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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
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海賊のお供をするにあたって・3

『大したもんだねぇ魔法使いってのは』

 夜。酒瓶を片手にビクトリアがそう話し掛けてきた。

 昼間見たキリノの事を言っているのだろう。


「まぁ、アイツは飛び抜けてるから」

 厳密に言うとキリノは魔法使いではなく魔導士である。

 俺は以前、魔法使いと魔導士の違いを興味本位でキリノに聞いた事があった。


 キリノ曰く。

 まず、この世界で魔法を扱う者は大きく分けて、魔法使い、魔術師の2つに分類されるのだと言う。

 魔法使いとは、詠唱によって自然界に内在する精霊やそれに準ずるエネルギーを導き、その導き出した超自然的な力を自らの魔力によって顕著させる者。

 魔術師とは、陣や呪物などの形在るものに自らの魔力を込め、魔力の込められたそれらを苗床と化し、苗床へと引き寄せられ集約された超自然的な力を行使する者。


 そして、魔法使いと魔術師の両方を扱う者を魔導士と言うらしい。

 以上の事を、細かく、丁寧に、長々と、キリノに説明されたが半分以上意味が分からなかった。なので俺なりにそんな感じに纏めて無理矢理に納得した。

 途中、無表情で淡々と語るキリノに対して、こいつマジでイッちゃってんな!とか思ったが口に出すと怖いので、ふんふん、なるほど、そうなのか、ってな言葉を合間合間に挟み聞き流した。

 ハッキリ言って、両者の違いを聞いた俺が馬鹿だった。


 少なからず魔力を持つ者なら魔法も魔術も魔力の操作さえ出来れば扱える様だが、魔法の詠唱は特殊な言語を用いる為、それの取得及び詠唱文を覚える必要があるらしく、膨大な知識がいるのだとか。

 その分、詠唱文さえ覚えてしまえば道具等も必要としない上、扱う者の魔力に比例して効果も高くなる。


 対して、魔術は魔力を込めて作られた何らかの依り代を必要とする変わりに、依り代が破壊されない限り何度でも使用可能であり、依り代へ魔力を補充する事で効果を高める事も出来る。

 ただし、使用出来る魔法の変更は出来ない。例えば火属性下級を模した魔法陣にいくら魔力を継ぎ足しても水属性の魔法は使えないのだ。


 ゆえに、魔法使いは知識量に比例して扱える魔法の数が増え、魔術師は所持する依り代の数だけ扱える魔法の数が増える。

 と言う事らしい。


 そして、その2つを扱う魔導士はまさに魔法の才に溢れる者であり、その極意は無詠唱による魔法の行使にあるのだと言う。

 これは、自らの知識を依り代と化し魔法を使用する事で可能としている。

 知識の依り代ゆえ道具も詠唱も必要とせず、魔力の続く限り、好きな時に好きな魔法を好きなだけ使えるのである。


 しかし、これを成すには魔法と魔術を同時に扱う為の高い集中力と繊細な魔力の操作が必要で、大陸にはキリノを含め5人しか魔導士は居ないのだという。

 そんな事もあって、当時16という若さで魔導士まで登り詰めたキリノは稀代の天才とまで称されていたのである。

 ただ残念ながら、高い知識では難のある性格は補えず、溢れる魔力を以てしても胸は大きくならなかった。

 可哀相に。



 船の甲板にて俺が、魔法とは! とビクトリアにレクチャーしていると、船室の扉を開けてアンが飛び出して来た。

 暗い海に向かって気を落ち着かせるかの様に何度も深呼吸を繰り返している。


 先程まで食事を取りながら海賊達にバルド王国がどう云った国かと語っており、若くして副隊長まで登り詰め、数千人の部下を持ち、オマケに美人と云う事も相まって海賊達にアンの姐御などと呼ばれていた。

 姐御って……そう愚痴っていたアンだったが、慕われる事自体は嫌という訳ではない様で、その顔はどこか嬉しそうであった。

 ちなみにアキマサは兄貴と呼ばれ困惑し、キリノが何故かキリノ様と崇拝されていたが当のキリノは呼ばれ方等どうでも良いのだろう。特に反応も示さず無表情を貫いていた。

 


「おい、アン、どうかしたのか?」

 何かあったのかと声を掛ける。


『へ!? あ、クリさん! いえ、何でもないです! お気に為さらず!』

 取り繕う様に答えたアンが、ハハハと愛想笑いを浮かべた。


 いや、とても何でもない様には見えないが……。

 夜の暗がりの中、海風に揺れる松明の火に映し出されたアンの顔は、炎の赤さも相まって、えらく紅色に見えた。


 慣れない船旅で体調を崩したのかと思い、もう一度、声を掛けようと口を開きかけた時、アンが開けっ放しにしていた扉からアキマサが現れ、妙に軽快な足取りでアンへと近付いた。


『アンさん、どうかしたんですか?』

 アキマサが心配する様な声でアンに問いかける?


