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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
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鈴虫のお供をするにあたって・10

誤字修正

『今ので仕留めきれると思ったが、少し甘くみた様だ』

 剣を片手にマントの男が告げる。


 九尾召喚中のキリノを不意打ちで狙う男の風上にも置けない奴である。

 ローブの中を覗こうとした俺が言うのも何だけど。


『あなたも魔王の剣という奴ですか?』

 キリノの庇う様に立ち塞がったアンが剣を構えたまま男に問う。


『ああ、ビブロスに聞いたのか?アイツは力ばかりで知性の欠片も無いからな、どうせ自分を誇示する為にでも講釈を垂れたのだろうが。たがまぁ、そうだな、その言い方だと俺は4番目らしい』

 ビブロスを鼻で笑い男が言う。


 4番目てかなり上位じゃん。ビブロスは1番下っ端だったのに、いきなりランクがアップしたな。

 あ、でも四天王で例えるならコイツは最弱だ。

 うん、そう考えると急に弱そうに見えてきた。


『何が目的だ? 宝玉はどこにやった?』

 アキマサが尋ねる。


『聞かれて答える馬鹿はビブロスくらいのものだ』

 何かにつけてビブロスを馬鹿にする。多分、嫌いなんだろう。


『まぁ、別に期待はしてなかったけど』

『力尽くで聞き出すと言う手もあるぞ?』

 そう言って僅かに笑う。


『ならそうしよう』

 言い終わると同時にアキマサが一足飛びで男へと斬りかかる。


 男は手に持った黒剣でそれを受け止める。

 しかし、アキマサも休む事なく次々と攻撃を仕掛ける。


『ああ、中々に悪くない動きだ。絶対王者(ザ・ワン)も良く使いこなせている』

 アキマサの猛撃を全て捌きながら、男からは尚も余裕が感じられた。

 もはや俺の目には両者の剣は全く見えない。響く金属音と飛び散る火花で漸く打ち合っているのが分かるレベルだ。


『だが……やはり、勇者の源たる聖霊力を失うとこんなものか』

 放たれた頭部への攻撃を受け止め、アキマサの腹を蹴りつける。

 軽く吹き飛んだアキマサに向け男が剣で斬りかかる。


 が、そんな男の首を狙いアンが剣を振る。

 しかし、男は特に慌てる事なく後ろに軽く上体を反らせて回避する。


紅蒼の命剣(クリムゾン・マナン)か、面白い物を持っているな』

 男の言葉を聞いてはいないかの様に、アンが剣を振る。

 しかしアキマサ同様、アンの攻撃も男は捌ききる。


『その剣、宝剣・紅蒼の命剣(クリムゾン・マナン)が何と呼ばれているか知っているか?』

 アンの袈裟斬りを後方に跳躍して避けた男が問う。


『呪われた聖剣、或いは死を呼ぶ紅い(つるぎ)の方でしょうか?』


『ほう、知っていて尚、それを振るうか』

 男は小さくククッと笑った。


『私には必要な力です』

 そう告げながらアンが剣へと魔力を込める。 

 先程よりも更に速く、鋭くなったアンの剣が男を襲う。

 更にそこにアキマサが加わっての、二人同時攻撃。

 しかし、そんな二人掛かりの剣でさえ男には届いていなかった。


 つえぇ。あの二人がタッグを組んでも一太刀も浴びせられないってどんだけだよ。

 流石、4番目ってだけある。この上に更に3人、そして魔王がいるのか。

 冗談だろ? 全く笑えないわ。

 まぁ、先の心配なんかしても仕方ない。今はこいつをどうにかしないとだな。

 しかし、アキマサとアンですら軽くあしらわれている以上、正攻法では勝つのは厳しそうだ。何にか策はないものか。

 今はキリノもこいつに余力を回せないので俺が場を動かす必要があるのだろうが、基本的に俺に戦闘を期待されても困る。

 第一、今はラナの身体だしあんまり無茶も出来ない。怪我のひとつでもしようものなら後が怖い。妖精体に戻った途端、キリノに滅っされそうだ。


 ここでふと、ある事に気付いた。

 んん? うん、何かイケそうな気がする。ハッキリと意思を感じる。


 いや、でもなぁ。それが出来たところで意味あるかな?


 逡巡する。

 俺が思考している間にもアキマサとアンが手を休める事なく男へと攻撃を仕掛け続けている。男もまたそんな二人の猛攻を完全に捌ききっている。

 力量差は明白なのだが、未だ攻防が続いているのは男がハッキリとした攻撃に転じていないからだろう。

 何故だ? 時間でも稼いでいるのか?

 反撃に転じない理由が良く分からん。


 男を観察していると時々、こちらを警戒する様に視線を向けている事に気付いた。

 俺を見た? いや、違うな。今のはキリノを見たのか。


 キリノは今もブツブツと呟きながら九尾を使役している。正直、九尾をどっから湧いた来させたのか全く分からんがアレを使役するにはキリノでも集中力を要するのだろう。


 そしてやっぱり、幼女姿の俺は全然警戒されてないのかも知れない。

 実際、戦闘力など皆無なので当たり前なのたが。それも面白くない話だ。ちょっと頑張って警戒くらいはして貰おうかしら。どうかしら?


