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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅲ章【勇者ロゼ・前編】
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勇者のお供をするにあたって・9

 街の中心部に向かうと、そこはとても大きな広場になっていた。

 広場は人、人、人の海であり、僅かな隙間すらも無い程に大混雑していた。数百では効かないかな? 数千はいるだろうか?


 人垣の先を確認する為、爪先立ちしてみる。飛んで確認も出来るのだが、騒ぎになるのは目に見えているので自重する。

 人々の視線の先、遠く、広場の中央にはステージが設置されており、司会者とおぼしき女性と、十数組の男女の姿が確認出来た。


 その私の視界の中に、良く知る男女が映る。

 ロゼとクゥである。


 二人の姿をステージ上に発見した私は、一度大きく気合いを入れると人垣を強引に開き進む。

 足を踏まれるは肩を痛めるは散々であったが、何とかステージに最も近い前面へと辿り着く。


『時間も差し迫って参りましたので、そろそろ募集を締切たいと思いますが、他に参加されるカップルは居られませんかー!?』

 司会の女性が拡声用の水晶を片手にそう声を上げる。


 参加というのは合同結婚式に、という事だろう。

 どうやらあの二人は本気で結婚式を挙げるつもりらしい。


 二人に目をやる。


 引き攣った顔をしてステージに立つロゼと、そんなロゼの腕を両腕でしっかりと握り、満面の笑みを浮かべるクゥが見える。


 人間が苦手な筈のクゥだが、今はそんな事はどうでも良いのだろう。とても幸せそうに、祝福する人々の視線を浴びている。

 バレたら結婚式どころでは無いであろうに。

 とは言え、幸せそうなクゥに水を差すのも気が引けたので静かに成り行きを見守る事にした。多分、ロゼも同じ様な心境なのだろう。でなければ、引き攣った顔であの場には立つまい。

 ご愁傷様としか言えない。むしろ、少々、いや結構、若過ぎる気もするが、クゥの様な美少女と結婚出来るのだ、万々歳であろう。


 そう、クゥはとても可愛い。

 クリッと大きな目が特徴的で、ショートヘアーと笑った時にチラッと見える尖った歯が元気いっぱいな女の子と云った風を醸し出している。胸はまあ、まだ発展途上という事にして置こう。

 基本的にクゥは、おしとやかとは対極にあるちょっとお転婆気味の女の子である。

 私達の前では、時折そう云った姿を見せるのだが、人間を前にすると途端に萎縮してしまう。

 それだけを見たならば、人見知りの大人しい女の子にしか見えないだろう。


 故に、現在、ステージにて満面の笑顔で立つクゥの姿は意外であると同時に喜ばしくもある。

 私が見たいと望む世界はきっとこういうモノなんだと思う。

 人間が居て、魔族が居て、お互いが幸せそうに笑っているそんな世界。



『レディースアーンドジェントルメン! 皆様お待ちかね! とうとうこの日がやって参りました!

 我らが愛の街ラヴィールで最強の絆を決める年に一度の大イベント! 今年のナンバーワンカップルの座は誰の手に!

 これより第152回! 合同結婚式大会を開催致しまーす!』

 望む未来に私が想いを馳せていると、司会の女性がそう宣言した。

 人々から大きく沸き上がる歓声。


 ん? 結婚式……大会?


『ではでは、大会の流れ、及びルールをご説明致します!』

 司会の女性がコホンとひとつ咳をする。


『と言ってもルールは至って簡単! この後、参加者の皆様には三つの課題にチャレンジして頂きます!

 そして、その三つの課題を全て終えた後、最も得点が高かったペアが今年のベストカップルの座を手にする事が出来るのです!

 尚、優勝したペアには賞金と複数の特典が贈られます! 皆様、優勝目指して頑張って下さい!』


 ただの結婚式かと思っていたが、何だか妙な事になってしまった。

 でもまぁ、折角の祭りだし、楽しむのも良いかも知れない。

 これも思い出の1ページであろう。


「ロゼー! クゥー! 頑張ってー!」

 気持ちを切り替えた私は二人へと声援を送る。

 参加するからには優勝を目指して欲しいし。

 でもあの二人は本当に夫婦になるつもりなのであろうか? と言うか優勝なんかしたら自然とそうなってしまうのではないだろうか? そこんとこどうなんだろう?


 まぁ良いか、私じゃないし。



『それでは早速ひとつ目の課題へと参りましょう! オープン!』

 司会の女性が指を鳴らすと、ポポンと何処からともなくステージ上に幾つものテーブルと椅子が現れる。

 テーブルの上には『00』と書かれた魔法陣が浮かんでいた。

 魔法陣まで用いるとは、手が込んでいる作りである。



『参加者の皆様、どうぞお好きな席へとご着席下さい! 最初の課題は恒例! ドキドキ!カップルクイズ――!』

 片手を大きく挙げた司会の女性が高らかに宣言する。ノリノリですね。


『これから私が問題文を読み上げます! 参加者の皆様はそれに答えるだけ! ひとつ正解につき1ポイント差し上げます!

