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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅲ章【勇者ロゼ・前編】
72/237

勇者のお供をするにあたって・10

『さぁ! 1つ目の課題が終わった所で現在の得点を見てみましょう!』

 司会の女性が告げると、一際大きな魔法陣がステージ上空に浮かび上がる。魔法陣には参加者の名前と得点が表示されている。

 我らが二人は15点満点中、3点。ぶっちぎりの最下位である。

 クゥの表情があからさまに暗い。そんな彼女の様子に、見ているだけのこちらが泣きそうになる。


 これからだよ。少しづつ理解していけば良いんだから。



『さぁさぁ! 得点確認も済んだ所で、続いての課題へと参りましょうー! オープン!』

 司会の女性が指を鳴らすと、テーブルと椅子がポンと音を立てて消える。

 次いで、それらと入れ換わる様にしてステージ上に扉が出現する。


『二つ目の課題として皆様に挑戦して頂くのは、ズバリ! 鬼ごっこ! 題して! ラブラブ共同戦線!!』

 司会の女性が手で短銃を撃つような仕草をしながらそう宣言した。ノリノリですね。


『これから参加者の皆様には扉の先に広がるダンジョンに潜って頂きます! ダンジョンと言っても危険な魔獣やトラップ等が仕掛けられている訳ではありません!

 ダンジョン内で皆様の相手をするのは皆様自身! これは聞くよりも見た方が早いでしょう!

 先ずは皆様、扉に描かれている手の様な模様に触れて下さい!』

 司会者の言葉に各々が、扉へと手を翳す。

 そうすると、扉が僅かに輝いた。


『はい! ありがとうございます! あ、まだ扉は開けないで下さい!

 これから皆様には扉の先のダンジョンへと赴いて頂く訳ですが、その前に皆様、上の魔法陣を御覧下さい』


 先程、得点が表示されていた魔法陣の映像が切り替わり、十数に分割された画面にダンジョン内とおぼしき映像が映し出される。

 その画面のそれぞれには、二人の人物が映り込んでいた。


『皆様、確認出来ましたでしょうか!? 今、見ている人物こそが今回皆様が鬼ごっこをして頂く相手、通称ドッペル君です!

 ドッペル君は、皆様と全く同じ姿、能力、思考を持っております!

 そしてそして、皆様にはダンジョン内にてこのドッペル君を捕まえて頂く訳です!

 これこそが二つ目の課題! ラブラブ共同戦線です!』

 先程と同じ様に手で短銃を撃つ司会者。


 ルールは理解した。

 要するにドッペル君によって顕著した自分自身を捕まえるって事だろう。能力が全く同じなら一人で捕まえるのは中々に難しい。そこで共同作戦、という事か。

 まぁ、それは良いのだけど…

 魔法陣に表示されたロゼとクゥのドッペル君を見る。

 そこには無表情のロゼが立っている。

 そしてその横に並んでクゥが立っている。


 帽子無しの状態で。


 パッと見た感じでは髪に隠れて気付かないのだが、注視するとクゥのやや下を向いた尖った耳が視界に入る。明らかに人間とは形が違う耳。

『おい、あれ』

『あの耳は魔族じゃないのか?』

 それに気付いた一部の観客から、ざわめきが起こる。

 そのざわめきは瞬く間に、波紋の様に広がっていった。



 その観客達の様子に、私は小さく溜め息をついた。

 残念だが、お祭りもここまでだろうか。

 そう考え、私は首から下げていた笛に手を掛ける。いざという時は直ぐにジャズの背に乗り、二人を連れてこの場を逃げる必要があるだろうから。


『え、え~と、申し訳ありません、皆様少々お待ちください』

 司会の女性はそう告げると、ステージの端で数人の人物達と話し合いを始めた。大会のお偉いさん方であろう。何やら激しく言い合っている様子がこちらかも確認出来た。



 尚もざわつく大広場。

 クゥは観客達に顔を見られたく無いのか、完全に俯いてしまい、此方からは表情を見る事が出来ない。

 今のクゥと、先程までの幸せそうなクゥの姿が重なり、胸が痛い。笛を握る私の手に自然と力が入る。



 しばらくして、ステージ上に上がって来たお偉いさんの一人と司会の女性がロゼへと近付いていく。ロゼの傍に居たクゥに視線を向けて、お偉いさんは僅かに顔をしかめ、避ける様にロゼへと歩を進める。

