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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
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鈴虫のお供をするにあたって

 大陸とは違った風情の家々が建ち並ぶ。

 美しく区画された木造のそれらは、どこか懐しさを漂わせ、派手過ぎない色彩は自然との調和を凜として写し出す。

 風が緩やかに流れる度に、見慣れぬ木々や草花が僅かぬに首を傾げる。

 物珍しそうに風景を眺めながら歩を進める異国の者達を、見慣れぬ服を着た人々が遠巻きに見遣る姿が目に付いた。

 真っ直ぐに開かれた通りの先、薄く白みがかった大きな建物が遠く視界の中に写り込んだ。

 自然と共に生き、自然を愛する穏やかな国。

 それこそが、島国、東方三国(とうほうさんごく)同盟であった。



 タラスクとの死闘の後、そこから2日を掛けて海を渡り、島の沿岸へと到着。沖に一晩停泊ののち、翌朝、島へと上陸を果たした。

 上陸メンバーの中には手の平サイズまで小さくなったタラスクもいる。


 魔獣とは元々、意思のある生物が何らかの形で魔を取り込み変異した物なのだが、魔獣というのは変異前のサイズにまでなら身体を変化させる事が出来る能力がある。

 プチの仔犬化も同じものなのだが、タラスクは魔獣サイズが山の如し巨大な姿である故ここまでの変化だと流石に驚いた。


 で、その小亀タラスクは現在、妖精の死体と一緒に俺の小袋の中へと押し込まれている。

 今、巨大化したら間違いなくペチャンコにされる自信があるが、かといって放置する訳にもいかない為に俺の預かりとなっている。

 ただ実際問題、圧死の恐怖で気が気ではない。寝惚けてご主人踏み潰しましたテヘ、なんて間抜けな性格でない事を祈るばかりである。


 ちなみに名前はタラちゃんに決定した。

 


 島への上陸後、用事があるからとビクトリアに告げられ、簡単に道程を説明してもらう。


『あんたらの用事が終わるまではこの島に居るさね。日数が必要そうならまた知らせておくれよ』

 そうしてビクトリア達とは別れて、俺達は町へとやって来たのだった。



 


「取り合えずあの大きい建物目指す感じで良いのか?」アキマサに尋ねる。

『そうですね。徐々に宝玉の気配が強くなってます』

 ふむ、やはり彼処に行かなきゃ駄目か。


 俺の見立てではアレは城だろうと予測していた。まだ大分離れているにも関わらずあんなにも目立つ大きな建物が『宿屋です』って事は無いだろう。

 城となれば当然、王様がいる訳で。お偉いさん達の相手をすると考えただけで憂鬱な気分になる。そもそも俺は敬語とか苦手だ。しかも相手が一国の王様ともなれば言葉使いもそうとう気を使う必要があるだろう。


 そんな、どんよりとしたまま歩く俺とは対照的に、アキマサやアンは見知らぬ物、見慣れぬ文化に興味津々と言った様子である。

 楽しそうにあれやこれやと異国の話題で盛り上がっていた。

 へーへー、仲のお宜しい事で。


 一方、キリノは異国には特に興味が無い様で、何かを見付ける度に一々足を止める二人の後ろを付かず離れずで歩いていた。

 邪魔するのは悪い、とでも考えているのだろう。

 親友の恋を応援する親友といった構図である。


 だが、まぁ、そんな事は知ったこっちゃない。

 その手の話をからかう事に楽しみを見出だす俺が当然の様に邪魔しに入る。ゲスい話で。

 町の住民を見掛けては、あの娘の胸がデカイだの、向こうの娘の尻がデカイだのとアキマサに話しを振る。

 ラナの身体で無ければキリノに10回は消し炭にされているかも知れない。が、今はラナの身体だ。元々、口下手のキリノもどう止めるべきか分からず、しかも手が出せない今の状況では唯唯殺意の視線を俺に向けるしかなかった。

 アキマサもアキマサで、ラナの可愛い姿でゲスい会話を振る俺を苦笑いでやり過ごしていた。


 只、アンにはどうも逆効果だったと云うかピンチをチャンスに変えたと云うか。アンの中の何かに火を点けたのだろう、アキマサの腕を取り不必要に密着して俺の話に強引に割って入る。こいつは意外な姿だ。

 アンはもう少し大人しい乙女チックな感じかと思っていたが、中々どうして積極的である。

 ただ残念ながらバルド王国を出て以来、兜こそ未装備であるがアンはずっと鎧を着ていた為、折角の密着作戦も威力半減である。

 或いは、鎧だったからこそ可能な密着作戦なのかも知れない。現にアンの顔は赤くなっている。

 まぁ、威力半減でさえアキマサの顔は真っ赤なので威力最大なら彼は死んでいたかも知れない。


 思わぬ強敵の登場に俄然楽しくなってきた俺が更にヒートアップ。

 いよいよゲスさも最高潮に達しようとしていた時、背後から激しい衝突音が響いた。


 ヤバイ! やり過ぎてキリノがキレた!

