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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅲ章【勇者ロゼ・前編】
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亜人のお供をするにあたって

『陛下、森で取れたアプーに御座います』

「ふむ、頂こう」

 小さく切り分けられた果実の一切れを口の中に放り込む。途端に広がる甘い果汁に俺は思わず笑みが溢れた。


 俺の左隣には猫の耳を頭に生やした若い獣人の娘が座っており、その両手にはアプーが乗った皿を持っている。


『美味しゅう御座いますか陛下?』

 猫耳の娘カカオがそう聞いてきた。


「うんうん、凄く美味い」

『それは宜しゅう御座いました』

 俺の言葉にカカオは破顔微笑し、果実を指で摘まみながら、あ~ん、としてくる。

 そんなカカオに向かって口をあ~んと開くと、カカオが俺の舌の上にチョンと果実を添えてくる。決してワザとでは無いが、ちょっと指も舐めてしまった。


『くすぐったい』

 そう言ってクスクス笑うカカオ。その仕草がとてつもなく可愛い。


『陛下、どうぞ此方も』

 そう俺に声を掛けたのは右隣に座る兎の耳を生やした若い獣人の娘ラビィ。

 ラビィはカカオの持つ皿から指で果実を摘まむと、カカオ同様、あ~ん、としてくる。

 俺があ~んと口を開くが、中々果実がやって来ない。仕方無いので口を開けたまま自分から迎えに行くと、ラビィがからかう様にフワフワと果実を動かす。

 俺が漸く果実を捕まえると、ラビィが優しく俺の頬をつついてくる。


『ふふ、陛下可愛い』

 ラビィが笑顔でそう囁く。





『天国じゃああああああぁぁぁあ!』

 亜人の森に俺の歓喜の声が響き渡った。





 10日前。

 夜明け前に城を出た俺達は、鈴虫達に見送られ海岸へと向かった。

 その中に幼女の姿はない。

 泣くかも知れないが、連れて行く訳にはいかないのだ。ここは心を鬼にする。


 日が昇り始めた頃に海岸へと到着。ビクトリアと合流後、沖に停泊していた海賊船ビクトリア号へと乗り込んだ。


 それから船は島を迂回する形で、島の南側の海へと進む。

 目指すはここから南南東に位置する南の大陸、その西側。亜人の支配する森である。


 途中で2度、嵐に遭遇したものの、船は8日を掛けて南の大陸西側の海岸へと到着した。


 ここでの宝玉探しにどれだけの日数が掛かるのか分からないので、ビクトリア達とはここでお別れする。大陸を出る際の船はおいおい考える事にした。


 海岸から1歩出ると、そこはもう木々が生い茂る森であった。

 森の木々や草花がところ狭しと生え鬱陶しい事この上ない、それに加えて南の大陸だけあって暑い。不快指数は直ぐに頂点を指した。


 宝玉捜査犬アキマサによれば、宝玉はこの大陸では無い様だが、一先ずは亜人の長に会う為に森を行く事に決まったのだ。


 アンによれば、ここらの海域には人魚族なども棲んでいる為、亜人の許可無しに海を彷徨くのは怒りを買う可能性がある。との事だった。

 ビクトリア号は特に問題なく大陸に辿り着いたが、ちょっと通る程度なら問題無いのかも知れない。



 亜人の長に会う為に森を進む。

 たが、特に当てなどはない。勘で歩いているだけに過ぎない。

 亜人と遭遇出来ればラッキー位のもんである。遭遇さえ出来れば長の居場所を聞けるだろう、と呑気に構えていた。

 なんせこちらには勇者様が居るのだ。勇者の名を出せば亜人なんてちょちょいのちょいだぜ!


 そうして亜人の森を歩く事、約1時間。

 早くも暑いだの草が鬱陶しいだのと文句を言い始めた。誰が?


