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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅲ章【勇者ロゼ・前編】
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勇者のお供をするにあたって・15

 リトルマザーが撤退した事で、街から他の魔獣も姿を消した。

 どこに行ったのかは不明である。

 しかしおそらくは、メフィスト・フェレスを追い始めたのだろうと推測する。リトルマザーならば、―――あの強大な禍を持つ魔獣ならば、例え地の果てまで彼を追い続けるだろう。

 確証など在りはしないが、私は何となくそんな事を思うのだった。


 リトルマザーが虚空へと消えさり、私が彼女の飛び去っていた空間をしばらくぼんやり眺めているとロゼがやって来た。


『遅くなって済まない』

 慌てた様子で私の元へ辿り着くなり開口一番、彼はそう言ったが、今回ばかりはそれで良かったと思う。

 早い段階で彼が合流していたら、きっと戦闘になっていただろう。まさかあれ程の禍を保有する怪物だとは思ってもみなかった。戦えばきっと私とロゼは為す術なく殺されていた。

 運が良かったのだ。


「気にしないで。それよりクゥの所へ戻りましょう。きっと心配しているわ」

 ロゼは小さく頷いた。


 そんな彼の顔は暗い。

 多分、彼もあの強大な禍を感じたのだろう。彼女にその気さえあれば、この街は瞬く間に更地になっていたに違いない。それ程に彼女の力は常軌を逸していた。


『勝てると思うか? あれに」

 ロゼが真面目な顔で問うてくる。


「……いずれ勝たねばならない相手です」


『そうだな……』

 そう、いつかは戦い、勝たねばならないのだ。今は、彼女の実力の程を知れただけでも良しとするべきだろう。

 まだまだ私達の旅は始まったばかりなのだから。


 そんな事を話しながら私達二人が広場に戻ると、まず最初に目についたのは今だに燃え続ける建物の火を消火する人々の姿。


 次いで、広場の中心。

 何かを囲む様に集まる人々の姿が視界に入る。


 一体何事であろうか?