 尚、正解の是非は鑑定魔法を施された座席によって判定されます! 不正解の場合は、ピリッと痺れますのでご注意下さい!』


 何、その無駄に高度な魔法。


『それでは早速参りましょう! 第1問! 相手の名前をフルネームで! こちらは夫婦共に正解で1ポイントとなります!』


 へ?

 どんな問題が出るのかと思いきや、名前を答えるだけって。サービス問題というやつだろうか?


 参加者が次々と答え、正解していく。まぁ、当然だろう。

 正解したペアの魔法陣が『01』と変化する。1ポイント獲得と云う事なんだろうか。

 そして、うちの二人はと言うと。


『えっと、シャグナー・ロゼフリート』

 クゥがそう答える。


 へー、ロゼのフルネームを初めて知った。シャグナーと言うのか。


『え? クゥはクゥだろ?』

 ロゼがそう答えた瞬間、パリッと電気が流れ、ぎゃあ! と小さく飛び上がった。


 どうやらロゼはクゥのフルネームを知らないらしかった。

 そんなロゼに『ごめん』と両手を合わせて謝るクゥ。多分、教えて居なかったのだろう。


『お~と! サービス問題だったのですが、不正解のペアが出てしまった様です!』

 司会がそう実況すると、観客席から僅かに笑い声が聞こえる。

 まぁ、私もクゥのフルネームは知らなかったし。

 


『さぁ! どんどん参りましょう! 第2問! 相手の年齢は!? これも夫婦共にお答え下さい!』


 これもサービス問題だろうか?

 あれ?でも私は二人の年齢知らないや。


『20…』

 少し迷ってクゥが答える。


『14?』

 次いで、クゥとほぼ同時にロゼが問う様に答えた。


 ビリッ!

 ロゼとクゥが同時に飛び上がる。

 どうやら不正解であったらしい。


『おーと! ロゼ&クゥ夫妻またまた不正解! これは大丈夫なのかー!?』


 司会がそう実況する。

 ばつの悪そうなロゼが頬を掻き、その正面、テーブルを挟んだ向かい側ではクゥが少し暗い顔を見せる。


 二人は出会って日が浅いせいか、お互い知らない事が多い様である。少し心配になる。


『第3問! 旦那様のご職業をお答え下さい! これは奥様が正解すれば1ポイント獲得となります!』


 ん~? 妙な問題ばかりである。

 しかし、これは楽勝だろう。


『勇者』

 クゥが答えると、二人の魔法陣に1ポイントが加わる。

 と、同時に大きく沸き上がる観客。


 三問目にして漸く正解したクゥが安心したかの様に胸を撫で下ろすが、そんなクゥとは反対にロゼが少々苦い顔をした。


『なんとなんとー! ロゼフリートさんの職業は勇者だったー! まさかこの大会に勇者が参加する日が来ようとはー! クゥさん! まさかの勇者夫人! これは羨ましい!!』

 司会の女性が興奮した様に告げると、再び大きく歓声が上がる。


 流石、勇者。どこに行っても人気者のようだ。

 しかし、これによりロゼとクゥの注目度がハネ上がってしまった。ちょっと不味いかも知れない。


『さぁ! 勇者様の参加で俄然盛り上がって来た所で第4問! 奥様の好きな食べ物は!? 複数ある内の1つだけで構いません! こちらは旦那様のみお答え下さい!』


『ん~、アプーだな』

 ロゼがそう答えると、魔法陣が『02』と表示される。


 へー、クゥは妖精の果実(アプー)が好きなのか。その事に何故かちょっと嬉しくなる。



 そうしてその後も次々と問題が出されていく。

 好きな髪形だったり、特技だったり、趣味だったり、クイズ?と思わず首を捻る問題ばかりであったが、私は漸く理解する。


 これは、クイズと云う形式を取った相互理解の場なのだろう。

 問題を通して相手の事を知っていくのである。


 先程、一人ぼっちだった私が受けたプロポーズを思い出す。


 例えば仮に、あのプロポーズを私が受けた場合、私はその人物と夫婦になる可能性がある訳だが、初対面なので当然名前すら知らない。

 年齢も職業も何も知らない。ただただ、第一印象のみでプロポーズが成立してしまう。しかし、それで今後の関係が上手く行く訳がない。だってお互いの事を知らないのだから。


 そこでこのクイズである。

 相手の事を知る機会を与えているのだろう、そこから正式に夫婦となるか、やっぱり止めるか、冷静に選択する場を設けている、と云う訳だ。

 この祭り自体には、恋人同士の結婚の後押しの効果が。

 そしてクイズには、互いを知らない突発的な婚約の成立を牽制する狙いがあるのだと思う。


 ロゼ達以外にもチョイチョイ間違えている若いカップルなどは、日が浅いか今日成立したばかりのカップルなのかも知れない。

 遠回しに『君達、若いんだからちょっと冷静になれよ』と云ったところだろう。


 ふむ、わざわざこんな大掛かりな祭りをやらなくても良さそうではあるが、何か理由が在るのかも知れない。



 私がそんな事を考えている間に、1つ目の課題『ドキドキ!カップルクイズ』は終了を迎えたのだった。

 

 

 

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