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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
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鈴虫のお供をするにあたって・9

 咆哮と共に現れたのは夥しい数の魔獣であった。

 夜の闇に溶け込む様な黒い体躯の中、赤い眼だけが闇の中でいくつも浮かんで見える。

 熊の様な魔獣がいた。

 二足歩行の狼の様な魔獣がいた。

 馬の様な魔獣や、それらの体躯よりも俄然大きな大蛇の様な魔獣もチラホラと見えた。


 姿形こそ様々だが、一様にそれらの魔獣達は禍禍しい雰囲気を漂わせ、悪意に満ちた眼をこちらへ向けていた。


 地を踏み鳴らし進む黒い波。


 その波に最初に立ち塞がったのは鈴虫であった。

 千の覚悟をその身に纏い戦場に降り立った彼女は、大きく跳躍すると、迫り来る魔獣の先陣へ向け上空から渾身の一撃を繰り出した。

 その拳は数匹の魔獣の体を四散させ、尚も勢いそのままに地面へと突き刺さる。

 激突の衝撃が波紋の様に拡がり、周囲に密集していた更に多くの魔獣を吹き飛ばす。

 抉れ、大きく陥没した地面がその破壊力を表していた。


 そうやって魔獣との距離を開けた鈴虫が、その場で大きく息を吸い込み名乗りを上げた。


『やあ!やあ!

 遠からん者は音にも聞け!近くば寄って目にも見よ!

   我こそが三國(さんごく)一の腕達者、名は鈴天(りんてん)なり!

    三国(みくに)に仇なす賊軍共よ!

      この鈴天の鈴の音を、畏れぬならばかかって来い!

        いざ!いざいざいざ! 成敗!』


 言い終わるや否や、鈴虫が魔獣の集団へ向け疾走する。

 真っ直ぐ魔獣の眼前に迫ると、拳を振り抜く。

 そうして、鈴虫の拳から青白い闘気が放たれ魔獣を穿った。

 放たれた巨大な闘気はそのまま蛇の様に暴れ唸り、魔獣を次々と喰い尽くしていく。

 巨大な蛇の通った後に無事な魔獣は皆無であった。


 何あれ? 魔法……ではないみたいだ。

 アンとの試合では見せなかった鈴虫の本気というヤツだろうか。魔獣がゴミのようだ。


 次々と放たれた巨大な闘気の蛇は、今や6匹にも増え、魔獣を蹂躙している。

 トドメだ、と言わんばかりに蛇が上空で交わり、更に巨大な龍となって魔獣目掛け落下する。

 後には城がすっぽり収まりそうな程の広大な更地が拡がっているだけだった。


 軽く百は死んだんじゃないか?

 鈴虫、恐ろしい子。


 姫様に続けとばかりに松永含む家臣や兵達、加えてビクトリア達がそれぞれ武器を携え魔獣へと向かう。


 松虫、お雪、お月、お花の変人四人衆は鈴虫を取り囲む様に構え、襲いかかる魔獣を冷静に、確実に処理していた。彼彼女らの周りにはいくつもの魔獣の頭が転がっている。

 鈴虫の様に塵も残らないならばともかく、頭がそこかしこに転がる光景は中々にグロい。

 お月に至っては魔獣の首を切り落とす度に恍惚とした表情でうっとりとしている。こいつは危険です。


 アキマサやアンは未だ動いていない。

 二人の相手は群がる雑魚ではなく、未だ姿を見せないマントの男。今回の魔獣進撃を企てたであろう悪魔である。

 直にその男を見たアキマサの話では十中八九、魔王に仕える大悪魔であろうと予想されていた。


 ゆえに二人は大悪魔のみを警戒していた。


 そして大本命、キリノはと言うと、平原に設置された陣の上空で何やらユラユラと揺れながら浮いている。真下からローブの中が見えない絶妙な位置で。

 あやつめ、万事において抜かりが無い。


 キリノの真下でうろうろと微調整を繰り返していると、戦場の一角からどよめきが起こった。


 はい! すいません! 見てません!

 思わず姿勢を正した俺が声のした方に視線を向けると、鈴虫達より更に奥、魔獣の大群のど真ん中上空に巨大な魔法陣が出現していた。

 魔法陣の出現に思わずキリノを見る。

 はい! すいません! 見てません!