 先程まで、広場は魔獣で溢れて居た為、人の姿など皆無であった。居たのは私達三人だけ、リトルマザーの行方を追ってからは……。

 そこまで考え私は「クゥ!」と彼女の名を呼んだ。

 私の声に気付いて振り返った人々の手に持ったモノが炎によって映し出される。


 彼らが持っていたのは武器であった。

 私とロゼが慌てて人々に駆けよろうとした時、広場の中心に居た人々から大きく声が上がる。


『待て!待ってくれ!』

 ロゼが人々に向け、声を張り上げる。


『いやぁぁぁ――!』

 私達二人の耳に届いたのは紛れも無くクゥの声であった。

 その声にロゼが絶対王者(ザ・ワン)を抜こうと構える。


 その直後、私達の目に飛び込んで来たのは、人々に胴上げされ、感謝の言葉を投げ付けられるクゥの姿であった。





「どういう事かしら?」

 右手を頬に当てながら僅かに小首を傾げて問うてみる。


『さ、さあ?』

 問われたロゼも訳が分からないと云った様子である。

 間抜け顔でクゥと人々を見詰める私達二人の元へ住民達が集まってきた。


『勇者様! 御無事でしたか!』

『勇者様! ありがとうございます!』


『え~っと、はぁ。――――何が?』

 人々の言葉に頭に疑問符をくっ付けたロゼが気の抜けた返事を返す。


『隠さずとも宜しいのに。奥様にお聞きしましたよ。この街を守る為、魔獣の群れのボスを倒してくれたのでしょう?』


『流石は勇者様です!』


『クゥ様も魔族でありながら我々の為に獅子奮迅の大活躍でした!』


『ええ、全く。流石は勇者様の奥様ですね』

 どうやら人々は、いや、クゥもか、勇者ロゼが群れのボスを倒して魔獣を追い返したと思っているらしく、次々とロゼの活躍を誉め称え、感謝の言葉を口にする。

 実際は、勝手に何処かに行ってしまったのだけど。あえて口に出さない。


『あなたの活躍も見ておりましたぞ! 素晴らしい魔法の数々で魔獣を倒して行く姿は、かの大魔導士ルビー様の再来とでも言いましょうか』


「ど、どうも」

 どう返して良いものか分からず、愛想笑いを浮かべて私はそう返した。


 大魔導士ルビーというのは200年前に魔王を倒した勇者一行のメンバーである。

 私も一度だけ会った事があるが、真紅の髪を持つ女性で常に眠そうにしていたのが印象的であった。


『ロゼー!』

 住民達に囲まれ不本意ながら崇められていると、胴上げから解放されたクゥが両手を広げたまま人々の頭を飛び越えロゼに抱き付いた。


『クゥ、無事で何よりだ』

 ロゼがそう言ってクゥの頭を撫でた。


 そこで何を思ったのか、んー、とクゥが目を瞑ったままロゼに唇を突き出した。


『いや、しないから! どうしてそうなるんだ!?』

 慌ててロゼがクゥを押し戻す。

 クゥはムスッした表情で『昼間はしてくれたのに』と愚痴った。


「したんだ?」

 ニヤリと笑って私がからかう。


『してな……くはないが! オデコだよ! あれはしょうがないだろ!』


「別に恥ずかしがる事も無いでしょ? その辺りも後で聞かせて頂戴。身体が痛くて、早くゆっくりしたいのよ私」


『言わないし! 聞かせないし!』


「良いわよ、クゥに聞くから。ねえ、クゥ?」


『うん! 良いよ!』


 クゥの言葉に顔を赤くし、頭を抱えて悶えるロゼを住民達が静かに温かく見守るのであった。


 そんなやり取りの後、私達三人はラヴィールの宿へと場を移した。

 宿の部屋は広々としていた。

 大きなベッドはフカフカで、美しい装飾を施された家具はどれも高級感に溢れ、天井からはきらびやかなシャンデリアが垂れ下がっている。


 森暮しの私には場違い過ぎるとても豪華なこのお部屋は、広場に居た人々に案内された宿である。

 この街では最高級の宿であるらしく、建物は立派、受け付けも立派、支配人とやらの髭も立派であった。

 案内されたは良いが、とてもでは無いが私達にそんな金銭的余裕は無い。


「折角なんですが、ここお高いんでしょ?」

 と言う私への支配人の返答は、『お金を取るなんてとんでもない! 無料(タダ)で!』というものであった。


 そうやって私達は、豪華なスイートルームをあてがわれたのであった。


 私は個室であったが、ロゼとクゥは当然の様に同室である。


『マーちゃん、……部屋、交換しない?』


「嫌よ。私疲れてるんだもの。身体も痛いし」

 不安そうに交換を提案してくるロゼにそう言って私はさっさと部屋に引っ込んだ。


 ロゼはどう思っているのか知らないが、クゥはロゼに好意を抱いている様子だ。昼間の大会や、先程の広場の態度から私はそう判断した。

 そう言う事なら私は俄然応援せねばなるまい。多少強引だろうとも二人をくっ付ける為に尽力する次第である。

 まぁ、からかい半分ってとこもあるのだが、私はクゥに幸せになってもらいたいのだ。その為の労力を惜しむつもりはない。


 と、思っていたのだが、そんな私の思いなど微塵も感じていないであろうクゥが直ぐに私の部屋にやって来た。


「どうかしたの? ロゼは?」


『疲れたから先に寝るって。退屈だったらマーちゃんの部屋にでも行ってみたらってロゼが』


「そう」

 上手く回避したのね。思ったよりもロゼはなかなか手強いかもしれない。もっとグイグイ行って欲しいところである。


『マーちゃん! ここの部屋すっごいね!』


「ええ、本当にね。貴族かお姫様にでもなった気分ね」

 先程、ロゼに言った通り、疲れているし身体が痛いのだが、まぁ、死にはしないだろう。嬉しそうに話すクゥを部屋に戻れと無下にも出来ず、私はしばらくクゥとの会話を楽しんだ。


 と言うか、昼間の大会や魔獣の相手と、クゥが一番暴れ回っていたはずなのだが、何でこの子はこんなに元気なんだろう?


「そう言えば、昼間も思ったのだけど、クゥっていくつ?」


『ん? 16だよ? あ、そう言えばさっきロゼにも歳聞かれた』

 16だったのか。言動や容姿で実年齢より全然若く見えていた。魔族だからか、或いは生きてきた環境のせいもあるのかも知れない。

 それでもちょっと若い気がしないでも無いが、16ならば問題もあるまい。


「俄然やる気が出てきたわ」


『何の話?』


「気にしないで。こっちの話よ」


『……私ってやっぱり子供に見える?』

 僅かに俯いてクゥが尋ねてきた。


「どうしてそう思うの?」


『ロゼも……私の歳を聞いて少し驚いてたから……』

 俯いたままクゥが告げる。


「そうね……少し子供っぽいかも知れないわね」


『やっぱり……』


「でも、それも含めてクゥの魅力なのよ。あなたは可愛い。とっても可愛いわ。もっと自信を持って。ね?」


『うん。うん、ありがとうマーちゃん』

 私の言葉に俯いていた顔を上げ、クゥが微笑んだ。


『あ、マーちゃんはいくつなの?』


「……」


『あ、待って! 当てるから!』

 そう言ってクゥは私を見ながら、う~ん、と唸り始めた。

 ややあってから、『26!』とドヤ顔でクゥが答える。


「ええ、ドンピシャリよ」

 当たったと喜ぶクゥが、話し方が~とか、大人な雰囲気が~等々、色々と推理を披露するのを聞きながら、私は小さく「プラス800だけど」と呟くのだった。


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