プロローグ
TRPGというゲームをご存じだろうか。
テーブルトークロールプレイングゲーム。(英語力皆無の私からすると、テーブルトークRPGならTTRPGじゃないのかと思わなくもない)
サイコロと、紙と鉛筆があればできるゲームである。
台本のない演劇だとか、ルールの決まったおままごと、なんていう風に呼ばれる事もある。
そして、このゲームには無限の可能性が秘められている。
私は神である。
失礼、ちょっと盛りました。私はちょっとした、ささやかな神である。
急に『なにをイタイ事を言い出すのか』とお思いだろうが、事実である。
三十路寸前二十九歳童貞クズ野郎が、なにを言い出すのだと、そう思ったであろうが、それも残念ながら事実である。
TRPGをプレイするプレイヤーは二種類に分ける事が出来る。
『プレイヤー』と、『ゲームマスター』である。
プレイヤーは、自分の分身となるプレイヤーキャラを創造して、冒険や不思議な現象に挑む。
ゲームマスターは、プレイヤーが楽しめる世界や設定を考え、実際のプレイをサポートしながらゲーム進行する司会者だ。
ゲーム進行において絶対的権限を持つのがゲームマスターである。
リアルに『私がル○ルブ○○だ』と言い放って良い存在なのである。(しかし実際にやると空気が悪くなるので、ルールに則ってプレイするのが望ましい)
つまり、神である。
そして、私はたった今人間を辞めた所である。
死んだのだ。
日が落ちてから、TRPGの自作シナリオを抱えて、ウキウキしながら軽快に車を飛ばし、一緒にプレイする友人の家へと向かっている道中、不意に飛び出してきた蝦夷鹿をはねたのである。
大きな雄鹿であった、二本の角が立派だった。
そして私は突然の事に気が動転してハンドル操作を誤ってしまい、車はコントロールを失った。道路を飛び出し電信柱に運転席側から激突する。
それだけなら、まあ、死にはしなかったかもしれない。
運の悪い事にエアバッグが作動しなかったのである。シートベルトはしていたが、作動しなかった。
そう言えば少し前にエアバッグ関係のリコールがあって騒がれていたっけ、と思いだしてそのまま意識を手放した。
なんともつまらない最後であった。劇的でも無ければ、何か意味があるとも思えない。ありふれた交通事故だった。