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第二話 「その女神ぼっちにつき」

 周囲を良く観察すると、ぼんやりと人間の様なシルエットが浮かんできた。

 音は何一つ聞こえてこない。

 シルエットに少しずつ色がついてくる。

 まず目についたのは金色。

 緩やかにうねる毛髪は腰ほどまである艶やかな金色だ。

 顔の作りもまるで絵画のように均整のとれたもので、顔も体形も文句をつける男は存在しないだろうと確信する。

 身にまとっている服飾の類も過剰にならず、貧相でもなく絶妙な塩梅だ。

 一つだけ難点をあげるならば、その整った顔が今にも泣きそうな形に歪んでいる事だろう。


 全く、こんな美人を泣かそうとしている愚か者は一体どこの誰なのだと腹を立てかけてやめた。


 それは間違いなく私だった。


「すみませんでした!」


 先ほどまでの怒りが、長年の鬱憤が、一瞬で宇宙の果てのどこかに飛んでいった事は疑いようがなかった。

 だって、こんなにも申し訳ない気持ちにさせられる。全て私が悪いのだ。そうに違いなかった。


「土下座でも何でもしますから泣かないでください。ごめんなさい」


 私は言うと同時にひざまずいて、両手を真っ黒な地面につけ、これ以下はないと言うくらい頭を下げた。

 思わず自画自賛したくなるほどの土下座であった。生きている間に練習する機会はなかったが、どうにか上手く出来たと思う。


「なんでもしてくれるんですか?」


不安そうな、不審そうな声が聞こえたので、私は安心してもらえるよう誠心誠意答える事にした。


「私にできる事なら」

「じゃあまず立ってください」

「はい」


 素直に従う。何でもする、と言うのは私の本心からの言葉だった。もう死んでいるのだから、失うものすらなにも無い。何を恐れる事があると言うのか。


「じゃあ、私と友達になってくれますか?」

「はい、何なら恋人でも夫でも奴隷でも何でもなりますよ」

「え?いえ、お友達で」


 私に女神の友達が出来た瞬間だった。

 しかし友達とは何とも控えめな女神さまだ。

 私なら「何でも」と言われれば『見せられな○よ!』な要求をしてしまう可能性すらある。童貞なのでしませんが。

 いや待て、もしかしてカツアゲとかをされてしまう『オトモダチ』だったりするのだろうか。

 不安になってきた。別にそれでもいいけれど。


「女神さま、なんで友達になって欲しいのですか?」


 疑問に思った事を聞いてみるが、女神さまは答えてくれない。

 どころか不機嫌そうな顔になってしまっている。

 それでも美人だ。美人とイケメンは得ですね、くそったれ。

 私ですか、言わせるなよはずかしい。

 

「友達っぽくないです」


 は?

 私は女神さまが何を言っているのか理解できなかった。


「話し方が友達っぽくないです!もっと友達っぽくしてください」

「はい」

「ダメです!返事はもっと砕けた感じのタメ語で!」


 えぇー、なにこれ?

 敬語を使えよタコスケ野郎と言われた経験はあっても、タメ語を要求される日が来るとは思わなかった。

 理解が追いつかず、意味のなさない言葉が口をついて出てしまう。


「えーと」

「友達っていうのは対等な立場のはずでしょう!楽しい事もつらい事も理解し合っている、切っても切れない様な交友がある友人の事を指すと、あなたの世界の辞書にも載っています!」

「あ、はい」


 私は初対面の相手には基本的に敬語で話すようにしているのだが、それが気に食わないらしい。

 それに女神さまも辞書とか引くんですね、びっくりです。


「分かりました。わかった。理解した、出来るだけ気をつける」

「そう、それでいいのです!」

「で?なんでそんなに友達にこだわるの?」


 さっきまで熱弁をふるっていた女神さまが、途端にうつむいて黙ってしまった。


「いや、無理には聞かないですけど」

「口調!」

「はいはい」


 女神さまは控えめに言っても情緒不安定な性分らしい。

 怒った顔で口調の事を注意してきたが、またすぐにうつむいてしまう。


「で?」

「意外としつこいですね」

「友達になったので、聞いてやろうかと」


 女神さまが私を睨みつけるように見ている。

 これは話して貰えそうにない、と諦める。

 怒らせてしまったのだろうかと、少し不安も感じた。


「神って暇なんです」


 神って暇なんです。

 あまり聞きたい言葉ではなかった。

 ただでさえ薄い私の信心が瓦解する音が聞こえてくるようだ。


「ずっと一人で寂しいんです」


 それは、分かる気がする。

 私は初対面の人と仲良くなるのは苦手だ。

 でも誰かと話をしたり、遊んだりするのは楽しい。

 確かに一人でいるのは寂しいかもしれない。


「世界を作って、いろんな宇宙を観察して、それぞれの星で生まれる生き物を見ているだけの生活にはもう飽き飽きです」


 それは分からない。

 スケールが大きすぎて全く共感できない。

 私からすると、ちょっと面白そうだ。


「たまに神同士で交流する事もありますけど、癖が強すぎて苦手です」


 あれ、この人単純にコミュニケーション能力が低いだけの人なのか?

 自分以外に神はいない。とかではなく?


「じゃあ、人間とかと交流をもてばいいのでは?」

「口調!」

「はいはい、で、それはダメなの?」

「ダメです、試しました。私の作った世界から生まれた被造物は、直感的に私の事を神だと理解し、本能的に畏怖の念を抱きます。私は崇められても全く嬉しくありません。息が詰まるだけです」


 そう言うものらしい。


「待って、じゃあ私は?」

「あなたは私の作った世界の人間ではありません、私が言うまで神だと思ってなかったでしょう?」

「まあ、確かに。美人だなとは思ったけど、神だとは思わなかった」

「いきなり殴ろうとするし」

「それはごめんなさい」


 そこから詳しく話を聞くと、私は女神ダイスとは違う神の世界の人間らしい事が分かった。

 生きた人間を勝手にさらっていくのは、神の世界でも罪になるらしく、グレーゾーンである、死者の魂をさらっていく事にしたらしい。

 そしてそれがたまたま私だったと言う事だ。

 女神さまを殴らなくて本当によかった。神違いだった。

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