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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
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大蛇のお供をするにあたって

『な、なんだコイツは?』

 そう疑問の声を上げたのはカシュルーだった。


 連れの兵士達もオンフィスバエナの前に恐怖に脅え硬直したままだった。


「団長さん、気を付けて下さい。伝説の魔獣らしいですよ、アレ」

 プチに咥えられプラプラと振り子の様に左右に揺れながら俺がカシュルーへと語りかける。


『伝説の魔獣……? まさかあの勇者の伝承の? いや、しかし……。それにラナちゃんその魔獣は』

「話はあとあと。取り敢えず勇者が来るまで時間稼がなきゃ」

『……勇者? ――――いるのか? 勇者が?』

 俺の出した勇者という単語に信じられないといった風にカシュルーが答えた。


「いるよ。今は城の牢獄で捕まってるけど」

 乗せてくれ、とお願いする様にポンポンとプチの顎を軽く叩きながら俺が告げた。

 ヒョイと首を振り、プチが俺を背中へと移す。


『彼が? いや、確かにアンさんもそう言っていたが、優しい彼女の事だ、てっきり騙されているのかと』


 なるほど、アキマサは詐欺師だと思われていた訳か。

 あんな自信無さげな詐欺師も珍しいだろうに……。


 俺がアキマサに同情していた時だ。オンフィスバエナが動いた。

 オンフィスバエナの右顔が口を開け、こちらへ向けてそのまま高速で真っ直ぐに伸びた水を噴き出してきた。

 凄まじい破壊力を秘めたブレスは地面に激突すると、衝突箇所に2メートル程の穴を作る。


 いや、うん、流石は伝説の魔獣。ただの水ブレスであの威力は凄いよ。凄いんだけど……。


 俺はプチの背中から眼下を見る。

 プチは空中を走っていた。

 というより、オンフィスバエナから放たれたブレスの上を走っていた。


 えー? そんなのありかー?


 プチはそのままオンフィスバエナへと疾走する。が、プチが攻撃へ移る直前、残ったもう1つの頭がブレスを噴き出してきた。

 プチはそれを後方に跳躍し回避すると、地面にフワリと着地、尚も脚を止めず疾走、大地を、水面を、走り抜け、オアシスから垂直に聳え立つオンフィスバエナの体をも駆け上がり、勢いのまま顎へと強力な一撃を繰り出した。


 うん、ハッキリいってプチの毛に絡まってなきゃ軽く10回は振り落とされてたね。


 顎へと一撃を与えたプチはそのまま顎を蹴り、地面に着地した。

 直後、プチの頭上から巨大な尾が叩き付けられる。

 それをプチが横に避けたが、追い掛ける様に尻尾が凪ぎ払われる。

 プチはヒョイと跳躍すると爪を立て尻尾へと着地した。

 そんなプチにイラついた様に首を伸ばしオンフィスバエナが巨大な牙で襲いかかるが、それすらも避けたプチがお返しとばかりに頭を上から殴りつけた。

 オンフィスバエナの頭が少し下がったものの効いている様子ではなかった。


 速さでは圧倒的にプチが上回っている様だが、硬い鱗に阻まれ、プチもオンフィスバエナにさしたる傷を与えられてはいなかった。むしろ、プチにしがみついているだけの俺が何度も加速の衝撃を受け死にそうだ。


 お互いに決定打を見出だせないまま、一進一退の攻防が続く。


 その様子を見ていたカシュルー達だが、その次元の違う戦いに下手に手を出せず、プチとオンフィスバエナの攻防を眺めていた。

 最も、勝つ必要はない。アキマサ達が来るまでの時間稼ぎが出来れば良いのだ。慌てずともこの調子なら大丈夫だろう。

 ただ、もうぼちぼち来て欲しい。でないと俺が死ぬ。既に2回吐いた。今朝食べた緑のベジタブルがプチの毛にまとわりつき、黒い体毛に色を加えている。

 すまん、プチ、わざとじゃないんだ。雨降ってるし、そのうち勝手に流れると思うから許して。


 そんな現状とベジタブルが動きを見せたのは、オンフィスバエナの猛攻を避け、プチが何度めかの攻撃を繰り出した直後だった。

 オンフィスバエナの胴体を殴りつけたプチが空中で無理矢理に体を捻る。

 その瞬間、プチの体に衝撃が走りオアシスへと叩き落とされた。

 プチはすぐ水中を飛び出すと、地面へ降り立つ。


 何があった?

