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『16歳前日 ④』

「コケー!!!だから!私は!!トリジン様だああ!!」

 トリジンが叫ぶと同時に、身体を覆っていたオーラがはじけ、周囲にするどい突風が起きた。


 「うおっと!」


 その勢いに思わず少年は二歩三歩と後ずさりさせられ、相手の気迫に押し負けた自分に「これが実戦てやつか」と苦笑した。


 「油断しないニャ。強力な結界で守られているこの島に入っこれている時点で、あいつは強いニャ」

 

 「・・・・・・。」


 少年の返事が無い。

少年の胸に抱かれたままのクロは、返事が無い事を不思議に思い少年を見上げた。


 「にゃ!!」

 

 嬉しそうにニヤニヤしてクロを見ている少年の顔と目が合い、クロは思わず悲鳴のような声を上げた。

 

 「クロは話す時、語尾にニャをつけるんだね!かわいいニャ~」


 嬉しそうに頬ずりしてくる少年を、クロは慌てて押し返す。

 過去に自分の正体を知った上で、こんなことをしてくる人間に出会ったことが無い。


 「私は可愛くないニャ!私は魔王の娘だよ!怖く!・・・怖くないのかニャ」


  ――――魔族の黒い猫―――。この島に来るまでに長く生きてきた彼女の人生の中で、自分の正体に気付いた人間に忌み嫌われるという事は日常茶飯事であった。


 そんな彼女は魔族であることが分かっても、変わらず接してくる少年の気持ちを未だに図りかねていた。


 「みんな私の正体を聞いて怖いっていうニャ。少なくとも今までの人間は全員そうだったニャ」


 クロは、少年の顔に向かって身を乗り出した。

 少しでも少年の真意を知ろうと顔をじっと見つめている。


 「だって、クロはクロでしょ」


 少年はそう言って笑った。

 クロは少年のその表情を吸い込まれるように見つめた。


 その目に映る少年の笑顔は、とても眩しくて、真っ直ぐに見れないような、でも視線を外したくないような不思議な感覚に襲われる。


 「俺はクロといっぱい喋れるって分かって嬉しいよ」


 少年はクロの視線を避けるように瞳を虚空へ泳がせながら、頭をかいて笑った。

 

 少年と小人達を監視する役目であるクロは、この16年ずっと彼を見続けてきた。

 

 そんな彼女だから知っている。


 彼が頭をかく時は、照れているということを。

 そして、そんな時の彼は決して嘘をついていないということを。


 「まあ、こいつ片付けたら、イロイロ聞かせてもらうからね。」


 無言でクロは少年を見上げる。

 そして何か言葉を発しようとしたその瞬間、突如間合いを詰めたトリジンが拳を振りかざして襲いかかってきた。


 「コケー!!俺様を無視して見つめあってんじゃねえええ!!」


 トリジンの鋭いパンチを咄嗟に差し出した銛で防ぐ。


 ガキ――イイン


 鋭い音と共に、少年はその場から4~5m吹き飛ばされた。


 少年は何とかバランスを取り着地すると共に、今自分がいた所、トリジンの今いる方向に目をやった。


 「・・・すげえ力だ」と吹き出した汗を手の甲でぬぐう。


 「くっくっく。この赤いオーラに包まれた今の私は、通常のトリジン様の三倍の力を発揮するのだよ。」


 トリジンは一連の動作で乱れたスーツの襟を正して、得意げに胸をはった。


「鳩胸だ。」


 少年の言葉に、少年に抱かれたままのクロの口元が思わず緩んだ。


 「ニワトリなのにニャ」


 「コケー!!だから俺はトリジン様だあ!」


 せっかく正したスーツを乱しながら、再びトリジンの身体からオーラが弾け突風が発生した。


 しかし今度は先ほどと違い、少年はその場を動かずうまくその風をやり過ごして平静を装っている。


 「トリジン様に一つ聞いておきたい」


 「なんだ?言ってみろ。紳士な私は君のその要求を許可しようではないか」


 トリジンは再び乱れたスーツの襟を正して、得意げに胸をはった。


 「今の状態が通常の三倍として、さらにその上の変身もあるのかな?例えば、、、、赤色のオーラが金色になってスーパートリジンとかさ」


 コンプライアンス的にぎりぎりをついてくるなと、トリジンは独り言をつぶやいた。

 しかし小さい声でつぶやいたため、今の発言は少年の耳には届いていない。


 「今の状態が私の最高の状態だが、私を怒らせたらスーパートリジン様として覚醒するかもしれないよ」


 うそぶくトリジンに、少年は白い歯をみせて笑いかけた。


 「安心したよ。だったら結構余裕だね」


 「余裕だ、、、、と?それは、俺が貴様如きより弱いって事か?弱いって事かああああああ!!!!」


 トリジンが少年の言葉に激高し、絶叫する。


 しかし、トリジンの身体を覆うオーラの色は赤いままである。

 どうやら本当にスーパートリジンにはならないようだ。

 

 わざと怒らせてみたものの、期待した結果にならず少し残念な気持ちで、少年は銛を構えた。


 「さあて、それじゃ、さくっといきますか!」


 そういいながら、今度は少年がトリジンに向かって走り始めたのであった。



早くトリジンで遊びたーい。

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