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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅲ章【勇者ロゼ・前編】
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勇者のお供をするにあたって・16

「そう言えば、大会の話を聞いていなかったわ」


 リトルマザー襲撃から一夜明けた、翌朝。無料で提供された高級宿の一室で朝食を取っていた私がそう言って話を切り出した。

 昨晩、クゥが部屋に来た時にでも聞けば良かったのだが、歳の話になった辺りで若干憂鬱になった。

 別に歳を気にする様な柄でも種族でも無いのだけれど……。


 そんな憂鬱を背負う私を見て、眠いのかな?とでも思ったのだろう。クゥはそれから少し会話をしてロゼの眠る隣の部屋へと戻っていってしまい、結局、大会の話を聞きそびれていた。


『ノーコメント』

 パンをかじりながらロゼが昨日に引き続き拒否の意を示す。

 言いたくないオーラが全身から滲み出ている。


「そこまで隠されると余計に気になるじゃない。余程聞かれたくない事でもあったのかしら?」

 からかう様に尋ねる。

 昨日、クゥが広場でポロッと口を滑らせたのでオデコにチューは把握している。私としてはそうなった経緯を知りたいところである。


「ねぇ、ロゼが意地悪して教えてくれないからクゥが教えて頂戴な」

『う、うん、別に良いよ。良いよねロゼ?』

『好きにしてくれ』

 クゥに許可を求められ、渋々といった感じでロゼが返答する。

 ロゼはクゥには弱い様だ。私もだが。


『えっと、マーちゃんはどこまで見てたの?』

「二つ目の課題までは見ていたわ。その後はちょっと野暮用が出来てしまって」

 メフィスト・フェレスについては触れない。いずれ話さなければいけないかも知れないが、隠せるところまでは隠すつもりだ。

 もっとも、人工生命体(ホムンクルス)の研究などという禁忌を侵すあの得体の知れない人物が、勇者なんて逸材を放っておくとは思えなかった。

 もしかしたら、昨日あの場に現れたのも勇者であるロゼの顔を確認する為だったのかも知れない。

 もしそうならば、いずれ向こうから接触して来るだろう。なんならいっそ先にリトルマザーが彼を見付けて欲しいくらいだ。

 リトルマザーにしてもいずれ戦う事になるだろうが、憂いはひとつで十分である。精々潰しあってくれないか。と、考えるのは妖精王らしく無いかも知れないが、それが私の正直な気持ちである。


『じゃあ、三つ目の課題からかな』

「ええ。一つ目がクイズ、二つ目が鬼ごっこ。三つ目の課題は何だったの?」

『三つ目の課題は、大絶叫! キュンキュン告白ターイム! だよ』

 クゥが、おそらくあの司会の女性の真似だろう。頬に両手を当て胸の前で肘をくっ付けた乙女ポーズで答える。最後の、だよ、と小首を傾げる仕種が可愛い。そこは多分、真似ではなくオリジナルだろう。


「ふふっ、成る程。名前だけで何となくどんな物か想像出来るけど、教えてくれる?」

『うん! えっとね~、この街のプロポーズってちょこれいとを相手に渡すだけだからプロポーズの言葉って無いでしょ? だから、三つ目の課題は、お互いにプロポーズの言葉を言い合うの、皆の前で』

 要は公開プロポーズという事か。それは、ちょっと、かなり恥ずかしい課題だと思う。

 ロゼが話したがらない理由は間違いなくこれだろう。


『でね。それを聞いた観客の人達が、そのプロポーズの言葉の中で一番良かったと思う人に投票するの』

「成る程成る程、それじゃあ、クゥもロゼもプロポーズの言葉を言ったのね?」

 ニヤニヤしながら私が問う。ロゼはクゥの話が始まって直ぐに、無理矢理飲み込む様に朝食を済ませ、部屋の隅っこで絶対王者(ザ・ワン)の手入れを始めてしまった。

 少しでもその場から離れたい、多分そんな事を思ってしまう程に恥ずかしい思いをしたのだろうと察する。


『う、うん』

 私の問いにクゥも少し恥ずかしそうにしていた。


「で? で? クゥは何て言ったの?」

 野次馬根性の様なモノを隠そうともせず、丸出しにして続きを急かす。


『あ、あのね。まず、助けてくれてありがとうって。……私、ロゼと初めて会った時にね、人間に殺されそうになってたの。そこをロゼに助けて貰ったんだけど、私、ちゃんとお礼言えてなかったから』