 正直、そう思った。

 恐る恐る背後を振り返るとキリノも後ろを振り返っていた。

 あれ? と視線をキリノから更に先へと向ける。キリノから10メートル程離れた個所で土煙が上がっていた。


 土煙を上げ、へこんだ地面の上に一人の少女の姿が見えた。

 12、3歳くらいだろうか。新緑の様な翠の色合いをした服を纏い、桃色の布を腰に巻いて水色の袴を履いている。その髪は美しい薄桃色をしており、腰まで伸びたその髪を1つに纏めている。後頭部には少女の頭の半分以上はある大きな鈴をくっ付けていた。

 こちらを見て不敵に笑うと少女が叫んだ。


『やあ!やあ!

 天が呼んだか地が招いたか、

  我こそが東方三国(みくに)の姫将軍、名は鈴虫なり!

   異国の者共よ! いざ! 刮目せよ!!』

 扇を片手にドドーン!とポーズを取る鈴虫と声高に名乗った少女。


 何か変な人が来た。

 俺の第一印象はそれだった。


『え、え~と』

 アキマサが変人の登場に困惑する。

 そんな置いてきぼりな俺達を無視して鈴虫が更に質問してくる。


『異国の者らよ、この国には何をしに参った!?返答次第ではこの鈴虫が黙っては居らぬぞ!』

 さぁ、答えよ! と畳んだ扇の先をビシリと此方へ向ける。


 黙って居らぬと言われて、悪い事しに来ました、と答える奴は居ないと思うが口にはしない。別に悪い事しに来た訳でもないし。


『えっと、鈴虫ちゃん、私達はちょっと探し物があってこの国に来たの』

 アンが代表して答える。しかし、アン自身、突然の登場と質問で鈴虫にどういう態度を取るべきか迷っている様だ。


 と言うのも、彼女が自らを姫将軍と名乗ったからだ。将軍は分かるが頭に姫が付いている。姫将軍ってなんぞ? 将軍の娘かな?


『ほほう、探し物とな? いや、先にお主ら、あの海をどうやって渡って来た? 大陸から来たならば途中に亀が居ったじゃろう?』

『亀、というとタラスクの事かな? あの魔獣は、倒した? というか………う~ん、まぁ倒したで良いのかな?』

 アンがタラスクをどういう扱いにすべきか悩み、こちらに意見を求めて来る。


「まぁ、倒したで良いんじゃないか? 攻略はしたんだし」

 正しくは仲間に引き入れたのだが、正直に言ったら面倒臭い事になりそうな予感がしたので倒したで押し通す事にした。

 そんな俺の言葉に目を輝かせたのは鈴虫だった。


『まことか!? よもやアレを倒せる強者が居ろうとは! 妾でさえアレには敵わなかったのだぞ!? そなたらかなりの腕と見える!』

 鈴虫はうんうんと嬉しそうに笑う。


『誰でも良い! 妾と手合わせせぬか!?』

 何を思ったのかズズズイと此方に近寄って来た鈴虫がそう言ってくる。初対面でそんな事を言ってくるとか何処の戦闘狂だコイツ。


『ごめんね。私達、あの建物に用があってね。折角なんだけど鈴虫ちゃんの相手はまた今度ね』

 アンが例の建物を指差し、諭す様に鈴虫へと答える。


『なんじゃ? 城の客人であったか? ふむ、なら付いて参れ。妾が案内してやろう』

 鈴虫はそう言うとクルリと振り返り、客じゃ客じゃと楽しそうに城へ向かって歩き出す。

 どうしたものかと顔を見合せている俺達に、

『どうした? そう案ずるな。妾とて案内くらいは出来ようぞ』

 付いて来ない俺達の様子に再度、鈴虫が声を掛ける。


「まぁ折角、案内してくれるって言ってるんだし付いて行こう」



 こうして、俺達は鈴虫の案内で城へ向かって歩き出すのであった。


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