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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅳ章【勇者ロゼ・後編】
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勇者のお供をするにあたって・34

『第二射、放てぇ!』

 合図と共に数十もの魔法が放たれ、鳥型の魔獣へと襲いかかる。

 次々と撃ち落とされていく魔獣。


 そんな光景を驚きと共に見上げていたクゥに、一体の魔獣が襲いかかる。

 が、クゥが慌てて避けるよりも前に、魔獣の体を剣が貫いた。

 いつの間にか私達のすぐ傍まで近付いていた一人の兵士が魔獣を突き刺したのである。

 その様子にホッとする私と、ギョッとするクゥ。

 そんな対称的な二人を僅かに一瞥した後、件の兵士は魔獣から剣を引き抜いた。


『英雄達を死守せよ! 死なせたら我が国の恥と知れぇ!』

 魔獣を突き刺した兵士が剣を掲げて声を張り上げる。

 他の兵士とは色合いの異なる鎧を纏っている事から察するに、上官であるのだろう。

 そんな上官の怒声に、周りの兵士達も雄叫びを上げる。

 腹の底に響く様な怒号の中、千は下らないであろう兵士の波が、私達を取り囲む魔獣達を呑み込み、次々と切り伏せていった。




『勇敢なる兵士達よ! 勝ちどきを上げよ! よくぞ守り抜いた!』

 最後の一体が地に伏せたのを合図に、剣を掲げた上官が声を上げる。

 そして、辺りに響き渡る勝ちどきの声。


 私はそれをジャズの背からぼんやりと眺めていた。

 カーラン・スーの兵達が魔獣を相手取っていてくれた事で、余裕の出来た私はフレアの手当てに専念する事にしたのだ。

 と言っても砂漠のど真ん中で出来る事は止血程度の応急手当が精々であった。


 眼下の兵士達から視線を外し、フレアに目を落とす。

 フレアの弱々しく小さな呼吸が兵士達の怒号の中でより小さく感じた。

 彼女は医術の心得がない私が見ても重傷と判断出来る程の大怪我を負っていた。

 魔法と、腕にキツく巻かれた布で、今は完全に止血出来ているが、先程までは失った右腕からダラダラと血が流れ出ていたし、頭から流れた血は彼女の横顔を赤く染め上げていた。

 出血が酷かった為か顔色もすこぶる悪く、生きているのが不思議な程である。



『ありがとうございます。お蔭で命拾いしました』

 上官と思われる兵士にロゼが礼を述べる。


『礼を言うのはこちらの方だ。我が国を救ってくれた事、心から感謝する。それで……』


「話に割って入って申し訳ないのだけれど、先に王国の方で仲間の手当てをして頂けないかしら? 重傷で」

 ロゼと話す上官の兵士に向けて、私がジャズの背から少し早口気味にそう声をかける。


『ああ、勿論だ。では、話しは王宮に戻ってからするとしよう』


 こうして私達は、カーラン・スーの兵士達に引き連れられ、王宮へと向かう事になった。


 


 


 王宮へ着くと真っ先にジャズの背からフレアを降ろし、その身を預けた。

 心配ではあるが、ここに来るまでの道中で王宮付きの魔法使いによる回復魔法を受けていた事もあり、フレアの容態は大分落ち着いていたのできっと大丈夫だろう。彼女の事は国の医療従事者に任せよう。


