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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
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風呂のお供をするにあたって

「汗臭いアキマサを伴い城へと戻る。見付けた謎の石は汗臭いアキマサがヒィコラヒィコラと汗を掻きながら城へと運んだ」


『あの……なんで口に出して説明を? あと! 汗臭い言い過ぎでしょ!』

 憤るアキマサを無視し城を歩く。


 何をプリプリ怒っているのやろ。


『じゃあコレはお雪さんにお任せします! お風呂借りて来ます!』

 珍しく機嫌を損ねたアキマサは石をお雪に預けると、風呂場へと向かっていってしまった。



 大陸では殆ど見掛けなかったのだが、東方三国に於いては白百合城は勿論の事、城下町の至る所で風呂屋を見掛けた。


 俺は熱い湯に入るという習慣が無かったのだが、アキマサの元居た世界では毎日入っていたそうだ。

 俺やアンも興味があったので、国に来た初日、手合わせが終わった後にアキマサと共に風呂屋へと向かう事を鈴虫に話した所、『風呂ならば城のを使えば良い。どうせ妾しか使わぬ』と提案されたので白百合城の風呂を借りる事にした。


 城へ戻ると意気揚々と風呂場へ向かう俺。


 ちなみにこの時は俺はラナの身体だったのだが、俺とアキマサが一緒に風呂場へと向かおうとした所でキリノに止められ『一人で入れ』と命じられた。

 アキマサも言われてから気付いたらしく『あ~、それもそうですね』と俺に先を譲ってくれた。



 そうやっていざ風呂場へ付くと二人の女中が待ち構えていた。


 お待ちしておりました、と俺に頭を下げた後に服を脱がそうとしてくる女中。


「え!? いや、ちょっ、ちょっと待って!? な、何!?」

 女中は少し怪訝な顔をしながらも手を止める事なく俺の服を剥ぎ取っていく。


 何の罰ゲームだろうか。


 どんどんと布が少なくなっていく自分に凄まじい羞恥を覚え、顔を手で覆った。


 いや、別に裸を見られる事には殆ど抵抗は無い。何故なら妖精の時は素っ裸なのだ。一応、一人称を「俺」と言ってはいるが妖精に性別は無い。


 で、ある筈なのだが自分ではなく、他人に素っ裸にされるのは屈辱的であり、超ハズい。


 脱衣場にて素っ裸にされた俺が、中へと案内される。


 桶に座らされると、案の定、身体までも世話される始末。


「ひ、一人で出来るから」

 そう言っては見たものの、『御遠慮為さらずに』と笑顔で返され取りつく島もない。

 俺の素性を知らないこの二人からしてみれば幼女姿の俺は、何でも一人でやりたいお年頃、程度に思われたのだろう。


 結局、隅から隅まで丹念に洗われてしまった。もうお嫁にいけない。

 風呂上りの火照った身体と羞恥で焼死しそうである。いっそ死んでしまいたい。



 フラフラと部屋に戻り、アキマサに交替を告げる。

 何も知らないアキマサが待ってましたとばかりに風呂へと向かった。

 そんなアキマサの態度に俺の羞恥は急速に身を潜め、代わりにムクムクと沸き上がる悪戯心。


「アキマサ! 風呂は最高だったぜ!」

 風呂場へと向かうアキマサの背に向けそう言い、親指を立てて見送る。


 そして、アキマサが角を曲がった所で、俺は後ろからこそこそと付けて行くのであった。


 アキマサが風呂場に入るのを確認すると、素早く風呂場の前に陣取り聞き耳を立てる。


 まず最初に『ひぃ!』と怯えた声が聞こえ、次いで『ま、待って! 待って下さい! 一人で、一人で!』と喚く声が聞こえた。


 直後に服を若干乱した半泣きのアキマサが風呂場から飛び出して来た。


 笑い転げる俺を尻目にアキマサは逃げ出した。



 散々笑い転げた後に女子部屋へと移動する。


「風呂空いたよー」

 部屋の外から気さくに声を掛けるとアンが出てきた。


「いや~、風呂最高だったわ」

 俺は爽やかな笑顔で感想を告げる。


『それは楽しみです! キリノも一緒に行こうよー』

 そう言ってキリノを誘ったアンは連れ立って風呂場へと向かっていった。


 ふふふ、ショータイムだ。

 悪そうな顔で俺が頬笑んだ。


 キリノは勘が鋭いのでちょっと間を空けてから風呂場へ向かい、陣取る。


 直後に、『いえ、あの、自分で出来ますから!』と焦った様子のアンの声が聞こえてくる。


 皆、言う事は同じらしい。


『お気に為さらずに、これも私共の仕事ですから』


『そ、そう言う事では! ――――ッ出直して来ますー!』


 そうアンが叫ぶと同時に脱衣場の扉が開き、笑い転げていた俺と目が合った。


 目が合った事で少しだけ硬直したものの、顔を真っ赤にしたアンが眼で射殺すかの様に俺を睨みつけてきた。


『知ってましたね?』


「俺達って仲間じゃん? 嬉しい時も悲しい時も恥ずかしい時も、皆で分かち合おうよ!」

 爽やかな笑顔で良い事っぽく言ってみた。

 

『楽しみにしてたのに――!』

 あんまりですー! と叫びながらアンは走ってどこかに行ってしまった。


 ふぅ、スッキリ!