 チラッと見えた、ローブの中じゃないよ?、キリノは両手を前に突き出し何かブツブツと囁いている様に見えた。

 刹那。


 キィィィともピィィィとも聴こえる、甲高い鳴き声が辺りに響き渡る。

 再び魔法陣に目をやると、魔法陣から巨大な狐が姿を現していた。

 その巨体は、神々しささえ感じる程に輝く金色の体毛に覆われ、九つの尾を持つ狐であった。

 その四肢の先、(くるぶし)を包み込む様に青白い炎を纏っている。

 熱くないんですかソレ?

 などと野暮な事は聞くまい。


 九尾の狐はもう一度、大きく声を上げると眼下に群がる魔獣に向けて青白い炎を撒き散らした。

 吐き出し続ける炎はやがて渦となり、九尾本体すらも包み込む程の巨大な青い炎の竜巻となった。

 熱くないんですかソレ?



 轟々と唸り、燃え盛る炎の塊。

 辺りは炎によって昼間の様な明るさであった。

 炎の渦が治まる頃には地上の魔獣は灰すら残らず綺麗さっぱり消えてしまっている。

 渦が消えた後も大地が融け、チリチリと燻る地面が、その熱量の凄まじさを物語っていた。


 嗚呼、無情。

 キリノが余裕綽々なのも理解出来る。広範囲なんてもんじゃない。今のでパッ見、2割の魔獣がお亡くなりになった。

 キリノ大先生に任せておけば何も心配いらないのだ。


 成り行きをポカンと見ていた兵達から大歓声が上がる。

 玉砕覚悟、背水の陣、そんな覚悟で挑んだ彼等だったが、まさに希望の光をその光景に見出だしたのだろう。

 九尾の狐の登場に歓喜し、より士気を高めるのだった。


 数で大きく押されていた東方軍はそこから大きく盛り返した。

 九尾の力が大きかっただろうが、勿論、それだけじゃない。

 鈴虫も九尾に負けじとありったけの力で大暴れした。

 松虫は今や30人の分身となり魔獣を駆逐している。

 お雪、お月、お花も着々と首の山を築いている。

 松永は相変わらず絵になる動きで魔獣を斬り捨てていく。

 ビクトリアも右手に剣を、左手に短銃を持ち魔獣を屠る。

 十兵衛も老体に鞭打ち頑張っている。


 鈴虫を筆頭に破竹の勢いで魔獣を薙ぎ倒していったのである。

 皆、とにかく頑張ってる。超頑張ってる。

 俺? 俺はほら、真打ち的な?

 とは言わない。


 小袋からタラちゃんを取り出し、俺の手の平でバタバタと手足を動かす亀をプチに預ける。

 タラを咥えたプチが魔獣の群がる戦場を駆け抜け、上空に大きく跳躍。そこから更に首を大きく振り上げタラちゃんを放り投げた。

 上空へと放たれたタラちゃんは、はーい!とばかりに身体を巨大化させ重力の赴くまま全体重を乗せ地面へと落下。


 プチ、と魔獣を押し潰した。


 タラちゃんなのにプチっとな。摩訶不思議。

 流石に最初に出会った程の巨体だと味方も押し潰しかねないので、あの姿の三割と言った程度の大きさである。

 まぁ、にも関わらず松虫の分身を二人押し潰したが。別に良いか、松虫だし。

 そこからはタラちゃんも加わっての戦である。


 結局、お前は何もしてないだろだって?

 馬鹿言っちゃいけない。タラちゃんは俺の部下なのだ、これはもう俺が戦ってるみたいなもんである。

 宝玉追い掛けたり、魔獣蹴散らしたり、ちょっと頑張り過ぎだな最近の俺。花丸である。間違っても、もっと頑張ろうなんて評価にはならない。ならないったらならない。


 さて、と俺が微調整を再開仕掛けた時、アキマサとアンが動いた。

 はい! すいません! もうしません!


 二人が大きく跳躍する。

アキマサがキリノに襲いかかった刃を受け止め、狙われたキリノの身体をアンが抱き締めながら地面に着地する。

 キリノは九尾召喚による魔法の行使に集中している為、あまり大きく動けない様だ。視線をチラッと向けただけで、未だ何かブツブツと囁いている。


 アキマサとアンが武器を構えながら正面を睨む。

 その視線の先にはフードを被った黒いマントの男が立っていた。


 漸く、今回の首謀者たる大悪魔が姿を見せたのだった。


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