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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
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お雪のお供をするにあたって

 魔獣との戦が行われた2日後。

 朝から俺はアキマサとお雪の二人を伴い、魔獣の出現した山へと赴いていた。



 昨日、半日程アキマサやアンは事後処理の手伝いに奔走していたが、避難していた町民達が戻って来た事で人手に余裕が出来、町民と交代する形で二人はしばしの休息を取っていた。


 二人が遅い昼食を取り終わるのを見計らい、旅の今後についてを相談する。

 その際に宝玉についてアキマサに尋ねたのだが、どうやら近くには反応がない、との事だった。


 やはり持ち逃げされたのだろう、あの大悪魔に。って事はやっぱり生きているのかアイツ。一体どうやってあの状況を切り抜けたか知らないが敵ながら天晴れと言わざるを得ない。

 と言うか、アイツが宝玉持ってたなら危うく宝玉を粉々にする所だったのでは?とチラリとそんな事を思ったが口には出さなかった。終わった事を追究されても困るし。


 粉々になったらその時はその時だよねー。えへ。


 ラナについては特に相談しなかった。

 と言うより、すぐ隣にラナ本人が居たので出来なかったのだ。

 ラナの今後については折を見て話すとしよう。


 で、旅の今後についてだが、アキマサが山の様子を見に行きたいと申し出た。

 魔獣の大群は殲滅したとは云え、今後、再び出現しない保証も無いので山を調査してみたい、との事だった。


 まぁ、もっともな話だろう。


 そんな訳で、何があるか分からないのでゆっくり休息を取り翌朝に俺とアキマサで向かう事になったのだ。

 アンは自分も行くと立候補していたが『アキマサとイチャつくから却下だ』と俺が言うと顔を少し赤らめて、そんな事しないです、と軽く反論したもののあっさり引き下がった。


『なんでクリさんが仕切るのか』等とブツブツ不満を言っていたが無視した。

 俺だってお前らの登山デートに付き合うつもりは全くないのだ。ここは無理矢理でも意見を押し通しておいた。


 アキマサとは違い、アンはこの国に来て以降あまりアキマサへの気持ちを隠さなくなっている。半ば開き直りに近いかも知れない。

 何処かの親友の後押しでも受けているのだろう。忌ま忌ましい。まぁ、別に二人がくっつこうが全然構わないし、バルド国王も推奨していた位だ。


 単に俺の嫌がらせである。

 そういう嫌がらせに労力を惜しまないのが俺!

 残念そうなアキマサの顔に御満悦するのが俺なのだ。諦めろアキマサ。


『あ、そういや山行っても魔獣の正確な出現位置が分からないな。うん、鈴虫に頼んでお雪を貸して貰おう』

 そう言って俺は部屋を出た。


 アンが何かを言いたそうにしていたが、彼女が言葉を発する前に颯々と部屋を後にしたのだ。


 効いてる効いてる。


 お雪は木山五右衛門を追い詰めた際に、大悪魔を尾行し何があったのかを知る唯一の人物である。

 透き通る様な白い肌のかわいこちゃん。胸に反則級の巨大な兵器を携えている。

 あれで隠密とか何がどうなってやがる!? 謎である。


 魔獣戦の前、大広間にてお雪からの説明があった。

 それによれば大悪魔を追って洞窟内へと進入。その内部にて、宝玉を用いて大悪魔が何やら怪しい儀式を行おうとしていたらしい。

 直感的にそれが危険だと判断し、暗殺を試みるも今1歩の所で失敗した、との事だった。


 その時の様子を話すお雪はとても悔しそうに拳を握り締め、鈴虫に何度も謝罪した。

 自分がもう少し早ければ、もっと早く行動していれば魔獣の出現を防げた、と何度も自己の責任を口にしていた。

 腹を斬りそうな勢いのお雪を鈴虫が諌めたものの、お雪は納得していない様子だった。

 結果だけ見れば魔獣戦は圧勝ではあったのだが、彼女からしてみれば自分の判断ミスで国が滅びかけたとでも思っているのだろう。後悔の念は強い。

 悪いのは大悪魔であり、それに手を貸した木山五右衛門である。お雪は何も悪くない。



 そんなお雪の協力を得るべく、鈴虫に山の探索話を持ち掛けた所、『妾も行きたい所じゃが、忙しゅうてのぅ』と不満気ながらもお雪の同行を許可してくれた。明日の朝には準備を整えさせておく、とも付け加えられた。


