勇者のお供をするにあたって・11
『二人のドッペル君を捕まえた時点で成功となり、順位に応じて得点が加算されます! 制限時間は30分! 参加者の皆様頑張って下さい!
それではラブラブ共同戦線! スタートです!』
司会の女性の合図と共に、参加者達が扉を開け、各自ダンジョンへと進む。
ダンジョン内の様子は、ステージ上空の魔法陣にて常時映し出される仕様であるらしく、観客を飽きさせない工夫がなされている。
ダンジョンとは名ばかりで、そこは一階層のみで構成されており、中は迷路があったり、幾つかの建物があったりと中々に広い。
さしずめ、子供の遊技場の様相を呈していた。
そんなダンジョン内を駆け回るドッペル君を捕まえるのは、中々大変そうである。
『さぁ! 始まりました! 各自、早くもドッペル君との鬼ごっこを繰り広げております! 逃げるドッペル君! 追う一同!
ここでやはり注目すべきは、ロゼ、クゥペアでしょうか!?』
司会の実況にロゼとクゥの画面に視線が集まる。
私も二人の画面を見る。
そこには凄まじい速度で駆け抜けるロゼとロゼが映し出されていた。追われている方がドッペル君であろう。
ドッペル君は重力をまるで無視し、迷路の床を、壁を、天井を疾走する。それに負けじとロゼも追う。
迷路を縦横無尽に走り回っていたドッペル君は、大きく跳躍すると迷路の天井を繰り出した拳でぶち抜き、そのまま建物上部へと着地する。
ロゼもドッペル君の開けた穴から外へ飛び出し、建物へ向け、跳躍する。
が、それを待ち受けていたドッペル君。
ロゼに向けて、握り拳を作ると、気合と共に手を開く。
ドッペル君の手の平から放たれた衝撃波は、空中で身動きの取れないロゼを捉え、後方へと大きく弾き飛ばした。
衝撃波を受け、大の字に吹き飛ぶロゼ。
しかし、そんなロゼの手をクゥが空中で掴む。そうして、クゥは跳躍した勢いのままに、ロゼを伴い空中で一度大きくグルンと不規則な輪を描き、吹き飛ぶロゼの勢いを殺す。
そうして、手を握ったままの二人がふんわりと地面に着地した。
そんな二人を画面越しに見ていた観客から歓声が上がる。
鬼ごっことは言え、勇者VS勇者である。ロゼの超人的な動きに観客達はいたく興奮した様子であった。
ドッペル君が自重しないせいか、ただ追い掛けているだけのロゼの評価がうなぎ登りである。ドッペル君はロゼと同じ実力ゆえ、当然の評価ではあるのだけど。
先程、吹き飛ばされたロゼをアシストしたクゥが合流し、今は二人で何やら作戦会議中である。
この魔法陣、声は聞こえないのだが、それでも楽しそうな顔をしたクゥの様子が映し出される度に、何だか私まで嬉しくなってしまう。
『おや? マロンさんじゃないですか?』
そんな二人を見守っていた私は唐突に声を掛けられた。
突然声を掛けられ、驚いて振り返りそうになる。が、それを無理矢理捩じ伏せる。
声の主に聞き覚えがあった。
顔を見た訳では無いが、十中八九間違いないだろうと思う。
「お久しぶりです。フェレス導士」
私は依然、正面を向いたままで声の主へと向け、挨拶を行う。
そんな私の態度にフェレスは愉快そうに小さく嗤う。
『そんなに警戒為さらなくても。あとメフィストで結構ですよ』
尚も愉快そうに嗤いながらフェレスが告げる。
「何か私に御用でしょうかフェレス導士?」
冷たく私が言い放つ。
『いえいえ、別に用と言う訳では。たまたまこの街に居たらなんでも勇者が来訪中だと言うではありませんか。
それで今代の勇者を一目見ようと赴いたところ、マロンさんをお見掛けしたものですから、つい声を』
フェレスがそう話すが、私はこの男を信用していない。彼は胡散臭さの塊の様な男である。
「そうですか」
私はそう言って早々に話を打ち切る。私はこの男が嫌いである。しかし、何故か先代は彼を友人だと言っていた。
友人? この男が? いくら先代とは云え、笑えない冗談である。
そう思う程に私は彼に嫌悪を抱いていたのである。
観客から歓声が上がった。
『ロゼ、クゥペアが見事一番乗り! 流石は勇者様、素晴らしい鬼ごっこでした!』
