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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅲ章【勇者ロゼ・前編】
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勇者のお供をするにあたって・2

「こちらへ」

 私は二人を促し森の奥へと入って行く。


 そこには白や薄桃の鮮やかな花を咲かせる大きな花樹がいくつも植えられている。

 この見目麗しい立木は、この辺りには自生しない。

 森に自生する花木は繁殖力が強く、その為、これらの木々は育ちにくい環境にあるのだろう。私を含む妖精達の持つ聖霊力と日々の手入れによって成り立つ風景である。

 色とりどりの花吹雪が舞う木々の回廊を進むと、一際大きな樹へと辿り着く。

 太く巨大な幹は天高くへと伸び、真下から見上げた枝葉は大きな屋根の様に広がっていた。


 七夜の樹と呼ばれるそれは、私よりも遥かに昔からこの場所に鎮座している。

 いつからこの場所にあるのかは知らない。

 私が聞いた話では、空と海と大地の次に生まれたのがこの樹なのだと云う。

 まだ名も無かった樹に、母を慕う様に多種多様な生命が寄り添った。

 樹は生命に多くの恵みを施し、繁栄への道を示した。

 けれど、謳歌を極め、増えていく生命全てを受入れるにはこの巨大な樹をもってしても出来ぬ相談であった。

 子たる彼らは、いつしか母の寵愛を独占する為に争い始める。


 小さな小さな小競合いは、次第に大きな戦いへと膨らんでいった。

 戦いはやがて、母たる樹すらも巻き込み始める。

 母は泣いているかの様に葉の涙を散らせた。

 しかし、それでも争いは終わらず、遂に母は嘆きの炎に焼かれる事になる。

 炎は七日七晩を掛けて樹を焼き尽くした。

 その灰は風に舞い空から陽の光りを奪った。

 その灰は雨と共に浸食し不毛な大地へと変えた。

 その灰は大地から流れ出て海を濁した。


 そうして、母の死に嘆き哀しむ子らは己らの争いの報いを受ける事となる。

 ひとつ、またひとつと滅びて行く種族達は安寧を求め母の元を離れて世界に散って行った。

 

 そんな中で唯一、争いに参加しなかったとある種族が小さな種を植えた。

 燃え残った母の根を苗床にしたその小さな種を、その種族は大事に育てた。


 後に妖精と呼ばれるその種族は、長い年月を掛けて、再び世界に亡き母を甦らせる。

 その後、妖精はその功績を以て、母の樹の守護者となり、母への不可侵を宣言した。あの悲劇が二度と起こらぬ様に。


 それから妖精族は今日に至るまで、ずっと母と寄り添い守り続けているのだという。



 私はこれを先代の妖精王より聞かされた。のだが、如何せん先代は性格が少々アレだったので作り話臭い。

 先代の話は大抵が真実2割嘘8割と云ったところである。


 流石に、こと妖精のルーツや役目について嘘を付くとは思えなかったが、それを出鱈目だろうと思ってしまう程に先代は性格に難があった。何故あれで妖精王に成れたのか甚だ疑問である。


