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第五話 「その赤子初めてのプレイヤーにつき」

!×○××


 寒い。思わず泣き叫んだ。

 身を刺すような寒さが僕を包んでいる。

 そして僕はすぐに眠くなって、そのまま意識を手放した。



 目が覚める、周りを見渡す。

 首が、いや首と言わず全身が重たい。

 すぐ近くに僕を覗きこむ人がいる。ぼやけて良く分からない。

 何か暖かいものに包まれて。また眠くなる。



 何度も目を覚まして、その都度眠くなる。

 僕は赤ん坊だった。

 がりがりに痩せた母親の乳を吸って、母親に温められる。

 父親は見た事がない。

 僕はこの光景に似たものを知っている気がする。



 どの位、寝たり起きたりを繰り返したか、分からなくなった。

 起きるたび母親は楽しそうな顔で訳のわからない言葉を僕に浴びせかける。

 これがきっとこの世界の言語なのだろう。

 赤ん坊のこの体はすぐに眠たくなって酷く不便だ。

 母親は前世に比べれば、布切れとしか言えない様なボロを身にまとっていた。

 少しづつ体を動かせる様になってきた。



 最近は、なんとなく言葉が分かってくるようになった。

 僕の名前はカイン、というらしい。

 響きが良い。気に入った。

 返事をしたいが、まだ喉が上手く動かせない。

 うーとか、あーしか言えない。

 それでもその度に僕を抱っこしながら、嬉しそうに小躍りした。

 母親の体形が少しずつふっくらしてきた。良いことだ。



 まだ歩けないが、体は随分動かせるようになってきた。

 今は母親がいない。

 たまにこういう時がある。

 働いているのだろうか。

 生まれてからずっと、僕はこの部屋にいる。

 作りが質素だが死ぬほどじゃない。

 母親は帰ってくると決まって僕を抱っこする。

 あったかい。 



 母親は大分健康的な体つきに戻ってきた。顔色が良い。

 でも最近は表情が冴えない日も多いようだ。

 おかーさん、と試しに呼んでみる。飛び跳ねて喜んだ。

 僕も嬉しい気持ちになった。

 お母さんは、マリアという名前らしい。

 メイドっぽいおばさんにそう呼ばれていた。

 相変わらずお母さんの服は質素だ。

 みすぼらしいと言っても良いかもしれない。

 メイド服の方が上等に見えるのは気のせいか? 



 その日、お母さんは顔に青あざを作っていた。

 なぜかは分からなかったが、酷く嫌な予感がする。

 お母さんは時折つらそうな顔をしている。

 胸のあたりがきゅうっとして嫌な感じだ。

 思わず立ち上がって、よたよたとお母さんの方へ近づく。

 お母さんはびっくりして、それから大喜びした。

 鼻歌はちょっぴり下手だった。

 僕も真似をしてみた。

 僕も下手くそだった。

 楽しい。



 僕も随分自由に動き回れるようになった。

 気持ちに余裕が出来ていろんな事が気になる。

 女神さまはどうしているか、とか最近は良く考える。

 あと、この部屋は少し変だった。

 窓は頑丈な鉄格子があるし。

 扉には外からしか鍵をかけれない様になっている。

 食事も一日に二回だけ。

 たまに食事が無い時もある。

 そういう時は決まってお母さんが泣きながら僕に謝った。

 大丈夫、泣かないでお母さん。

 というとお母さんは決まって僕を褒めちぎって大泣きした。 



 控えめに見てお母さんはとても美しい人だった。

 真っ直ぐの金髪がきらきらしている。

 僕の髪の毛は黒っぽい茶色だから、あんまり似ていない。

 きっとお母さんにそっくりの美人になるわ、と言われても。

 僕は男の子です。とじゃれつく。

 お母さんは物語を聞かせてくれたり、文字を教えてくれるようになった。

 本も無いから、物語は暗記しているみたいだ。

 紙もペンも無いから、僕の手を取って一つずつ教えてくれる。

 カインはもの覚えが良いと、褒めちぎられた。

 照れくさいからやめてほしい。

 でも、褒められるのはやっぱり嬉しかった。

 なんか自覚すると、幼児退行が酷いな。体に引っ張られているのだろうか。



 文字の勉強にお墨付きをもらうと、今度は魔法を教えてくれた。

 魔法と聞いて僕は最高に興奮した。

 僕には魔法の才能があるらしい。

 魔法を使える者は、他の魔法を使える者が感覚で分かるらしい。

 魔法の練習はとても難しい。

 体の中にあるらしい魔力の感覚がさっぱり分からない。

 できるイメージを掴めば簡単らしいけど、ちょっと自信がない。

 褒めてもらえるように頑張る事にした。

 あと、お母さんは人間とエルフのクォーターらしい。

 美人な訳だよ。

 僕も八分の一エルフの血が混ざっている。

 僕もイケメンになってしまうのだろうか。やったね。

 魔法とエルフの血の事はお母さんとの秘密だって。誰にも言わない。



 僕は十歳になったらしい。お母さんが教えてくれた。

 お母さんは全然老けない。エルフの血のお陰だそうだ。

 お母さんと二人で下手くそな歌を歌う。

 ダンスの手ほどきなんかも受ける。

 僕がダンスなんて、悪い冗談みたいだけれど、とても楽しい。

 魔法も簡単な癒しの魔法を使えるようになった。

 相変わらず部屋から出して貰えないのは少し不満。

 もう少ししたら、外に出して貰って、女神さまを探しに行きたい。

 できれば戦う技術も知っておきたい。何があるか分からないから。

 やりたい事はたくさんある。

 この世界では成人は十五歳かららしいから、後五年で僕も大人になる。

 そうしたら、お母さんと一緒に旅に出る。

 いろんなものを見ながら女神さまを見つけて、お母さんを紹介する。

 女神さまはどんな顔をするだろう。今から楽しみだ。



 僕は

 どうしようもない

 馬鹿だった

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