢でこの動きは神童と言ってもいい。トリジンは膝をついて少年を見上げた。

 

 見上げたトリジンの眼前に、少年の銛の切っ先が据えられている。 


 「もう止めにしない?トリジン様では俺に勝てないよ」


 「コケーっにするな!!」


 トリジンの叫びと共に、彼の身体を覆う赤いオーラが再びはじけ、周囲に風を起こした。

「くっ!」突風に視界を奪われた少年は、一瞬目の前のトリジンから視界を外してしまう。


 「上にゃ!」少年の肩の上からクロから指示が入る。

 少年はその声に即座に反応し、上空を見上げ、「やべっ!」その場から飛び退いた。


 ドガアアア!!!!!


 トリジンの鶏冠から出た光線によって、地鳴りと共に、つい先ほど少年が居た場所に深い穴が開いた。


 「サンキュー、クロ。これ喰らってたら死んでたわ」

 

 なんとか間一髪でかわした少年は、背中に冷たいものが走るのを感じながら、再び上空に視線を送った。


 上空からトリジンが両手を必死にばたつかせて、少し減速しながら落下してきていた。

 

 「あ、そうか、ニワトリは飛べないんだった」


 こいつ(トリジン)強いのか弱いのか分からないな。いや、単純にアホなのだろうと結論付け、少年は瞬時にトリジンの落下地点であるこの場から離れた。


 少しした後、少年たちの居た場所に落ちてきたトリジンが、地面と激しく激突する。


 「コケっ!」


 地面と激突したお尻を擦りながら、トリジンはゆっくりと立ち上がり、少年の方へ顔を向けた。


 その目は赤く血走っている。


 少年を睨んでいるのかと思いきや、正確には少年の肩の上にいるクロに鋭い視線を送っていた。


 「姉上!魔族を裏切る気か!姉上の一言がなければこやつを葬れたものを!」


 「今こいつを殺すことは魔王様の総意なのかにゃ?お前はそういう命令をされてここに来たのかにゃ?」


 クロの赤い瞳が、真っ直ぐにトリジンを見据えている。


 クロのその一言にトリジンの表情がはっとなり、身体を覆っていたオーラがみるみる鶏冠に吸収され始めた。


 「コケっ!忘れてました!私の役目は、姉上に伝言を伝える事と、、、、なんだっけ?」


 トリジンは、慌ててスーツの内ポケットからメモを取り出し、中身を確認している。


 「ニワトリは三歩歩けば忘れるって言葉があるけど、本当みたいだな」


 聞こえると怒るので、トリジンに聞こえないように、こっそりとクロに耳打ちすと、「ほんとうだにゃん」と同意して深くうなずいた。


 「7人の小人共と名を奪われし少年に、呪いの期日が明日であると伝える事でした!」


 トリジンは得意げに胸を張ると、メモを大事そうに内ポケットに仕舞い込んだ。


 「コケーッケッケッ。危うく魔王様の渾身の呪いをすべてを台無しにするところでした」


 トリジンは顔を小刻みに動かして笑顔を見せた。


 ――――自分の知らない大切な話がクロとトリジンの間でやり取りされている。――――


 少年はその事に苛立ちをおぼえ、右手の銛を地面に手荒く突き立てた。


 「さっきから俺の事を名を奪われた少年って言ってるが、どういう意味だ?あと、呪いってなんだ!」


 「コケッ?貴様、呪いの事を何も知らずにここまで育てられたのか?」


 「だからその魔王の呪いってなんだ!?」


 少年の様子を値踏みするようにじっと見つめると、トリジンは再び愉快そうに顔を小刻みに動かし始めた。

 絶対こいつ今俺の事「コケ」にしてやがる!!少年は今にも飛び掛かりたい衝動に駆られたが、必要な情報を引き出すためグッとこらえてトリジンの返答を待つことにした。


 「コケーッケッケッ、教えてやろう。その呪いってのはな・・・」

 「やめるニャ!」

 