 先代の事だ。私が次代の妖精に王を引き継がせる際に、この話をドヤ顔で語って聞かせる私の顔などを想像してニヤけたりしているのであろう。そんな先代なのだ。

 現に私がその話を聞いた数日後に役目について質問をしたところ、何の話だっけ? みたいな顔をした。明らかに忘れている。

 もしかしたら、記憶にございませんと、ボケたその顔すらも狙いだった可能性があるので、この話が真実なのか嘘なのか正直、今も私は判断出来ずにいた。

 本当に困った先代である。



「ロゼ、この樹の根の中心に」

 私は七夜の樹の側にある根を手で示しながら、ロゼを呼ぶ。


 そこは大きな樹の根が地中から半円を描く様にはみ出している。

 この中心で勇者へ加護を与えるのが代々の習わしなのだという。

 先代に「何故、この場所なのです?」と理由を尋ねると、様になってるから、という答えが帰ってきた。


 要するに先代的に格好良いからこの場所で加護を与えるっていう話なのである。ちょっと意味が分からない。

 もしかしたら、本当はちゃんと意味が在る可能性も否定出来ないので私は言われた通りに毎回この場所で、勇者に加護を与え続けている。


 三度目の加護の時に、何故この場所なのかと当時の勇者に尋ねられ、流石に「格好良いから」などとは口が裂けても言えず、七夜の樹の根から力を~とか、習わしで~とか、長々と説明した覚えがある。


 何故、私がそんな嘘を付かなければ為らないのか。先代が憎い。


「今から貴方に加護を与えます」

 ロゼが根の中心に立つのを確認し、私がそう告げる。


 そしてやや緊張気味のロゼの正面から肩に手を置き、力を込める。


 先代曰く。

 ここで発光すれば格好良い、との事だったが、流石にソレは意味が無いと理解出来たので普通に儀式を行う。


 力を込めると一瞬だけ、私の中の何かが消失した様な感覚に陥るが特に身体に異常が起きる訳ではない。

 私はロゼから手を離し「終わりました」と告げる。


 告げられたロゼはキョトンとした顔付きで立っていた。


 これは毎回、加護を与えられた勇者全員に見られる兆候である。

 なんせこの加護を与える魂分の儀(たまわかちのぎ)は地味なのだ。


 端から見れば、私が勇者の肩に手を置いた、それだけである。

 手を離した時には儀式は既に終わっている。発光する訳でも何でもない。

 故にどの勇者も『え? もう終わり?』と云った様な顔をするのである。


 恐らく先代もこの地味さを理解しているからこそ、発光して演出力を高めろ、儀式をやった感を出せと助言をしてくれたのであろうが、あの先代の言いなりになるのも釈然としないので、私は発光なんか絶対しない。私なりの先代への反逆である。


「今は与えられた実感は無いかも知れないけど、徐々に身体に馴染んで来るから~」

 私は安心させる様にロゼにそう言う。


 私の言葉に、今ので本当に加護を与えられたと認識したロゼが礼を述べる。


 私は柔らかく微笑む。

「これで貴方は正真正銘の勇者です。貴方の進む道の先には幾多の困難が待ち受けている事でしょう。ですが、貴方にはそれを乗り越えるだけの力と」

 私はロゼの側に立つクゥを見る。


「そして仲間が居ます。貴方なら必ず成し遂げられると信じています」

 再びロゼへと視線を向け、私はそう言葉を紡いだ。

 ロゼが私に頭を下げて礼をする。


「そんなあなた方に私からもうひとつ贈り物を授け様と考えています。是非受け取ってください」

 私はそう言って七夜の樹を離れ、先程まで二人を労っていた妖精達の広場に向かい足を動かす。

 ロゼとクゥも私の後に続く。

 

 広場に戻ると妖精達が私達の周囲に集まってきた。


『終わった~?』

『終わったみたい』

『みたい』

『おめでとう勇者様』

『おめでとう』

『とう』

 妖精達に囲まれて、祝福を受ける二人を余所に私は妖精達にこう告げる。


「これより私も勇者の旅に同行します。森の事は皆に任せるから木々の世話はしっかり頼むわね」


『マーちゃん行くの?』

『わかったです~』

『です~』

 私は微笑み、妖精達に向け小さく頷くと、私の突然の同行宣言に驚いた様子の二人に顔を向ける。


「微力ではありますが邪魔は致しません。私からの贈り物、受け取って頂けますね?」

 私は自分の胸に手を当て、贈り物は自分自身だと二人に言葉を投げ掛ける。


 ロゼは少し戸惑った顔をして、クゥを見た。

 しかし、ややあってから『よろしくお願いします』と笑顔で私を受け入れてくれた。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」



 こうして私の旅は始まったのである。


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