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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
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鈴虫のお供をするにあたって・11

 さて、押し潰したは良いがどうしたものか。

 タラちゃん退かせたら生きてました、なんて事はないよな?

 うん、ちょっと放置しよう。


 人的被害こそ無いものの、場所が城下町の直ぐ隣だった事もあり、家々が巨体と落下による衝撃波で悲惨な事になっていた。


『魔獣のせいにしよう』

 名案だな。実際、魔獣タラスクのせいだし。俺は何も悪くない。

 惨状を見なかった事にしてラナの元へ向かった。


「ラナ、怪我はしてない?」


『うん!』

 ラナが元気良く答える。可愛いなぁ。さっきまでキリノのローブの中を覗こうとしていた人物とは思えない。アレの中身は俺だったけど。


 お利口さんの頭を撫でてやろうと近寄った所、ラナにむんずと掴まれ、頭をペチペチと叩かれる。


『酷いです! クリさん!』

 俺がペチペチされていると、アンがラナに詰め寄ってきた。


「俺はこっちだ」

 ラナに確保されたままの俺がアンに言う。


『え!? あれ? ラナちゃん? 本人?』


「ううん、違うよ! 私がラナだよ!」

 妖精の俺がそう言ってアンに抱き付こうと試みた、が横から割って入った手に掴まれ阻止されてしまう。


 俺の身体がメキッと鈍い音を立てた。


「ごめんなさい! 調子乗りました! だから潰さないで!」

 俺を捕らえた手の主、キリノがゴミを見るように俺を一瞥した後、ゴミを捨てる様に俺を後ろへと投げ捨てた。

 そのまま地面と熱い口付けを交わす俺。


 戻った途端にこの扱い。酷い。


 そんな塵芥など気にも止めず、キリノがフワリとプチの背に乗るラナを抱き締めた。

 思いっきり抱き締められたラナが少し苦しそうな顔をする。

 ぶつけた顔面とか、潰されかけた上半身とか、色々と俺も苦しいのだ。多少は我慢して頂きたい。地面に這いつくばる俺がそんな事を思う。


『クリさん、何遊んでるんですか? まだ魔獣は残ってるんですよ』

 アキマサがそんな事を言いながら地面に横たわる俺に小さな溜め息をつく。


 お前、これが遊んでる様に見えちゃうわけ?

 

「お前こそアンに押し倒されて遊んでんじゃねーよ」

 こういう奴にはスピリチュアル攻撃である。


『あ、あれは不意に狐に吹き飛ばされたからであって! どうせアレもクリさんの差し金でしょうに!?』

 アキマサが顔を真っ赤にして反論する。


 九尾のせいなのに俺の差し金とか言いやがる。図星だが。


「ふ~ん……本心は?」


『ありがとうございます!』

 アキマサはとっても良い顔で返事をするのだった。

 かなりすっ飛ばされたので結構痛かっただろうに。チョロい男である。



「アイツ死んだと思うか?」

 チョロ男に尋ねる。


『少なくとも気配は感じませんが』

 依然として、ひっくり返ったままの巨亀に目を向けたアキマサが答える。


 気配が無いなら死んだのだろうか?