 俺は前線にて魔獣を相手にしていたプチを傍まで呼び寄せる。

 あれ? プチに角が生えてるんだけど?

 ついさっきまで無かったよね君?何があったの?角のせいでちょっと禍禍しさに磨きがかかってません?


 まぁ、いいか。ちょっとかっこ良くなったプチを呼び寄せた事で男が明らかに俺を警戒し始めた。

 アキマサを警戒し、アンを警戒し、キリノも警戒し、俺&プチも警戒する。お忙しい事で。


 俺はキリノにしか聞こえない様に声を絞り、思い付いた策について説明する。

 キリノは九尾を使役しながらもキチンと聞いているらしく、俺の説明が終わると小さく頷いた。


 オッケー。んじゃ、ハッヤァと気合い入れて一丁あの大悪魔さんの度肝を抜いてやるとしましょうかね。

 気合いを入れては見たものの、正面からは怖いのでコソコソ移動を開始しよう。

 俺が合図を出すと、プチが大きく吠えた。辺りにプチの咆哮が響き渡る。

 その大咆哮を受け、男が一瞬プチを警戒する様に視線を向ける。


 ふふん、存分に警戒するが良い。プチは吠えただけだ。攻撃は何もしないのだよ。


 大きな音にビックリした幼女が耳を塞いで目を瞑る。ごめん、ちょっと我慢して欲しい。

 咆哮を終えたプチが幼女を咥えて背中へと乗せる。

 背中に乗せられた幼女がペチペチとプチの頭を叩いていた。

 しかし、その事で男は更に警戒を強めた様だ。


 ふふん、アホめ。背中に乗っただけだ。存分にビビれ。


 プチを警戒しながらもアキマサとアン、二人掛りの攻撃を難なく捌いていく男。

 駄目か。ぐぅムカツク。余裕のある敵は嫌いだ。


 しかし、ここにきて始めて男が攻撃に転じた。

 この二人に加えてプチの相手は面倒だとでも思ったのかも知れない。

 男の蹴りがアキマサの顔面に炸裂する。衝撃で上半身を大きく仰け反らせるアキマサ。

 ざまぁ。アキマサは何も悪くない。


 攻撃に転じたこの隙を見逃さずに、――――プチが再びの大咆哮。

 その瞬間、男の頭上から九尾の鋭い爪が襲い掛かる。

 だが、男はそれを僅かに後方へ下がり回避する。

 避けるのは想定内。追撃する様に九尾が尾の一本を素早く振り回し、

 アキマサとアンを大きく吹き飛ばした。


 自分では無く、味方へとぶち当たった尾を見て驚いたのか、男の動きが一瞬止まる。


 ワーハッハッハ!

 心の中で高笑いした俺が、男の真上から小さな亀を落とした。


 空中へと解き放たれた亀ことタラちゃんは、男に目掛け落下する。当然、巨大化のオマケ付きだ。


『ラナ!』

 タラちゃんを手離すと同時に俺はラナの名を呼び合図する。

 合図を受けて、プチがキリノを咥え退避を開始、九尾も後方へと大きく跳躍し、男と距離を取る。

 頭上から突然響いた声に男が上空を見上げた。

 が、そんな男の視界に映った物は今まさに自らの眼前へと迫った巨大な甲羅であった。


 ――――そして、大きな地響きと共に男を押し潰した。


『ワーハッハッハ! 計画通り!』

 完璧に決まった! 俺流巨大亀の隕石(メテオインパクト)

 押し潰しーの、磨り潰しーの。見ろ! 人がゴマのようだ!

 夜の空に浮かんだ小さな妖精が、腰に手を当て高笑いする。


 そう、俺は魂写の儀(たまうつしのぎ)にて妖精に戻ったのだ。

 と言うのも、プチを呼び寄せる前に気付いたのだ。

 ラナのもうひとつの魂が肉体へと完全に馴染んでいる事に。俺の中で確かにラナの意思を感じた。故に身体をラナに返し、自らは妖精体へと移る。こっそり。


 そこからあの手この手で男の注意を引き、バレない様に細心の注意を払いながらこっそりと男の頭上高くの上空へ移動した。

 そこから、呼び寄せた際に、プチにこれまたこっそり運ばせたチビタラを男目掛けて落下させたのである。

 あの大質量の落下はもはや極大魔法である。威力だけならキリノのメテオインパクトの数倍はあるだろう。

 巻き添えにならぬ様にアキマサとアンは九尾が吹き飛ばした。あの九尾の攻撃は男を狙うと云うよりは二人を逃がす事を目的としている。


 結果、誰も巻き添えにする事なくMAXサイズのタラちゃんが男を押し潰したのだった。

 俺を警戒しなかった報いを受けるが良い(笑)



 ただひとつ、誤算があったとするならば、九尾によってかなり遠くまですっ飛ばされたアンがアキマサを押し倒す様な形で地面に転がっていた事だろう。


 俺、結構頑張ったのに。なんか悔しい。


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