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『16歳前日 ③』

 二人の前に現れたその者は、顔はニワトリ、身体は黒いスーツを着た人間のような出で立ちをしている。

 明らかにこの島の生物ではなく、外部からこの島に侵入した異形の者である。


 「鳥人間??」


 「辺境の魔王様直属の部下、トリジン様だ。会えて嬉しいよ、名を奪われた少年よ」


 「ニワトリが喋った!」


 「コケー!!!誰がニワトリだ!私は魔族!トリジン様だ!!」


 トリジンが喚き散らすその様子は、少年にとってはニワトリが騒いでいるようにしか見えない。

 しかしながら、少年はそれを口にするのを止めた。


 何故ならば、肩の上にいるクロから緊張が伝わってきたからだ。


 見た目に反して、油断ならない相手なのかもしれないと緩みかけた警戒を、再び高める。


 「で、トリジン様は、この島になんの用だ?」


 少年はトリジンに話しかけながらも、片手を銛に当てたまま、臨戦態勢を保っている。


 トリジンは黙って少年を指さした、いや、正確には少年の肩の上のクロを指さしている。


 「一つは、そこにいる姉上に会いに来ました」


 「姉上?」


 思いがけないトリジンの言葉に、再び少年の緊張感に緩みが生じる。


 「猫が鳥の姉貴の訳ないだろうが。つくならもうちっとましなウソを・・・・。」


 「ちょ!お前!小馬鹿にしたような目で私をみるな!私は鳥じゃない!辺境の魔王様により作られし、トリジン様だ!そして、貴様の肩の上におられるそのお方も同じく・・・」

 「にゃー!!」


 トリジンの言葉を遮るように、突然クロが大きな鳴き声を上げた。

 

 耳元で大声を出されてた少年は思わず肩をすくめる。 


 「む、姉上どうされたのですか?もしや、姉上が辺境のま、、、」

 「にゃーーーーー!!!」


 再びクロが大きな鳴き声を上げる。たまらず少年はクロがいる左側の耳をふさいだ。


 「どうしたクロ?突然大きな声を出して??」


 クロはその質問に答えることなく、少年の肩の上で荒く息をしている。

 ここまで取り乱したクロを見るのは長い付き合いの少年にとって初めてだ。


トリジンもそんなクロの様子に戸惑っているようで、そんなクロの様子をきょとんとした表情で見ている。


 面食らったようなトリジンの顔を見て、少年の脳裏に、白い帽子の小人―――ドクトが、以前教えてくれた『ことわざ』が頭をよぎり、思わず苦笑する。


 「鳩が豆鉄砲食った顔ってこんな感じかな?・・・・ニワトリだけど」


 思わず口を衝いて出た独り言に、少年が思わぬところから反応があった。

 

 「ぷっ・・・・・」


 肩の上のクロがその言葉を聞いて吹き出したのである。

 あろうことか、そのまま肩を震わせて笑いをこらえている。

 

 その瞬間に、少年の中で長年の間疑問であった事に一つの結論が出た。


 少年は咄嗟に肩の上のクロを掴むと、自分の顔の前にクロを持ち上げて目線を合わせる。

 クロは突然の事に身を固くして、赤い目を見開いていた。


 「お前やっぱり俺の言葉理解してるよな」


 「うにゃ!」


 しまったという表情をした後、クロは観念したように首を縦に振った。

 

 クロは少年に対して距離を置き、自分の事を極力隠してきた。

 それは、少年に自分の正体がバレる事で、少年の呪いに関する監視役に支障をきたさないようにする為である。

 そしてドーナツ事件後、互いに打ち解けてからも、彼女は頑なに自分の正体を隠し続けた。

 

 建前は監視役に支障をきたさないためであるが、本心は仲良くなった少年にバケモノと思われたくなかったからである。


 普通の猫と違うということがバレてしまった今、少年の手の中でしゅんとしてうなだれており、顔のヒゲも垂れ下がっている。そして少年の次の反応を身を硬くしてじっと待っている。

 

 「おおお!やっぱりそうか!実は猫って人の言葉を理解するんだ!」


 少年は、新しい知識を得た喜びを胸に、クロを思わず抱きしめた。

 閉鎖的なこの島で育った彼は、本来の猫は、言葉を理解して相槌を打つわけが無いことを知らなかった。

 彼の無知のおかげで、なんとか良い方向に事が進んだことにクロは少し安堵したが、その安堵も長くは続かなかった。


 「田舎育ちのバカはこれだから困る。ただの猫にそのような芸当ができるわけないだろうが。そのお方は、魔族だ。それも高位のな」


 トリジンは、努めて落ち着いた口調でクロが隠し続けた秘密をあっさり少年に告げた。

 

 次の瞬間、クロはトリジンの顔面をぶん殴ってやりたい衝動に駆られたが、踏みとどまった。


 クロも本来は高い魔力を秘めているのだが、魔王の呪いを維持するために、常に魔力を奪われ続けており、現在はただの喋れる猫同然である。


 そんな状態のクロが、怒りに任せてトリジンに手を上げても効果が無い事は目に見えているので、我慢して自重したのであった。


 「魔族?ってことは、ニワトリ!お前のようにクロも喋れるって事か?」


 少年の好奇心が核心を衝く。

 「おトリジンと同じように」という少年の言葉に緊張が走り、クロは身を硬くして、大人しく少年に抱かれている。


 「コケー!!私はトリジン様だ!!当たり前だ!喋れるに決まってるだろうが!そして、その汚い手を姉上から離せ!!」

 

 突如赤くなった鶏冠とさかから、禍々しい赤いオーラが発生し、トリジンの身体を覆い始めた。


 「なんだ、クロ。やっぱり話せるんだね」


 少年はトリジンに視線を送ったまま、胸の中でじっとしているクロに話しかけた。


 「・・・うん。ごめん」


 消えそうな小さい声だが、確かに謝罪の返事が聞こえてきた。


 「なんでずっと黙ってた?」


 「・・・・・・・」


 責めるような口調の少年の言葉に、胸の中のクロは答えない。

  

 二人の間に少しの沈黙が流れる。


 「・・・・次隠し事したら、一生ドーナツあげないからな」


 そういうと、少年は大きな青い瞳をクロに向けて、いつもと変わらない笑顔をみせた。

 

 そのくったくのない笑顔を見たクロは、今まで感じたことのない感情が胸の中を去来し、なぜか自分の頬がみるみる赤くなるのを自覚した。と同時に、つくづく自分が黒猫で良かったと思うのだった。


 ―――なぜなら、赤くなった自分の頬を少年に悟られないですむから。


 「うん、もう隠し事はしない」


 クロははっきりとした口調で、そう少年に答えた。


 少年はそれを聞いて満足そうに頷くと、「後で色々聞かせろよ」と言いながら、再びトリジンに視線を向けた。鶏冠とさかから発生したオーラが完全にトリジンの身体を包み込んでいる。


 「さあて、今日の晩飯は魚介類からニワトリに変更かな?」


 少年は舌なめずりすると、クロを肩の上に乗せ、腰に差していた銛を抜いて構えた。


 「コケー!!!だから!私は!!トリジン様だああ!!」


 それが合図となり、少年は狩り以外で初めての戦闘に身を投じるのであった。

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