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幻想紀行百一首

作者: ミナミ ミツル

アキローニア大図書館の遺構より韻律形式で綴られた旅人の紀行文が発見された。以下はその全文である。

作者不詳であるが内容の記述から名高い冒険者である火剣のシンガニーと凍て矢のリリーナの共著であるとみられている。

『人馬の森』 13


傍らに 耳長の友 並び立つ


古の 祠で凌ぐ 通り雨


暗き森 はたと気が付く ここは何処?


助かった 命の恩人 ドライアド


呪い(まじない)の 奥義極めし 隠遁者


腕試し 二人がかりで 地にまみれ


ヘボ剣士 間抜け魔術師 押しかけて


四つ足の 賢き者は 苦笑い


修の日々 剣の(ひじり)が 宿るまで


皆伝と 云う名の頂 道半ば 遠けき道の 裾野に至り


老師座し 射手座見上げる 目に涙


弓と矢と 剣と魔法に 終わりなし


師の言葉 胸に刻みて 都へと




『ゴブリン亭にて』9


懐かしき 喧嘩の怒声 酒の杯


嬌声の 化粧の下に あばたツラ


カード舞い 欲目と意地が タンゴする


我が財の ゆく末握る 骨の賽


ゴブリンは イカサマ師だと 喚く友


もうやめろ 聞く耳持たぬ 耳長は


大口を 叩いて負ける クソエルフ


金がねえ 誰かのせいで ひもじいな


一杯の 粥を二人で かき混ぜる




『3枚の金貨を手に入れた次第』16


海行こう 突然ヤツが 言い出した


金髪に 理由を問うと 泳ぎたい


水底で 麗しきイス 夢見つつ


海賊の 隠し財宝 いずこかな


荷に紛れ 船に揺られて 海原へ


吐きながら いと恋しきは 師の森よ


セイレンの 歌声響く 船墓場


黄金の 夢に浮かれて 地獄絵図 早く覚めねば 鳥の餌食よ


折れマスト 腐りし甲板 朽ちた櫂


死してなお 金貨を抱く 鉤爪よ


宝得り あとはどうして 帰るかだ


渦巻いて 現れたるは クラーケン


ピノキオは なんとか出たと 空元気


ヨナだって ここから出たと 気休めを


大暴れ 一世一代 大博打


吐き出され 流れついたる 大地かな




『タロタロスの頂で』14


倒れ伏す 剣士の躰 熱を帯び 煎じる音に 咳が混じって


妙薬は 口に苦しと 言い聞かせ 拭う口元 まだ青白く


剣と鞘 重なりおうて 口甘く


廃城の まだらコボルト 主待ち


川馬が 溺れるドワーフ 背に乗せて そうはさせじと ひげを掴んで


ケルピーに 閃く刃 血で染まり


鍛冶親父 我らの手を引き あなぐらへ


響きしは 溶鉄踊る たたら唄


叩いては 命の如く 火を入れる


ヒゲどもと 石を肴に 酒煽り


腕相撲 百の爺様 天下一


肩を組み 叫び合いたる 武勇伝


月もなく 尽きぬ笑いの 夜長し


餞と 差し出されたる 短剣に 込められたのは 鍛冶師の誉れ




『錬金術師の館』13


黄昏に ドレイクの群れ 横切って


一宿の 寝床を求めて 門叩く


青年は 自ら称した 天才と


ヘルメスの 背を追いかける 青年に 付き従うは 黄金の侍女


いつの日か この手に望む エリクシル 


珍客に 水晶髑髏 微笑みて


フラスコの 中で佇む 小人かな


昔日の 叡知彫られし エメラルド 


大脳は 瓶に詰められ 夢を見る


奇な獣 千匹皮の 子の如し


檻の向こう キメラが睨み 吠えたてる


供された 謎の霜降り 美味しかな


なんの肉? 笑顔で彼は 当ててみて 




『幽霊谷狂想曲』16


闇下りて 谷へと流れる 霧襖 リビングデッドの 刻が来りて


三叉路に 三相女神 顕われて 我ら誘う 幽霊谷へ


幽霊に 出会いし月は 蒼ざめて


声無くも レイスは叫ぶ 哀憐歌


浅瀬にて 女が(すす)ぐ よだれかけ


ルサルカが 沼のほとりに 腰かけて


風撒いて ワイルドハント 駆けて行く 


槍掲げ 先頭行くは デュラハーン


黒猫が 墓石囲みて 会議する


あてどなく 月夜にさすらう ジャックの灯


墓守が 眠る間に 骨踊る


出してくれ 亡者の声が こだまして


道連れを 見初めし者は 吸血姫


耳長は その気はないと 断固拒否


死してなお 温もり求む 亡霊よ 恐れ慄け ドワーフの剣


陽が差して 幽霊谷に 朝来たる 不死者の姫も 棺に還り




『この道、我が旅』20


世界樹や 星に根を張り 天掴み


ゴルゴンの 狩場に並ぶ 朽ちた石 兵どもが 夢の跡かな


しとしとと 女神の涙 靴濡らし


一角や 媚びる相手を 間違えて


ドルメンの 陰に妖精 見え隠れ


ありふれた 悲劇吟じる 詩人かな


この辺り 巨乳ラミアが いるようだ! 抜け殻広げ 喜ぶ阿呆


一様に 村人曇る 此はいかに?


ドラゴンが 乙女の贄を 求めると 涙ながらに 老婆語りて


いざ往かん 邪悪なる竜 征伐に


丘の上 横たわりしは 我が獲物


竜は問ふ なにゆえ挑む 愚か者?


我が剣が 餓えし故にと 我叫ぶ


死の如く 我に迫りし 大顎


火花散り 逆鱗撫でる 我が刃


引き絞り 狙い定める 魔法の矢


凱旋は 首級(しるし)を掲げ 千鳥足


右腕を 宿の娘が 離さない


天仰ぎ 星のかんばせ 踏みしめて


旅続く 魔法と奇跡 ある限り 天馬が駆ける 虹の彼方に

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