 彼にしてみればそれはほんの些細な事かも知れない。しかし、私はそれを拒絶と捉えた。

 彼のその態度に腸が煮えくり返る程に憤りを感じる。

 クゥが一体何をしたと言うのだろう。ただ魔族と言うだけで、何故、彼女がその様な目を向けられねばならないのか。

 途端にこの祭りも、大会も、茶番に見えてきた。「いっそ全部ぶち壊してやろうか」とすら思った。どの顔で愛の街とか言ってるんだか。


 私がそんな事を考えていた時だ。

 司会の女性とお偉いさん二人を相手に、何やら話していたロゼが突然、司会の女性が手に持っていた拡声用の水晶を奪った。




『俺の嫁は魔族だ! けどそれがどうした!

 文句がある奴は前に出ろ! クゥを見下す奴はこの勇者ロゼが相手してやる!

 どっからでもかかって来いや!』


 絶対王者(ザ・ワン)をステージの床に乱暴に突き刺しながら、ロゼが広場中に響き渡る大声でそう宣言した。


 ロゼの宣言に静まり返る広場。




 そして大歓声。

 かかって来いや!と息を巻いていたロゼが突然の大歓声に一瞬震える。ロゼだけでなく私もそれに硬直してしまった。

 クゥに至っては怯えて、頭を抱えしゃがみ込んでしまっている。



 ロゼの宣言時、暴動を覚悟した。

 故にジャズを呼ぶ為、笛を手に大きく息を吸い込んだ。

 しかし、その直後の大歓声により、そのまま私は呼吸すら忘れて硬直し呆然と立ち尽くした。


 観客達の大歓声と割れんばかりの拍手。正直、泣きそうになった。

 愛の街ラヴィールの人々はクゥを受け入れてくれたのだ。

 その事が堪らなく嬉しかった。

 クゥはしゃがみ込んだまま顔を上げ、信じられないモノを見たと云った様子でポカンと観客達を眺めていた。


 私は思う。

 彼が勇者で良かった、と。

 いや、そんな彼だからこそ勇者なんだ、と。

 涙が溢れそうになるのを必死に我慢して、私も観客達に交ざり二人へ拍手を贈る。

 どうも今日は涙脆い。歳かな?

 

 拍手を送り続ける観客の様子に困惑しながらも、ロゼが手を差し伸べ、しゃがみ込んだままのクゥを立たせる。

 クゥはロゼの手を取り立ち上がると、そのままロゼの胸へと顔を埋めてしまった。その肩が少し震えているのが目についた。

 ロゼはクゥの頭を撫でながら微笑んだ。




『えー、少々ハプニングも在りましたが、皆様の御理解が得られたものと解釈致しまして、大会を再開させて頂きたいと思います!

 愛の街ラヴィールはその名に恥じぬ様、愛し合う者達を応援します!』

 クゥが落ち着いた頃合を見計らい、片手を大きく挙げた司会の女性が再開を告げる。

 再び沸き起こる歓声と、二人への声援。

 愛の街ラヴィールは素晴らしい街だと思う。祭りをぶち壊そうとか思ってごめんなさい。

 何だか私は急にこの街が好きになってきた。

 今ならば、馬、豚、猿、猿、芋の求愛も受け入れてしまえそうだ。


 受け入れないけど。



 こうして二つ目の課題、ラブラブ共同戦線は再開されたのである。


 

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