『だだだ、大丈夫です!』

 アワアワとした様子のアンが小走りでこちらにやって来たかと思ったら、そのまま俺の背後にちんまりと隠れてしまった。顔を真っ赤にし明らかにアキマサを避けている様子。

 

 そんなアンを追い掛けて、アキマサが俺の前へ歩みよる。


『本当に大丈夫ですか? 大事なアンさんに何かあったのかと心配です』


 ん? 今何と言った?


『何か悩み事があるなら何でも俺に話して下さいね? アンさんの元気な笑顔が俺の心の拠り所なんです。あ、でも今の可愛らしい仕草をしたアンさんも素敵ですよ』

 そう言ってニッコリと笑うアキマサ。


「……」

 沈黙する俺の背後で耳まで真っ赤にしたアンが更に小さくなる。そんな俺とアンの横では、ビクトリアが口元をニヤニヤと口角を持ち上げて二人の様子を眺めていた。

 

『夜の海風は少し冷えますね。俺の天使が風邪を引くといけない。アンさん、船の中に――――』

 アキマサが喋り終わる前に、腹に思いっきり蹴りをぶち込んで黙らせた。

 ぶっ倒れ、そのままグウグウとイビキをかき始めたアキマサの姿に、俺は深く溜め息をつき、叫ぶ。


「誰だこいつに酒飲ませた奴は!」





 翌朝。


『あの、クリさん』

 船尾の床でプチとじゃれていた俺にアキマサが声を掛けてきた。

 結局アキマサは朝まで目を覚まさず、どれだけ呑んだか知らないが今も若干酒臭い。

 アキマサは、船首に居るキリノ、そんな友人キリノの腕にしがみついて何かを警戒する風なアンの二人に悲しげな視線を向けながら、

『今朝からアンさんに避けられてるみたいなんですが、何故だか分かりますか?』

 しょんぼりとそんな事を聞いてきた。


「知るか」

 俺は無慈悲に突き放す。船の舵を取っていたビクトリアが愉快そうに笑った。






 

 太陽が真上に近付いた頃だった。

 

 頭上の眩い太陽と真っ青な空の先、船の遥か前方。小さな島が姿を現す。

 島の上部には黒い雲が鎮座しており、島の不気味さを際立たせていた。

『キャプテン!』

『見えてるよ! お前ら! いよいよだ! 準備しな!』

 ドタドタと騒がしくなる船上。

 船が島へと近付く。

 否。


 それは島と見紛う程の巨大な魔獣の姿であった。


「で、でけぇ」

 俺が見たまんまの感想を洩らす。それ程にインパクトのある巨体であったのだ。


 一言で表すと、その姿は亀であった。

 甲羅に写る1つ1つの模様は大岩の如く巨大で、鷹の様に尖った口は鋭く、赤く輝く目玉が虫ケラを見る様にこちらを見据えていた。

 そんな巨大亀の頭上には2メートル程の魔獣が翼を広げ数百もの

群れを成していた。

 オマケです、とばかりに5体のクラーケンも海中から現れる。


「えー……」

『あっはっはっは! これはもう笑いしか出てこないさね!』

 ビクトリアが楽しそうに笑う。この状況のどこに笑う要素があるのか。

 

『ど、どうしましょうキャプテン』

『逃げましょーよキャプテ~ン』

『情けない声出すんじゃないよ! 海賊がたかが亀くらいで尻尾巻いてどうするんさね!』

 子分達を一喝すると、ビクトリアは腰の剣を抜き斜めに掲げ声を張り上げた。


『お前達! 戦闘だ! ありったけの鉛玉ぶち込んでやりな!』

 魔獣を鋭く睨み付けた後、――――ビクトリアが掲げた剣を降り下ろし、魔獣の集団へと剣先を向けた。


『撃てぇぇぇ――!』



 そうして、激しい砲撃音を合図に戦闘が開始された。


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