 俺が。

 プチの背中に乗っているだけだが、暑いものは暑いし、鬱陶しいものは鬱陶しいのだ。疲れたとは言ってない。


『こうやって森を歩いてると、遭難してたあの森を思い出しますねー』

 アキマサが話し掛けて来るが、とっくに不快指数が上限いっぱいにある俺は会話どころではない。なので「そうなんだー」とだけ返しておいた。


 覇気のない俺の言葉に、アキマサは俺との会話を早々に諦めてアンに話を振っていた。話を振られてちょっと嬉しそうにアンがアキマサと会話を始める。


 何でお前らそんな元気なんだよ。

 楽しそうなアキマサとアンを無視して、キリノへと視線を向ける。

 キリノは相変わらずの仏頂面だが、汗だくである。

 お前は我慢大会にでも出るつもりかよ。


 俺がそんな事を思っていると、プチとキリノが同時に歩みを止めた。それに気付いたアキマサとアンも会話を止め、辺りを注視する。


 しばらくして、俺達の前方から現れたのは体躯が良く、全身を毛に覆われた虎の顔をした獣人であった。

 第一獣人発見である。


『人間がこの森で何をしている』

 低い声でそう言葉をぶつけてくる虎の獣人。


『俺達は勇者一行で、この森の亜人の代表に会いに来ました』

 アキマサが返事を返す。


 うんうん、リーダー頑張って。

 コソコソとプチの頭の後ろへ隠れながらアキマサにエールを送っておく。


『勇者? 貴様がか? とてもそうは見えんな』

 そう言って虎の獣人は馬鹿にした様に鼻を鳴らす。


 ごもっとも! ごもっともな意見だよ虎さん!

 アキマサはどう見ても、田舎の素朴な兄ちゃんにしか見えないんだよな。腰に下げた剣に至っては、都会に憧れて牛一頭と交換しました、って感じのアキマサには不釣り合いな豪華さだもんな。


 良く分かってんじゃんコイツ、と俺がプチから身を乗り出す。

 そんな俺を見た途端、虎さんの顔付きが変わった。


『よ、妖精!? まさか本物なのか?』


 およ? 何か知らんが俺に驚いているぞ?

 うん、――――これはこのまま押し切れるんじゃないか?

 そう感じた俺が、オホンとひとつ咳をし、プチの頭の上へと立つ。


『良く気付いたな! そう! 我輩こそが妖精にして至高の存在、最後の妖精皇帝(フェアリーエンペラー)である! 頭が高い! 控えい!』

 ドーン! と胸を張って宣言してみる。ダメ元だ。言うのはタダなのだ。


 俺の言葉に驚愕の表情を浮かべる虎さん。次いで『はは~』と膝をつき頭を下げた。


 うわっ! マジかコイツ! チョロい。

 俺がそんな感想を抱いていると、周りの草木がガサガサと音を立てた。

 気付くといつの間にか十数人の獣人に囲まれており、その誰もが膝をつき俺に頭を下げている。


 あ、獣人チョロい。

 ポカンとするアキマサとアン、それと若干可哀相な奴を見る様な目を獣人達に向けるキリノを横目に、俺はそんな事を思うのだった。



『あなた様の御名前は?』

 虎さんがそう聞いてきた。


「ふむ、偉大なる我が名はクリである! 最後の妖精皇帝(フェアリーエンペラー)クリだ!」


『おお! なんと御立派な御名前!』


 虎さんがそんな事を言うんです。自分の名前にケチつけるのも何だが、正気かコイツ?


『私はタイガーと申します。亜人の村にて警備隊長を務めております!』

 タイガーはそう言って頭を下げた。


 いや、お前タイガーて……。もう虎で良いだろそれ。

 まぁそれはそれとして、今、亜人の村と言ったな。村があるのか。


「そうか、宜しくなタイガー! 時にタイガー君、我輩は亜人の長に会いたいのだが、村までの案内を頼めるかね?」


『喜んで!』

 感無量とばかりにタイガーが言葉を返してくる。


「ふむ、良きに計らえ。おっと、その前にそこの者達の紹介をしておこう」

 俺はアキマサへ顔を向ける。


「そこの男こそ、我が友にして勇者! 勇者アキマサである!」

 獣人達からおお、と感嘆の声が漏れる。


『おお! やはり本物の勇者でしたか! ひと目見た時の偉大な気配でそうではないかと思っておりました!』

 タイガーがしれっとそう告げる。


 お前、鼻で笑ってたじゃん。中々ふてぶてしいな。


『という事はそこの女神―――いえ、美しい女性方はもしや』

 コイツ、アホだが計算高いな。今の絶対ワザとだろ。


「ふむ、分かるか?」

『奥方様達に御座いますね!』


 なんでやん。

 マジなのか? 計算か? どっちだ?

 もう面倒臭いからそれで良いや。家来よりもそっちの方が待遇は良いだろう。


「ふむ、その通りだ。アンにキリノである。目を掛けてやってくれ」

 俺が肯定すると、アンが、またか、と云った表情で頭を押さえて天を見上げた。

 キリノは無表情だが、それが逆に怖い。


 それからタイガー達に案内され、亜人の村へと向かう事となったのだった。


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