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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅳ章【勇者ロゼ・後編】
98/237

勇者のお供をするにあたって・36

 セトスに連れられ大部屋へと辿り着く。


『……』


「……」


 私、フレア、セトス、ロゼ、クゥと五人も人が居るにも関わらず、大部屋の中に沈黙が流れた。



 始めに言っておくと、この件に関しては、ノックもせずに部屋へ入った私が悪いと思う。チャンスをふいにしてしまったクゥには申し訳なくも思う。


 大部屋へと足を踏み入れた私達の視界に映ったのは、向き合う様にベッドの上に座るロゼとクゥの姿。

 クゥの肩にはロゼの両手が置かれていて、二人は、突然部屋に入って来た私達としばらくお互い無言で見つめ合った。

 予想外の出来事にその場にいた全員が固まってしまったのだ。



 少しの沈黙の後、『違うんだぁぁ!』とうめき声をあげたロゼがベッドに倒れ込み、身悶え始めた。


『なんやお盛んやなぁ』

 ニヤニヤしながらフレアがからかう。


「タイミングが悪かったわね。どうぞごゆっくり」

 そう言って出て行こうとする私をクゥが引き留めた。


『大丈夫。約束のチュウはもう貰ったから』

 少しだけ顔を赤くしたクゥがそう告げながら、嬉しそうにオデコを押さえた。


「あらそうなの? それは何よりだわ」

 約束のチュウとは砂漠で魔獣との戦闘前にしたアレだろう。

 律儀にもロゼはあの約束を遂行した様だ。欲を言えば私の居る時にして欲しかったが、ロゼは私が居たら絶対しないだろう。

 だからこそこのタイミングだったのだろうし……。


 笑顔で祝福する私の横には、ニヤニヤと笑うフレアと、キョトンとした表情のセトスが居た。


『なんや約束のチュウって?』


「砂漠で魔獣に囲まれた時に―――」


『説明しなくて良いから!』

 ベッドでのたうち回っていたロゼが、急に体を起こして私を遮る。そんなロゼの顔は羞恥により真っ赤になっており、ちょっと泣きそうだ。


『えっと……まぁ、お元気そうで何よりです。仲が良いのですねお二人は』

 平常心を取り戻し、爽やな笑顔で話すセトスがロゼの傷口を抉る。彼に悪気は無いのだと思うが、そんなセトスの言葉にロゼは更に顔を赤くして、今にも羞恥で死にそうだ。


 それからセトスを含む私達は、ベッドに突っ伏してしまったロゼをそっとして置き、催事が始まるまでの間、大部屋で雑談をして過ごした。

 内容は主に、好奇心を丸出しにしたフレアによる、クゥへの質問攻めに終始しており、時々、私にもその手の話題が飛び火しそうになったが、当然、想定内。私はフレアの質問を華麗にかわし続けた。





 陽が沈み、辺りが暗くなった頃。雑談していた部屋の扉を叩く音がした。

 私が返事を返すと、一人の女中が扉を開き、『失礼します。国王様が御呼びです』と軽く頭を下げ、告げた。


 そうして、アナメトス王の待つ謁見の間に通された後、御預けになっていた私達の素性についての話しをした。


 と言うか、素性も分からない私達を王宮に招き、あまつさえ部屋まで提供するなんて……。随分信用されたものだと、事情を説明するロゼとそれに聞き入るアナメトス王をぼんやり眺めながら考えていた。


『それで催事だがな、本当はこの国のブビリス大臣にそなたらの案内を任せようと思っておったが、今、先の後始末や催事の運行などでブビリスを含め他の大臣達は出払っておってのぅ。それでそなたらの案内はセトスに任せようと考える。セトス構わぬな?』


『はい、陛下』


『ふむ。我が国の英雄達に我が国を存分に楽しんで貰える様にしっかり頼むぞ』

 アナメトス王に言葉に、セトスが一礼して返す。


『それでロゼフリートよ。街を回る前に、少しだけ民への挨拶に付き合って貰えぬか? 別に何をしろとは言わぬ。ただ、民に顔を見せてやってくれればそれで良い。皆、救国の英雄たるそなたらの顔を知りたがっておるだろうし、催事も盛り上がるというものよ』