 クロがトリジンの言葉を遮ろうと声を上げたが、構わずトリジンは言葉を続ける。


 「その呪いってのはな・・・・・・・・・・・・・・忘れた。コケッ♪」


 「こおんんんの!とりあたまがあああああ!!!」


 辺りに少年の叫び声がこだました。

 思わず右手が地面に刺さっている銛にのびる。


 クロが「待つにゃ。まだ何か言おうとしているにゃ」と銛を使って攻撃しようとしていた少年を制すと、少年はしぶしぶ銛を地面から抜くに留めた。


 「忘れないうちに先に姉上に魔王様からの伝言を伝えておく。えーっと・・・・・・」


 しばしの沈黙の後、トリジンは慌てて再び内ポケットからメモを取り出した。

「もう忘れてるじゃねーか」と少年は内心思ったが、もはやつっこむ気すら起きない。


 クロはこの時、なぜ魔王がこの物忘れの激しい魔物を使いに寄越したのかを理解した。


例えトリジンが捕まり尋問を受けたとしても、すぐに忘れてしまうトリジンであれば、今回の呪いに不利益になるような情報を引き出すことは難しい。さすが魔王様にゃ、と自らの(あるじ)の思慮深さに関心してしまった。


 トリジンはメモを読み始めた。おいおい、もうメモ隠す事すらしねえじゃねえかと言おうと思ったが、静かにトリジンの言葉を待つことにした。

 

「お前をこの地に縛っていた呪いは明日で解ける。その後どうするかは、お前に任せる。以上だ」


 「・・・・・わかったにゃ」


 クロの神妙な声色の返事を耳元で聞きながら、少年は先ほどからのトリジンとクロの会話を反芻していた。


自分以外が知っている、何か自分に関わる重大な事を秘密にされていた事、そして何かの呪いの効果が発揮される日が明日であることは理解できた。


だが肝心な事が何一つわからない。その答えを確実に知っているのは、クロと7人の小人達だ。


 「さっきも言ったけど、色々聞かせてもらうからね」


 少年が肩の上のクロに目をやると、その決意に満ちた青い目でクロを見据えた。


 クロの本心としては本当は教えたく無い。のだが、、クロは諦めたように頷いた。

 

 「わかったにゃ。ただ、君の呪いに関して、私から言える事と言えない事があるにゃ。私から言えない事は、小人達から聞いて欲しいにゃ」


 「わかった。そうするよ」


 少年の手がクロの頭を軽く撫でた。いつもの優しい手つきに、クロは内心ほっとした。


 「・・・良かった。今度こそ嫌われるかと思ったにゃん」


 思わず口をついで出た言葉に、慌ててクロは口を自分の塞いだ。


 そして恐る恐る少年の横顔を見やると、どうやら少年は違うことに気を取られているらしく、今のクロの発言は聞こえていなかったようだ。

 

 少年がクロから視線をトリジンの方向に向けた時に、そこに居るはずのトリジンの姿はそこから無くなっていた。

 

 少年はその事に気を取られていたのだ。


 「いつの間に居なくなったにゃん。」

 

 さっきの発言を無かった事にして、クロが少年に話しかけた。


 「わからない・・・。まあ、ここでの目的は果たしたから移動したって事だろうね。って事は・・・・。」

 「小人達の小屋に向かったって事にゃ。今から小人達が襲われるにゃん。」


 「・・・・そっかあ、可哀想に。」


 言葉の割に少年に悲壮感は無い。

 むしろ意地の悪い笑みを浮かべている。

 「可哀想に。」と言いながら、地面に腰を下ろし胡坐をかいた。


クロにとっては、自分を忌み嫌う小人達がどうなろうと知ったことではない。小人達が襲われる事よりも、今は少年にどのように事実を伝えるかに思考を巡らせていた。


 「じゃ、トリジンはアカシ達に任せて、クロ、色々聞かせてもらうよ」


 「わかったにゃ」


 クロが少年の肩から少年の膝上に飛び降り、ゆっくりと少年の顔を見上げた。

 

 ―――そして少年は、16年前の出来事についてクロの言葉に耳を傾けるのであった。――― 

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