 鈴虫の話では、お雪、お月、お花の三名は木山五右衛門を追っている。


 戦の後、城に戻って来た兵の一人が扉の明けっ放しにされた蔵に気付き報告に来たのだそうだ。

 中を確認した所、数点の品が紛失していた。

 そして蔵の内部の壁には大きく『大泥棒木山五右衛門様参上』とご丁寧に書かれていたらしい。

 皆が出払ったのをこれ幸いと、木山は戦のどさくさに紛れて盗みを働いたのである。

 もしかしたら木山の狙いは最初から盗みだったのかも知れない。

 一国の城で盗みを働くのは泥棒からして見れば、是が非でも成功させたい仕事だろうし、あの馬鹿面ならそんは動機でも妙に納得出来る。


 これにぶち切れたのは雪月花の三名であった。

 あの時、姫様が首を取らずに置いてやったにも関わらず! との事らしい。

 三名は鼻息荒く木山の首を取る許可を得る為にやって来て、その勢いにドン引きする鈴虫から『う、うむ、油断するで無いぞ?』と許可を貰い木山捜索に当たっていた。



 そんなこんなで今日は、木山捜索をお月とお花の二名に任せ、現在お雪は俺達と登山中である。

 標高が半分以下にまで潰れた山はもはや獣道とすら呼べない酷い有様であった。


 俺は飛んでいるので関係ないが、まさに瓦礫の山と化したそれを足で移動するのは過酷、かつ難儀な事であろう。


 地面は割れ、突き出た岩は不安定に揺れ動き、木々が所狭しと倒れている。

 2日前、魔獣の大群が通った道である筈なので、これでも多少は均されてマシな方かも知れない。


 どうでも良いが、岩を上り下りする度にお雪の危険な兵器が上下に激しく揺れている。

 来て良かった。


 最初に訪れた時の3倍は時間を掛け、兵器をたっぷり眼福し、漸く木山と遭遇した辺りに到着した。


 あの時は確かに小川が流れるちょっとした広場だったが今は見る影もない。

 チラホラと痕跡を残す無残に干上がった川底と干からびた小魚の存在が、あの場所であると知らせるのみであった。


 そこから更に進み、洞窟へと向かう。


 途中から予想はついていたが、案の定、洞窟も崩壊していた。


『私が覚えている限りでは洞窟内の丁度この辺りに、キリノ様の使っておられた陣に良く似た模様が刻まれた石が御座いました。その石の前で例の男が光を放つ石を用いて何か儀式の様な事を行っていたのですが』


 光を放つ石は宝玉だろう、陣が刻まれた石は何か分からないが魔獣の出現に無関係って事は無いと思う。

 召喚とか封印とかそう云った類の物かも知れない。


「折角、ここまで来たんだし。その模様の石とやらを探してみようか。キリノに見せれば何か分かるかも知れないし」

 二人が頷き、俺達は謎の石を探す事にした。




 黙々と瓦礫の中を探す。

 こういう時は雲ひとつ無い清々しい青空も少し煩わしく感じる。

 俺は狭い隙間を見付けては中を確認して回る。

 一方、アキマサとお雪は動かせそうな石を退かせながらの探索作業である。

 影の一切ない青天にて探索を続ける二人の額に汗が流れる。


 汗を流すお雪が何とも艶めかしい。

 来て良かった。


 アキマサなんかどうでも良い。勝手にぶっ倒れれば良いのだ。



『あの……何か?』

 ぼんやり眺めていたらお雪が声を掛けてきた。

 暑さのせいか、それとも視線に気恥ずかしさを覚えたのか、或いはその両方か、お雪の顔は少し赤くなっていた。白い肌に少し赤みがかかった感じが素敵です。


「いや、頑張ってるな~って。あと色っぽい、うん」

 素直に感想を口に出した。


『ご、ご冗談を』

 それだけ言ってお雪は気を紛らす様に探索に戻る。お雪の顔がさっきよりも赤くなっていた。


『なんでクリさんってそういう事を真顔で言えるんですか?』

 お雪との会話を聞いていたアキマサが信じられないと云った面持ちで問うてくる。


 知らんがな。


「お前は傍に寄るなよ汗臭いだけだから」


『なんでクリさんってそういう酷い事を真顔で言えるんですか?』


「うるせぇな、手を動かせよ」

 お雪を眺めているだけの自分を棚上げし俺が文句を垂れる。


 いかん。只でさえ暑いのにお雪を眺めてたら余計に暑くなってきた。

 俺も探索作業に戻る。


 しばらくして、汗だくのお雪が『見付けました!』と声を上げる。

 その言葉に俺とアキマサがお雪に掛け寄る。


「おい、お前は汗臭いから来んな!」

 俺に指を差され汗臭いと言われたアキマサが、酷い、と呟いた。


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