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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
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鈴虫のお供をするにあたって・6

「動いてるってどういう事だ?」

 アキマサに問う。


『分かりません。でも、今は白百合城から少しづつズレてます』

 アキマサが渋い顔でそう言った。

 どういう事だ。まさか誰かが見付けたのか? いや、そうとしか考えられなかった。

 しかし、そうなると……。


『アキマサ、案内せぇ。松永、お主は城に戻り皆に伝えよ』

『しかし、姫様』

 松永が慌てて止まる。何が起こるか分からない場所に鈴虫を行かせて良いものか判断に迷っているのであろう。


『心配致すな、アキマサも居る。その辺に松虫も居るじゃろう』

 そう言われて尚も心配そうに松永が鈴虫を見る。

 ややあって、

『承知致しました。どうか御無理は為らぬ様に』

 そう答え、一度アキマサに視線を向けると互いに大きく頷く。

 そうして、松永と別れ俺達は宝玉の後を追った。



 アキマサの先導で走る。鈴虫と、プチに跨がった俺がその後ろを追い掛けていた。


 城の方角から徐々に徐々に左へと逸れ、いつしか俺達は山の中へと入っていた。

 勾配のきつい道無き道、遮る様に生い茂る木々の中を三人と1匹は駆けて行く。時々、小枝がピシッと当たって痛い。しかし、尚も速度は緩めずひた走る。

 俺はプチの背中に乗ってるだけだが。


 一際、大きな草群を抜けると開けた場所へと辿り着いた。川の広場ってとこだろう。大小様々な石が広場を埋め尽くしその中央を小川が流れていた。

 そして、川を挟んだ広場の先にソイツはいた。

 気付けば、いつの間にか日は傾き、辺りは漆黒の闇に包まれていた。


『そこの者! 待て!』

 鈴虫がソイツに向かって叫ぶ。

 するとソイツは暗闇の中でゆっくりと振り返った。

 髷を結った若い男である。


『栄助!?』

 鈴虫がソイツに向けて栄助と呼んだ。松永の部下であり、俺達より先に又五郎の元へ向かった男だ。


『クハハハハ! 流石に早かったな!』

『お主……栄助では無いな……何故ゆえ栄助の姿をしておる!?』

 え? ニセ者? まぁ、もっとも俺は栄助の顔を知らないんだけど。


『クハハ! 真を見透す厄介な目よ!』

 栄助の姿をしたソイツは楽しそうに笑った。

 

『宝玉は返して貰うぞ!』

 鈴虫は言うが早いか問答無用とばかりに一気に距離を詰め、攻撃を仕掛ける。


『鈴虫姫!』

 アキマサが叫んだ直後、真っ直ぐとソイツに向かっていた筈の鈴虫が横に大きく吹き飛んだ。


『――――!?』

 当たる直前に防御姿勢を取ったものの、訳も分からず吹き飛んで行く鈴虫。


 暗闇に潜んでいた何者かが突撃する鈴虫に不意打ちでの攻撃を行ったのだ。今のは……魔法?

 直ぐに体勢を立て直し、鈴虫が睨み付ける。


『わざわざ迎えに来たのか?』

 偽栄助がやれやれと云った様子で何者かに語り掛ける。


『それは大事な物だ。当然だろう』

 声から察するに男だろうか、全身をマントて覆い隠したその男はフードを深く被り顔は見えない。


『この感じは……悪魔!?』

 アキマサがマントの男を睨みながらそう告げる。

 悪魔ってあれか? ビブロスみたいな奴か?

 どうであれ、非常に面倒臭そうではある。出来る事なら暗闇の中、小川の小石に足を取られて、滑って頭ぶつけてお陀仏してくれないだろうか?


『クハハ! ホラよ』

 偽栄助がマントの男に何かを投げ渡す。

 淡い光を放った何かは放物線を描きながらマントの男の手に収まった。

 今のは間違いない、宝玉だ。

 又五郎の話を聞き城から盗み出したのだろう。泥棒!

 警備兵さん! コイツですコイツ!


『御苦労。では私は直ぐに洞窟へと向かう。ソイツらの足止めは任せたぞ』

『はぁ!? まだ扱き使うつもりかよ!?』

『使え』

 マントの男が告げると同時、暗い木々の間から30頭程の魔獣が現れる。それらは皆、全身を黒い毛で覆われた熊の様な姿をしている。3メートル程の体格で、その爪は鋭い。

 魔獣を偽栄助に預けると、マントの男が暗闇の中、山の奥へと向け歩き始めた。

 今だ! 小石踏んで滑って頭打て!