司会の女性がそう実況するのが耳に入る。
どこを見るでもなく、ただフェレスと視線を合わせない様にぼんやりと正面を見ていた私が魔法陣に視線を向けると、映し出されるロゼとクゥがハイタッチを交わしているところであった。
『ああ、流石は勇者です。ただ能力を真似た程度では彼には何の問題も無かった様ですね』
フェレスがそう感想を述べた。
『そうそう、お連れの魔族の彼女。良かったですね~、大きな問題にならず受け入れて貰えて』
その言葉に思わずフェレスを見る。
『ああ、やっとこちらを向いてくれました』
愉快そうに嗤うフェレスの顔が目についた。
内心舌打ちをするも、先程のフェレスの言葉に感じた違和感を口にする。
「何か、したのですか?」
漠然と問う。この男が、良かった等と口にするなど有り得ないと思ったからだ。
先程は、クゥが人々に受け入れられた、という喜びが先行してしまい気付かなかった。本来ならあの時に違和感に気付くべきであった。
人間と魔族の遺恨の念は深い。
ゆえに、勇者の言葉や愛を応援する街だからなどという理由だけで、人々がクゥをすんなりと受け入れる事など無い。
それほど両者の根は深いのだ。
にも関わらず、私はその事を考えもしなかった。
ただただ繰り広げられる望む未来の先端に触れたその出来事に歓喜し、簡単に受け入れてしまった。
『何か、という程の事でも』
私がそんな事を思考していると、フェレスが答える。続けて、
『ただ少し、共存共栄のお手伝いをさせて頂いたまでですよ。やはり人間と魔族はかくあるべきです。と、矮小な私などは思うわけです。一人の人間として』
おどける様に肩をすくませたフェレスがそう告げる。
「何百年も生きる方が、一人の矮小な人間だとは思えませんね」
皮肉を込めて、私はフェレスにそんな言葉を送った。
それを聞いたフェレスは薄く嗤う。
『そこに言及されてしまうと、返す言葉もありませんね』
降参のポーズを取ったフェレスが言った。しかし、そんな態度とは裏腹にフェレスの顔はどこか愉快そうであった。
「何が目的なのかしら?」
『ハハッ、まるで私が打算的な人間の様な物言いですね。私はただちょっとお人好しなだけですよ』
フェレスがそう嗤うが、まるで信用していない私の態度に小さく肩をすくませる。
『そうそう、そう言えば。そんなお人好しの私が少し前に迷子を拾いましてね。しかし、拾ったは良いが子供の扱いと云うものに全く不慣れでして。
ここはひとつ、馴染みのお願いを聞いて、その子供をそちらで引き取って頂けませんかね?』
子供、という事で少し気には為ったものの、この胡散臭い男のお願いなど聞く気にはなれない。
何故、私が、と口を開きかけた私を遮る様に、私から視線を外し、ステージをへと目を向けたフェレスが口を開く。
『報酬は、この街に於いての彼女の笑顔、なんてどうです?』
ロゼと共にダンジョンから出てきたクゥをクルクルと回す人差指で示しながら、フェレスがそう告げた。
脅迫か。本当に嫌な男だ。
『いいえ、お願いですよ』
私の心を読んだかの様にフェレスが微笑みながらそう言う。
それから、私が断るなどとは微塵も思っていないのだろう。『地図です』と、小さく折り畳まれた紙を手渡してきた。
ここにその迷子とやらが居るという事だろう。彼の話が本当なら、だが。
地図を受け取った私は一度ステージへと目を向ける。
既に二つ目の課題を終え、ステージ上で楽しそうに他の参加者の様子を眺めている二人の様子を伺う。
大会が終わってから三人で与えられた地図の場所に向かっても良いのだが、あの二人をフェレスに関わらせたくなかった。
私は小さく頷くとフェレスへと向き直る。
しかし、そこにフェレスの姿は既に無い。
『憂いも取れた事ですし、私はここらでおいとま致します』
ステージを見る観客達に紛れて、どこからともなくそんなフェレスの声が私の耳に届いた。
何故か、小説情報が完結済みに変わっていました。分かりませんが、寝惚けて変えてしまったかもです。すいません。