『はぁ、顔見せ位ならば』


『感謝する。では早速だが、余について参れ。既に民は集まっておる』




 そうやって、アナメトス王に引き連れられ向かったのは王宮の三階にあるバルコニーであった。


 バルコニーから眼下を見下ろすと、カーラン・スーの国民達が王宮前の広場を埋め尽くしており、私達の登場を待っていた。

 その凄まじい数の人々に圧倒され、ロゼの顔が引き攣り、クゥは不安そうにそんなロゼの背中に隠れてしまった。


 騒ぐ国民達に向け、アナメトス王が片手を上げる。途端に静まり返る広場。

 次いで、アナメトス王が短めの演説を行った後に私達一人一人の名を呼びながら紹介していく。

 名が呼ばれ、紹介される度に国民達から大歓声が巻き起こる。


 これはロゼじゃなくても恥ずかしい。

 アナメトス王はロゼの紹介時、ロゼの意向で勇者という肩書きこそ口にしなかったが、現状を見る限り、仮に勇者と名乗っても大差無かった様に思う。

 それほどまでの大歓声であった。

 


 こうして終始引き攣った笑顔のロゼと、緊張と不安で小さく白目を剥いたクゥ、そして大汗をかいて作り笑い浮かべる私達三人の、見世物の様な役目が終わった。ちなみにフレアは『嫌や』と一言キッパリ断り不参加。一国の王の頼みを一蹴してしまう辺り、なかなかどうして肝が座っていると感じる。


 拷問が終わりバルコニーの奥へと引っ込むと、私達の後ろに控えていたセトスが『お疲れ様です』と微笑みかけてきた。


「何だかどっと疲れました」

 大きく安堵の溜め息をつきセトスに告げる。


『あははは、慣れないとそうでしょうね』


「セトス王子は平気なんですかこういうの?」


「まぁ、まだ多少は緊張しますが、いずれ国を背負う僕としては慣れないとやっていけませんよ」


「そうですよね。はぁ……私が如何に気楽に王をやっていたのか痛感させられます」


『……マロンさんは王族の出なのですか?』

 つい本音が出てしまった私の言葉に、セトスが疑問を投げ掛けてくる。

 私が妖精王だという事は彼等に明かしてはいなかった。

 内心、しまった、と失敗を反省するが言ってしまった以上あとの祭りなので適当に誤魔化す。


「あ~、いえ、王というのは言葉の綾と言いますか、―――そう、ガキ大将みたいなものです」

 咄嗟に出て来たのは、私はわんぱく小僧です、とでも言う様なそんな言い訳であった。馬鹿か私は。


『あははは、ガキ大将ですか。意外とお転婆なんですねマロンさんは』

 セトスが私の馬鹿みたいな言い訳を真に受け笑う。


「いや、まぁ、はははは……」

 頭をかきながら笑って誤魔化す事にした。馬鹿か私は。


 そう笑い合う私とセトスの間に、唐突にロゼが歩み出て来た。


「どうかした?」


『いや、ミラ国王が――』


「ミラ? ミラがどうかしたの?」


『……何でもない』

 それだけ言って、バツの悪そうな顔でロゼが一歩下がった。


 何かあるのだろうか? 何故、突然ミラの話しを出したのかと私が口を開く前にセトスが言葉を発する。



『では、民への顔見せも終わりましたし、これから国の中を案内しますね。と言っても街をブラブラ歩き回るだけですが。出店なども出ている筈ですから、美味しい物でも食べながら散策するとしましょう』

 このセトスの、美味しい物、という言葉にガキ大将の私と緊張で白目を剥いていたクゥが大きく反応した。


 そんな二人の反応が可笑しかったのか、セトスが笑って『それでは参りましょう』と告げる。


 こうして、カーラン・スーぶらり探索美味しい物巡りが敢行されたのである。



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