 プチが俺を庇ったのは理解出来たが……。

 ケホケホッと飲んでしまった水を吐き出しながら、辺りを見回すと、オンフィスバエナの斜め上空に見知った顔があった。


「あれは……。デブロースか」

 俺の視線の先には、恰幅の良い大臣ビブロスが笑みを浮かべてこちらを見ていた。


『クックックッ、水神の巫女よ。部下の報告を受けた時は人違いだろうと思ったが、まさか本当に生きていたのか』

「それはお互い様だよデブロース。アンに真っ二つにされたってのにピンピンしてやがるな」

『この大悪魔ビブロスがあの程度で死ぬものか』

「オンフィスバエナが生きているのもお前の仕業か?」

『当然だとも。もっとも、あの時のオンフィスバエナはあのイカれた魔導士によって殺されてしまったがね』

 さも忌ま忌ましそうな表情でビブロスが吐き捨てる。


「……死んだのか? なら俺の目の前にいるコイツはなんだ? オンフィスバエナじゃないのか?」

 俺の問いにビブロスがニヤリと笑う。気持ち悪いヤツだ。


『正真正銘のオンフィスバエナだとも。砕けた肉体を私が再生させ、水神の巫女の魂を捧げる事で三度復活を果たした!』

「水神の巫女の魂? ラナの魂はちゃんとここにある。――――お前、どんな裏技使ったんだ?」

『分からんか? 今の貴様と同じ様に、その身の奥深くに魂を隠し持つ者がいるだろう? まぁ、私が手に入れた時には肉体は朽ち始めていたがね。しかし、所詮、肉体なぞ器に過ぎん。魂さえ残っていれば、腐っていようが関係は無いというものよ』


 俺と同じ? いや、この場合はラナか。ラナと同じ水神の巫女?



「ビブロス、てめぇ!」

 ビブロスの言葉の意味を理解し、俺は激昂しビブロスを睨み付ける。


『クックックッ、理解出来たか? 危うく火葬されてしまうところだった貴様の母親を助け、再利用してやったのだ。感謝の1つもして欲しいというものだ』


 そのビブロスの言葉にぶちギレた俺の心情を悟った様に、プチがビブロス目掛けて走り出す。

 が、それをオンフィスバエナが巨大な尻尾を振り回し遮る。


 辛うじてその尾を跳躍する事で避けたプチ。

 しかし、空中で身動きの取れないプチに、既に魔法陣を展開していたビブロスが追撃を行う。

 魔法陣から放たれた上級水属性魔法がプチの眼前で結界へと衝突し、相殺しあう。


『ああ、すっかり忘れていたよカシュルー殿』

 ビブロスが俺の後方に目をやり、自らの魔法を邪魔したカシュルーへと言葉を投げ掛けた。


『ビブリス大臣! 本当にあなたなのですか!? その禍禍しい魔力、それに先程の話。本当にあなたが魔獣の復活を!?』

『勿論、本当ですぞカシュルー殿。1つ訂正するならば、私の名はビブロス、魔王様に仕えし17番目の剣、大悪魔ビブロス。それがこの私だ! 宜しく、カシュルー殿』

 仰々しい態度でカシュルーへ頭を下げるビブロス。

 そんなビブロスの様子に苦々しい顔をしたカシュルー。

 そのカシュルー目掛け、オンフィスバエナが尾を振り下ろした。

 直後、その尾が切り裂かれ、カシュルーの背後へと放物線を描いて飛んでいってしまった。


「遅いぞ、お前ら」

 オンフィスバエナの尾を切り落とした青年と、それに並び立つ二人の女性に向けて俺は文句を垂れる。


『すいません、これでも全力で走って来たんですよ?』

 はぁはぁと荒く息を吐き出しながら青年が答えた。

 次いで、 

『後は、俺達が引き受けます』



 白銀に輝く聖剣【絶対王者(ザ・ワン)】を構えた勇者アキマサがそう宣言した。


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