 祈りは通じなかったけども、祈るだけならタダだよね。


『返して貰うと言った筈じゃ!!』

 鈴虫がマントの男へ駆け出そうとするが、そんな鈴虫の行く手を遮る様に偽栄助が立ちはだかる。


『待て待て、お前の相手はこの木山五右衛門様よ!』

 偽栄助が薙刀を構え、木山五右衛門と名乗った。


『ほう、貴様が木山五右衛門か。貴様の名は妾の耳にも届いておるぞ。天下一の大泥棒を名乗る大うつけじゃとな』

 鈴虫が木山を小馬鹿にした様に睨む。


『クハハハハ! 大うつけか! 違いない!』

 笑う木山の身体がポンと音を立て変化する。


 現れたのは栄助とは似ても似つかない大柄の男。目は鋭く、派手な衣装を身に纏っている。

 これが木山五右衛門の本来の姿なのだろう。


『邪魔立てするならば、力尽くで押し通る』

 鈴虫が冷ややかな目で木山へ告げる。


『クハハハハ! やってみよ小娘!』

 そう言って木山は2体の魔獣を鈴虫へとけしかける。

 そこに割って入ったのがアキマサと松虫だった。


 アキマサは鈴虫に襲いかかる一体の魔獣を聖剣・絶対王者(ザ・ワン)にて一閃。一撃で胴を真っ二つにする。

 何処からともなく現れた松虫は、静かに魔獣の背後に忍びより刹那の内にその首を刎ねた。

 その流れる様な一連の動きは思わず見蕩れてしまう程に洗練されていた。暗殺、という言葉が良く似合うだろう動きであった。

 とても、昨日、キリノに玩具にされた人物と同じとは思えない。


『ほほう、瞬く間に2頭の魔獣を倒してしまうとは』

 木山が顎に手を当てながら感心した様に言う。


『4頭の間違いであろう?』

 鈴虫がニッと笑うと同時に、ドサッと2頭の魔獣が倒れた。木山の左右少し離れた場所にいた其の2頭の魔獣の傍に見知らぬ女性二人が立っていた。

 どちらの女性も松虫と同じ服を着ている。 

 俺が目を向けていると、二人の女性がフッと暗闇の中へと消えた。が、消えたと思った次の瞬間には鈴虫の直ぐ横に並んで立っていた。

 え~、どういう原理っすかそれ? 瞬間移動?

 いや、俺は誤魔化されんぞ。超スピードで動いたに過ぎん! ドヤッ。

 仮にそうだとしても、見えてない時点で誤魔化されてる気がしないでもない。


『先程の者はお雪が付けております』

 鈴虫の右隣に立つ女性がそう話す。

 どうやらあと一人仲間がいて、マントの男を尾行している様だ。

 っていうかおたくら誰? もしかして松虫同様、ずっと近くに隠れて居たのか?

 という事は変人2号と変人3号か。

 女性達を凝視しているアキマサが驚愕に目を見開き『ク、クノイチだと!?』と呟いていた。コイツはコイツで時々意味の分からない事を口にする変人である。


『そうか、こやつらを片付けて妾達も追うとしよう』

 鈴虫が構え直し、魔獣を睨む。


 それに合わせる様に、アキマサが絶対王者(ザ・ワン)を構え、松虫と女性二人は短刀を逆手に構える。

 そこからはただただ蹂躙であった。

 首を刎ねられ、胸を切り裂かれ、頭を潰され、四肢をもがれ、襲い来る魔獣達が次々と討ち取られていく。

 見ていて爽快である。

 もはやちょっとデカイだけの熊程度では彼彼女らの敵ではなかったのだ。

 僅か数分で、その場に居た魔獣は全滅してしまった。

 いやはや、君達が味方でホント良かったよ。

 え? 俺?

 俺はほら、真打ち的な? フッ、俺が出るまでもない、とか言う係。別にサボってた訳じゃないよ、うん。


『さて、残るは貴様だけじゃ』

 鈴虫が木山を一瞥する。


『クハハハハ! やるでは無いか!!』

 そう叫んだ木山が懐から何かを取り出す。

 それを頭上に大きく振りかぶり、

『―――――さらば!』地面に叩き付けた。


 一瞬で木山の姿が煙に紛れる。

 あの野郎、思わせ振りな態度で逃げやがった! きたねぇ!

 まぁ、あの蹂躙劇を見た後だ、ある意味潔いとも言える。


 煙が収まると、――――そこには女性が二人立っていた。

 そして、その足元にボコボコになった木山が居た。


 あれ~?

 逃げられたと思ったらボコボコになって地面に転がってるんですけど? まさか滑って頭ぶつけた訳ではないだろう。

 容赦ねぇな。君達が味方でホント良かった。 

 

『殺しますか?』

 女性の一人、変人3号が可愛い顔して怖い事を言う。

 木山の首根っこを押さえる変人2号が手に持った短刀がキランと光った、様に見えた。


『捨ておけ。それよりも宝玉じゃ』

 鈴虫がそう言って木々の中へ入ろうした時だ。


 ザザッ、と広場に躍り出る人影があった。

『お雪!? お主『お逃げ下さい!』


 お雪が叫ぶと同時、山が大きく震えた。


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