 鈴虫達の掩護にも行かなければならないし、このままにしてるのも具合が悪いか。

 そう考え、タラちゃんに命じて小さくさせる。


 身体を小さくさせたタラが首を使って器用に起き上がり、チョコチョコこちらへ歩いてきた。


 遅い。小さくなって戻って来いと命じたので、多分、タラ的にこれが全力疾走だろう。


 仕方無いので様子を見がてら迎えに行く。

 妖精の俺より更に小さい小亀を両手で持ち上げつつ、衝突直前まであの男が居た辺りに視線を向ける。

 地面が広範囲に渡ってすり鉢状に陥没しているその中心付近。男の圧死体などは見られなかった。


「逃げられた、かな?」

 あの状況から逃げ出せたとは思えなかったが、死体が無い以上は逃げたと警戒して置くべきだろう。


 逃げてくれたのだ、一先ずは俺達の勝ちって事で良いだろう。


「よくやった」

 俺が誉めるとタラが首を伸ばして頬を擦り寄せてきた。


 ははっ、こいつめ、よせ、爬虫類臭い。マジで。


 鈴虫達の方に顔を向けると、数が極端に少なくなった魔獣の群れが目についた。

 二万を誇っていた魔獣の大群も今や数百と云った所だろう。

 九尾もいつの間にか居なくなっていたが、代わりに魔獣殲滅要員にアキマサとアンが参戦していた。魔獣殲滅ももう時間の問題だろう。

 キリノは相変わらずラナを愛でている。

 もはや魔獣など眼中に無い様だ。

 俺が言うのもなんだが、気楽なもんである。


 そして、戦いの終焉を告げる様に山の向こうに陽が登り始めていた。





『此度の戦! 我らの勝利じゃ!!』

 その鈴虫の宣言により戦は幕を閉じた。


 兵達からは生きているのが信じられないとばかりの喜びの声と、勝利への大歓声が巻き起こる。

 圧倒的不利な状況だったにも関わらず、蓋を開けて見れば完全勝利なのだ。嬉しさも一入だろう。

 驚く事に死亡者も0であった。怪我人こそ続出していたものの、そんな者達を中心に時折大規模な回復魔法が降り注いでいたのを知っている。


 九尾を使役し、兵のケアまで行うキリノの万能っぷりにはもはや感動すら覚える。

 万能過ぎてちょっと怖い。



 戦いを終えて城へと帰還する。

 プチに乗せられたラナは道中で寝てしまった。お子様なので仕方無い。

 鈴虫も城にて色々と指示を出していた様だが、後は自分達が、と十兵衛や松永に告げられ、特に反論もせず自室に引っ込んだ。既に限界だったのだろう。一国一城の主とはいえ鈴虫はまだ12だ、まぁ、仕方無い。それを分かっているからこそ十兵衛達も休む様に進言したのだろうし。


 俺達はと言うと、アキマサとアンは何やら忙しそうに兵達に混ざって動き回っている。

 キリノはさっさとラナを連れて客間に引っ込んでしまった。事後処理には興味無いのだろう。ふてぶてしいが九尾に回復にと頑張っていたので特に文句も言わなかった。


 妖精の俺は特に役にも立たないだろうと勝手に自己判断を下し、今は城の天辺、昨夜キリノが突っ立っていた辺りで胡座を掻いて山を眺めていた。

 山の上空に立ち込めていた暗雲は消え、今は陽の光りが燦々と輝いている。

 当面の危機は過ぎたのだろうが、結局、宝玉の獲得には至らなかった。

 まぁ宝玉の事は落ち着いたらアキマサに尋ねるとしよう。


 今回の事を頭の中で整理する。


 名前は名乗らなかったが、かなりの強敵だろうと予想される大悪魔。その序列は4番目だとか。

 あのレベルが俺達の旅の障害となるのかと思うと頭が痛くなる。

 今回、追い返せたのは偶々である。不意を突けたからの成功だ。次も上手く行くとは限らない上に、未だ未知の戦力である序列トップ3も残している。

 そして魔王。


 今のままじゃ絶対勝てない。キリノ一人でどうにかなるモノでも無いだろうし。どうにかなるならとっくにキリノ一人で魔王の元へ乗り込んでいるだろう。どこに居るか俺は知らんが。


 もっと戦力アップを狙うべきか。

 とは言え、ちんたら修業なんて訳にも行かない。今こうしてる間にも各地で魔獣が暴れ回っている。

 やはり強い仲間を加えるのが良いんだろうが、いくら強くても大悪魔に対抗出来るレベルじゃないと意味がない。仲間を加えつつ、実力の向上も狙うのか?なかなかどうして難儀である。

 手っ取り早く強くなるにはどうすりゃ良いんだろう?


 逡巡する。


 やはり宝玉か。宝玉を得れば勇者アキマサの力は増す。その事は以前に獲得した二つの宝玉の欠片にて証明されている。今のアキマサは前より格段に強くなっている。


 溜め息をつく。


 やはり、今回、宝玉を得られなかったのは痛い。後々に響いて来そうだ。

 大泥棒と自称していた木山五右衛門に先を越されなけば、或いは音天丸という名の鈴虫の父親さえこの国に居たならば宝玉は手に出来た筈だ。が、そんな事を考えた所で所詮たらればの話だ。忘れよう。


 次だ次。

 他にも各地に散らばった宝玉の欠片はあるだろうし、それを奪取すれば良いのだ。

 頬を叩き気合を入れ直す。屁が出た。


 何とも締まらない気合とケツである。締めるつもりの気合が空気と一緒に抜けていく。


 そして、ふと思う。


 ラナをどうすべきか。

 旅に連れて行くか?答えは簡単、無理だ。

 あんな強敵共が待ち受ける旅にラナを連れては行けない。

 早めに何処かに置いて行くべきだろう。両親を失い天涯孤独となった彼女を置いて行くのは心苦しいが危険な旅に連れて行くなどという選択肢は無い。ここは割り切らねばならない。

 先程の、プチに揺られキリノの腕の中で幸せそうに眠るラナを思い出す。


 それから、もう一度大きな溜め息をつく。


「泣くんだろうなぁ」

 そう思わず声に出してしまう程に、魔王や大悪魔などより余程深刻に思えて来るのだから不思議だ。


 そうしてしばらく、悩みなんて吹き飛ばしそうな快晴の空の下、城の天辺にて頭を悩ませるのであった。


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