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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
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大蛇のお供をするにあたって・4

 カーラン・スーは広い。その広大な土地をもて余す様に道幅も広い造りであった。

 舗装こそされず固い地面が剥き出しではあるものの、なだらかで勾配も少ない。

 その為か、ゆったりとした速度で進む車に乗っていてもあまり揺れは感じなかった。

 道の要所に立つ剣と盾を掲げる警護の兵が見える。

 その警護の兵達の後ろ、勇者を一目見ようとカーラン・スーの人々が集まっていた。

 門まで真っ直ぐ伸びた道の両側を彼らの頭が埋め尽くし、それらの真ん中を緩やかな速度で進んでゆく車を、道の端から、あるいは屋根の上から、歓声と共に手を振り見守っている。

 老人は両手を合せ祈る様に、子供は目を輝かせ宝物を見る様に。

 肘でアンに横腹をつつかれたアキマサが照れ臭そうに人々に手を振る。その度に歓声が一際大きくなった。



 昨日、オンフィスバエナを倒したアキマサ達はカシュルーに連れられ城へと向かった。

 城からオアシスまでは結構な距離があったのだが、流石にあの巨体だ。城の上部からもその姿を視認出来た様で、城へ着くなり歓声と共に城内へと招かれた。

 

 既に玉座にて鎮座していたメシュリトス王が俺達へ感謝と労いの言葉を投げる。

 それから、明日にでも歓迎の催しを! という話しになったのだが、急ぐ旅ゆえ明朝には出発する、とアキマサが丁寧に断った。

 急ぐ旅には違いなかったがアキマサ的には、これ以上の晒し者はゴメンだ、という思いの方が強かったのだろう。


 ならばせめて、とメシュリトス王は中継地までの車の手配と資金提供、それから今日の寝床の確保を確約してくれた。


 話しが一段落ついた所で俺はアキマサ達三人とは一旦別行動を取り、数日の女中生活でお世話になった者達の元へ挨拶に回る。


 オンフィスバエナを倒し、それの齎す災厄を打ち払った事で床に伏していた者達も夜にはすっかり元気になっていた。

 大食堂に赴き、そこで兵に囲まれた時などは「皆の病気はラナが治すって言ったじゃないですか!」エッヘン、と腰に手を当て可愛らしく胸を張って言ってみた。

 そんな俺の姿に、一部の兵士が胸を押さえて苦しんでいたが、何か違う病気にでも掛かったのだろう。お大事に。




 挨拶回りを終え部屋で寛いでいると、キリノとアンがやって来た。アキマサはカシュルーに連れられ何処かに行ってしまったらしい。

『夜分にすいません。聞きたい事があるのですが』

 アンがそう告げる。


「分かってるよ」俺はわざとらしく溜め息をつくと、俺の好みの女性だろ? 片手を上げてやれやれと言った感じで言う。


『いえ、それは全然興味無いんですが』

 真顔で全然とか言いやがった。綺麗なお顔で酷い事を言う女だ。


『オアシスで妖精の体に戻っていた件です』

 アンが真剣な顔で聞いてくる。


『クリさんの話では、空っぽの肉体ゆえに戻れない、という事だったのですが、あの時クリさんは妖精に戻っていました。アレはどういう経緯で可能になったのですか?』

「んー、あれなぁ、うん……嘘でした」

『嘘?』

「うん、空っぽって言ったのがね、嘘。本当はね、魂写の儀(たまうつしのぎ)の際にプチの魂を残して置いたんだよ」

 俺は二人に説明する。


 血と魂の契約を行い、俺と主従関係になったプチ。

 その契約時にプチの魂の一部が俺へと譲渡された。

 その譲渡された魂を魂写の儀を行った際に、ラナへと移動させずに妖精の体に残しておいた。

 今回の入れ替りは、妖精の肉体に残ったままの魂を用いて行ったのである。


「って感じ?」

『成る程、魂写の儀が行えた理由は分かりました』

 俺の説明を聞いてアンがそう述べたが、何か納得していない様子だ。

 少し間を空けて再度、アンが尋ねる。


『ただ……何故、嘘を?』

 アンが少し悲しそうな表情をしながらも、俺の眼を真っ直ぐ見つめて言った。 


『私はクリさんを信頼しています。そりゃあ、貴方の普段の言動に困る事も多々ありますが……でも、普段どんなにおちゃらけていても、クリさんが優しいのは知っています。ですから、旅する仲間として、いえ、一人の人間として私はクリさんを信頼しています』


「え、いや……え?」

 突然のアンの話に困惑する。この子どうしたのだ?

 そんな俺に構わずアンが続ける。


『ですが、クリさんは私達を信頼してはいないのですか? 嘘をつかなけば為らない程に、――――私達は、信用出来ないのでしょうか?』

 最後は消えてしまいそうな声でアンが言葉を吐き出した。


 あ~、成る程。そういう感じね。

 俺がアン達を信用してないから、本音を出さない、本当の事を語らない。性善説と言うか、人の本気の悪意とは無縁そうな優しいアンはそんな風に考えたのだろう。

 つまりは俺が悪い。切腹ののち島流し。そこまで重罪でも無い気はするけど。


「うん、ごめん! 余計な心配を掛けたみたい。だからごめん! 皆の事は信用してるよ。本当だ。じゃなきゃ一緒に旅なんかしないよ。本当に嫌なら牢獄のお前ら放ったらかして今頃、トンズラこいてるさ」

 俺は出来るだけ優しい口調で言う。これは俺が完全に悪い。


「嘘をついたのはさぁ、その…………ジョーク?」

 アンが少し怒った顔をする。


「いや、だからさぁ、ほんとゴメン! アレは単にからかっただけ、面白い反応を見たかっただけなんだ」

 アンが更にキツい顔付きになった後に、大きな溜め息をつく。それから少し呆れた様に小さく笑う。


『しょうがないから今回は許してあげます。ふふ、それも含めてクリさんですもんね』

「だろ~?」

『だからって、程々にして下さいよ!』

 俺が調子に乗ると、アンが少し怒って注意する。

 やれやれ、とそんなアンを眺める。


 ふと、隣に居たキリノと目が合った。その目は、私は納得していない、とでも言いたげに俺を見つめていた。

 キリノはキリノで何か思うところがあったのかも知れないが、それを口には出さなかった。

 見つめられるのも気恥ずかしいので、美少女ラナの素敵な笑顔でウィンクしておいた。

 キリノは不愉快そうに眉をひそめると、アンを引き連れさっさと部屋を出て行ってしまった。

 




 翌日。

 用意された馬車、ならぬサンドホース車に乗り込み城を後にする。今回は運転手付きだ。

 民衆に見送られ、門を抜け、カーラン・スーを出発。

 途中、警備所のおっさんの姿を見掛けた。彼は何かを言いたげに手を振っていたが気にせず手を振って別れを告げる。

 ああ、そういえばラナを引き取る際の手続きがどうこう言ってたな。まぁ今更だ。気にしないでおこう。


 

 カーラン・スーを離れ東へと向かう。

 中継地まで乗せてもらい、そこから徒歩で港町に向かう予定だ。

 アキマサ曰く、こっちの方角から宝玉の気配がする。との事だったので、それならと港町行きが決定したのである。

 宝玉感知器のアキマサが言うならきっとこっちにあるのだろう。


 そんなこんなで二日程、砂漠を進み中継地へ。

 そこでカーラン・スーからのお連れさん方に別れを告げて、そこから半日程歩いた所で街が見えてくる。


 港町カイセンに到着したのだ。

 

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