 俺だけ恥ずかしい思いをするのは嫌なのだ。皆にも体験して貰おうという俺の気遣いである。だって仲間だし?

 クックックッと思い出し笑いに興じる。


 そこであれ? と首を傾げる。


 キリノが出て来ない。

 もしかして口下手が災いして成すがままに風呂へと導かれているのか?


 有り得る。基本的にキリノは魔法に関してはぶっちぎりの実力者だが、ことコミュニケーションに於いては全然駄目駄目である。

 今頃、キリノはあの二人の女中に蹂躙されているのだろう。

 どんな顔で出て来るのか凄く興味深い。


 これは何としても拝まねば!


 それからしばらく、期待に胸膨らませ待っていると風呂場の扉が開き、キリノが出てきた。

 いつものシスターっぽい服ではなく、東方三国特有の着物を纏っている。

 湯上りで火照り頬は薄く赤色に上気し、見慣れぬ服も相まって何とも色っぽい。

 笑ってやろうと構えていた俺が思わず見蕩れてしまう。


 うぐ、これは予想外だ。キリノが基本美女なのを完全に忘れていた。不覚にもちょっとドキドキしてきた。

 白肌を艶々させたキリノは一度だけ俺に視線を向けたが、特に何も言わずにふんわりと香しい匂いを振り撒いて去っていった。

 

 な、中で何があったんだ!?


 俺がそんな疑問を抱いていると、二人の女中が出てきた。

 女中二人は何故か頬を赤く染め、肌をツヤツヤと輝かせている。服も何処となくヨレた感じである。

 そして、うっとりした表情を浮かべたまま去っていってしまったのだ。


 マ、マジで中で何があったんだ!?


 その後、アンが鈴虫に直訴した事により、風呂に女中が付く事は無くなった。

 ちなみに鈴虫は生まれも育ちも姫らしく、女中が風呂で世話をする事に何の抵抗も無い様子であった。

 毎日アレなのか。ちょっとしたカルチャーショックである。




 そろそろ話を戻そうか。


 石をアキマサから預けられたお雪を伴いキリノの部屋へと移動する。

 そこでキリノに持って来た石を見せたところ、返ってきた答えは『封印石』という事であった。

 お雪の話では、彼女の知る限り東方三国で魔法を扱う者は居ないらしい。


 と云う事は、大陸から渡って来た誰かが魔獣を封印したのだろう。あれだけの魔獣を封印していたのだ、相当に魔法に長けた人物なのだろう。

 加えて、その封印解除に宝玉を用いた事から過去の勇者である可能性が高い。いや、十中八九勇者だろう。

 ただ、いつの時代の勇者なのかはキリノにも分からないと言う。


 キリノ曰く、文献に残る限りでは過去に勇者は二人居た。


 一人はカーラン・スーの碑文にも記されている400年前の勇者、名をロゼフリート。

 そして、もう一人は600年程前の勇者。こちらは名前だけでもアース、イフ、マユラ等々諸説あり、性別も男性と書いてある文献もあれば女性だと書かれる文献もあってハッキリと分かっていないらしい。

 いい加減なものである。まぁ600年も前の話だし仕方無いのかも知れない。

 とにかく、どちらかの勇者が過去にこの島を訪れ魔獣の封印を行ったのだ。


「今回、封印が破壊された訳だけど一昨日の魔獣以外に魔獣が沸いてくる可能性はあると思うか?」


『ない』

 懸念事項であった今度の魔獣出現の可能性をキリノがバッサリ切り捨てる。キリノが無いと言うなら無いのだろう。


 横で真剣な表情で話を聞いていたお雪がホッと胸を撫で下ろす。

 魔獣復活を阻止出来なかった自責の念が少しは軽くなったのだろうか。あんまり思い詰めないで欲しいものである。

 この国はもう大丈夫そうだな。後はラナの事も含めてアキマサが風呂から戻ってから皆で決める事にしよう。


「あれ? そういえばアンは?」

 今更ながらアンが居ない事に気付き、キョロキョロと辺りを見回す。


『風呂』

 キリノが簡潔に答える。


 な、なんだってー!!?


「い、いかん! のんびりしてる場合じゃない! 由々しき事態になっているやもしれん!」

 そう叫び声を上げ、俺は風呂場へと急いだ。


 俺が風呂場に到着した時、目に飛び込んで来たのは、風呂場の前で頬に綺麗な紅葉を貼り付けて伸びているアキマサの姿であった。


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