 やや俯きながら恥ずかしそうに語るクゥがとてつもなく可愛い。抱き締めたくなる衝動を抑え込み続きを待つ。


『それから、庇ってくれてありがとう。仲間にしてくれてありがとうって。嬉しかったって。魔族の私をそんな風に言ってくれる人間はロゼが初めてだったから。

 この街についてからは、ロゼは知らなかったからそんなつもりなんて全然無かったのは分かってるんだけど、ちょこれいとをくれてありがとうって、凄く嬉しくて、一人で舞い上がってごめんなさいって、でもさっきも私の事を、魔族だから何だって、それがどうしたって庇ってくれて、怒ってくれて、私は今とっても幸せだよって。

 それから……それから最後に、私は生まれて初めて恋をしたって、その……だ、大好きだよって』


 そう言って、顔を真っ赤にしたクゥが俯いて小さくなってしまう。

 プロポーズと言うよりは、愛の告白に近いがそんな事はどうでも良い。

 とにかくクゥが可愛い。

 そのあまりの可愛さに辛抱出来なくなった私が抱き付く。昨日痛めた肋が痛むが気にしない。気にならない。

 ええ匂いじゃ、ええ匂いじゃ、甘酸っぱい恋の匂いがしよるで。我を忘れて、そんなエロ親父の様な感想を持った。


 クゥを抱き締めながら、部屋の隅っこでこちらに背中を向けて手入れを続けるロゼに目をやると、耳まで真っ赤であった。

 クゥの告白をロゼが聞くのは二度目である筈なのだが、私に説明している為に一度目よりも、より詳細に、じっくり聞かされているのはある種の拷問だ。

 まぁ、そんな今のこの状況では絶対王者(ザ・ワン)の手入れだけが彼の心の拠り所であろう。推して知るべし。


「うんうん、クゥが幸せなら私も嬉しいよ。それでロゼは何て言ってプロポーズの言葉にしたの?」

 私は荒ぶった気を抑えクゥから離れると、元の位置に座り直しながら尋ねる。


『う、うん、えっとね―――――『うわあぁぁぁぁ―――!』

 羞恥に耐えきれなくなったのか、突然、雄叫びを上げたロゼが両手で耳を押さえながら部屋の外へと飛び出して行ってしまった。

 突如、奇声をあげ部屋を飛び出して行くロゼの背中をクゥがポカンとした表情で見詰めていた。


「大丈夫よ。ロゼくらいの歳だと時々ああなるのよ」

『そう……なんだ』

 適当にお茶を濁す。

 若気の至りを思い出して、ベッドで身悶えるのはきっとあんな感じだと思うので嘘ではないだろう。


「それでロゼは何て言ったの?」

『あ、うん。ロゼは、今すぐには無理だけど、旅が終わったら、け、結婚しようって』


 本当に? あのロゼが?


 普段のロゼの態度からはちょっと想像しにくい。

 別にクゥを嫌ってはいないだろうが、仲間や友人以上の感情を持っている様には見えなかった。

 まぁ、場が場であるから趣旨に合わせて仕方無く、という可能性も無くは無いが、ただ……。


 旅が終わったら結婚しよう。その台詞は何かが立ってしまってやいませんか?


 まぁ、でも―――何かあっても私が何とかしてみせるよ。

 恥ずかしそうな、でも幸せそうなクゥの顔を見ながら私はそう誓った。



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