 フレアを引き渡した後、私達はそのまま謁見の間へと通される。

 玉座には既にカーラン・スーの国王とおぼしき人物が私達の到着を待っていた。

 王は50歳前後の男性で、顔にはいくつかの濃い皺が刻まれており、少し疲れた風な様子であった。


『父上、ただいま戻りました』

 国王の傍まで歩み寄った上官の兵士がそう言って頭を下げる。

 父上と呼んだ事から察するに、どうやら上官と思っていた兵士はカーラン・スーの王子であったらしい。

 その王子自らが兵を率いて私達の窮地を救いに来てくれた様だ。


 国王は王子に短く労いの言葉を掛けると立ち上り、私達に向けて言葉を発する。


『余がカーラン・スー国王、アナメトスである。英雄達よ、よくぞ我が国を救ってくれた。この国を代表してそなたらに礼を言う』


『い、いえ、そんなお礼なんととんでもない。俺……私達の方こそ助けて頂き感謝しています』


『なにそんな事。そなたら救国の英雄達への恩と比べれば、まだまだ返し足りぬ。

 本来なら国を救うのは王たる余の役目であった筈だ。

 だが、余は肝心な時に正体も分からぬ病に侵され、床に伏せっていた。実に情けない。

 国の舵取りもままならず、原因も分からぬまま、この国は緩やかに滅びてしまうのかと……。

 そこに現れたのがそなたらだ。いくら感謝してもしきれぬ』

 遠くを見る様にアナメトス王はそう話す。


『まぁ、聞きたい事も多々あるのだが、そなたらも疲れているであろう。部屋を用意するゆえ、ゆっくりと体を休めるが良い。

 原因となったあの魔獣が消えた事で、余を含め、民達も病が嘘であったかの様に英気を取り戻しておる。

 夕刻からは国を挙げての催物を開く予定だ。我が国の英雄達にも是非参加して欲しい』

 僅かに微笑みながらアナメトス王がそう告げると、ロゼが照れ臭そうに小さく頬をかいた。




 その後、私達はベッドが五つ並んだ王宮内の大部屋へと案内される。

 時刻はまだ昼であったが、雨に打たれ、魔力が枯渇し、砂にまみれて疲れ果てていた私は、ベッドに横になるとすぐ眠りに落ちた。




 窓の外から聞こえてきた喧騒で目が覚めた。

 モソモソとベッドから起き出し、窓の傍まで歩み寄る。

 外を見ると、太陽が沈みかけていた。

 窓ガラス越しに賑やかな音が聞こえてくる。

 高い塀に囲まれ街の様子は伺えないが、国を挙げての催物を行うと言っていたので、多分、その準備か何かだろう。


 窓から視線を外し、部屋を見渡すと、私の寝ていたベッドからひとつ空けて、同じベッドで仲良く眠るロゼとクゥの姿が視界に入った。

 確か、私が眠る前まではクゥは私のベッドのすぐ隣のベッドで横になっていた筈だったが、いつの間にかロゼのベッドに潜り込んだ様である。

 まぁ、人が大勢いる城なので何となく察しはつく。不安なのだろう。


 起きたロゼがどんな顔をするか見てみたいが、それよりもフレアの方が気がかりであった為、フレアの居る場所を目指し部屋を後にする。


 目指すと言っても居場所は分からないので、適当に歩き回り人を探す。

 程なくして、何かを話し込む二人の人物が目についたので、後ろから声をかける。


『ああ、あなたですか。ゆっくり休めましたか?』


「はい、お蔭様で」

 私が声を掛けたのは一人の兵士と、鎧を脱ぎ、ラフな恰好をしたあの王子であった。先程は兜でハッキリと分からなかったが、黒髪の彼は、親子というだけあってアナメトス王に良く似た顔立の美丈夫である。髪型がおかっぱなのだが、彼には妙に似合っている。


「仲間の様子が気になってしまって……」

 私の言葉に小さく頷くと、彼は兵士に向き直り何かを指示して下がらせた後、『案内します』と言葉を紡いだ。



 王子の後に続き、王宮内を歩く。

 大部屋に案内された時も少し思ったが、随分広い城である。ミラの城の2倍はあるのではないだろうか。

 上空から見た限り、城下の街もかなり広大であった様に思う。まさに砂漠の大国と言った所だろう。


「すいません。お忙しい時に」

 先導する王子に向けて、言葉を投げ掛ける。

 これだけの大国なのだ。色々と忙しいだろうに。私の案内などさせてしまい申し訳ない気持ちになった。


『お気に為さらず』

 歩を進めながら、王子がそう微笑む。


「ここは大きな国ですね。私が訪れた国の中では一番大きいです」


『ははっ、周りが砂漠ですからね。土地が余ってるだけですよ』

 そう言って王子が笑った。

 兵を率いていた時とはまるで違う、柔らかい顔をしていた。


「あ、すいません。自己紹介がまだでした。私はマロン・ウッドニートと申します」


『ああ、僕の方こそすいません。僕はカーラン・スーの第一王子、セトスと言います』

 そう名乗り、よろしくお願いしますと、セトスは柔らかく微笑んだ。



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