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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
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女中のお供をするにあたって・2

 女中生活6日目。

 どうにかオアシスに行けないものかと朝から頭を悩ませていた。

 先日の様な泣き落しも流石に通用しないだろう。なんせ外に出歩く理由がないのだ。

 昼過ぎ、試しに城の外へと向かったのだが門番に止まられてしまった。

 買いたい物がある、と適当に理由を付けてみたのだが、他の女中に頼んで買ってきて貰いなさい、と返されてしまった。

 女中と一緒なら良いか? と問うとそれも駄目だと言わてしまう。

 もっとも、今日はとても忙しかった為、買い物に付き合ってくれる者など居なかったかも知れない。

 掃除をしながら壊れてしまった城の西側へと目を向ける。

 瓦礫はほぼ撤去され、今は修復作業へと移っている。

 しかし、規模が規模であった為、修復にはまだまだ時間が掛りそうだ。

 崩れた箇所には雨風を防ぐ為に上部から大きな布が垂れ下がっていたが、やはり其れだけでは衛生的に悪いのかも知れない。

 昨夜から女中や兵士の一部が体調を崩し寝込んでいた。

 

 掃除を終えると牢獄へ向かう。

 昨日、既に聞くべき事は聞いたので特に用事はないのだが、人手が少なくなってしまった為に、今日は朝からあまり休憩が取れなかった。

 ならば、と面会をサボりの口実に利用した。

 今日は果物持参である。

 アキマサが果物を齧りながら、城の様子や変わった事はないかと聞いてくる。

 城は修復中でまだまだ時間がかかる、バルド王国の動き等々の話は俺の耳には入って来てないと返す。

 その後、少し雑談して迎えに来た警備兵と共に牢獄を後にした。

 別れ際、御守りだと言ってキリノが手首に紐を巻いてくれた。天才魔導士様お手製の御守りだ、ただの紐って事はないだろう。


 夕食の片付けが終わり部屋に戻る際、ふと外に目をやると雨が降っていた。

 カーラン・スーに来て初めての雨だった。




 女中生活7日目。

 昨日から振り続く雨は衰えるばかりか昨日よりも強くなっていた。

 また、雨のせいか昨日よりも体調を崩す者が多い様だ。朝からとても忙しく、他の女中の体調も考え今日は面会を控えて1日仕事に勤しんだ。

 夜になっても雨は振り続いていた。




 女中生活9日目。

 朝、仕事に向かおうと部屋を出る直前、女中がやってきた。

 今日は仕事はしなくて良いのでゆっくり休む様にと告げられた。

 昨日、一昨日と人手不足で忙しかったので休みをくれたのかなと考え了承する。

 去っていく女中も少し体調が悪そうだった。


 急にやる事が無くなると、それはそれで落ち着かなかった。

 面会でも行くかと部屋を出る。

 しかし、牢獄までの移動中に極端に人の気配が少ない事に気付く。


 これはもしやチャンスでは?

 そう思い、城の外へと向かったがまたしても門番に止められた。

 お薬を買いに行きたいともっともらしい事を言って見たが、やはり却下される。

 行っても薬は品切れで手に入らないだろう、とも付け加えられた。

 門番の話によれば、今、国内では流行病が蔓延し城だけでなく街でも体調を崩して寝込む人が続出しているとの事だった。

 雨はまだ振り続いていた。


 胸騒ぎを覚え、牢獄へと向かう。

 いつもは二人いる警備の兵が一人しか居なかった。

 アキマサ達に外の状況を説明する。アキマサ達には特に体調の変化は無い様だ。しいて言えば退屈で体が鈍っている位であろう。

 

 昼過ぎ。

 退屈だし元気だから、という理由で止める女中を無理矢理納得させ病人の看護の手伝いを買って出る。

 数が多いので体調の悪い者達は大食堂に設けられた臨時の隔離部屋にて治療を受けていた。


 俺の姿を見た者の中には、移るといけないから、と部屋を出る様に嗜める者もいた。自分がキツい時に俺の心配をしてくれるとは、優しい人達である。


「大丈夫です! 元気だけが取り柄ですから! ラナがきっと皆の病気を治してあげます!」


 元気づける意味合いもあって俺は笑顔でそう宣言したのち、順に搾った布を寝込む者のおでこに当てていった。

 

 ちなみにこの後、俺にはカーランの天使というアダ名がついた。

 

 そんなカーランの天使が奮闘する中、オアシスの様子がオカシイと一人の兵が駆け込んで来た。

 報告を受けたカシュルーは直ぐに、動ける兵数人を率いてオアシスへと向かった。


 ああ~、やっぱりそうなったか。何となくそうなる予感はしていた。

 オアシスの碑石に書かれていた事と同じ様な状況だと感じていたからだ。

 だとすると、例の魔獣も出現する可能性が高い。

 キリノが倒した筈だが、死んだのを確認した訳ではない。伝説の魔獣だ、上半身をぶっ飛ばされても生きていたのかも知れない。

 アレを相手にするにはカシュルー達では荷が重いだろう。

 かと言って俺が勝てる相手でも無いだろうが、プチが居れば時間稼ぎ位は出来るだろう。

 それに失ったアキマサ達の信用を回復するチャンスでもある。ここらで女中生活も終わりにしておこう。


 一人会議での議題が全会一致で可決したところで、小さく頷き、近くにいた兵士に声を掛ける。

「今からオアシスに行って来ます。お母さんに知らせておいて下さい」


 言伝を頼まれた兵士が何かを言おうとしたが、それよりも早く俺は相棒の名を叫ぶ。


「プチ―――――!」

 俺の声が大食堂に響く。


 その数秒後。

 大食堂の壁をぶち壊して漆黒の巨体が姿を現す。


 何故イチイチ壁を壊す? 演出か? 狙ってるのか?


 突如、現れた魔獣にその場に居た者達が驚愕する。

 うんうん、そりゃあびっくりするよね。プチのこういう小芝居的な演出は飼い主に良く似ているなぁと自傷気味に笑う。

 まぁ、いいや。とにかくオアシスに急ごう。


 俺は振り返り笑顔で「いってきます!」と告げた。

 そうしてプチの背中に乗ってオアシスへ向かうのだった。



 大粒の雨がオアシスを揺らしていた。

 水は緑色に変色し、毒々しい雰囲気を漂わせていた。

 空は黒雲に覆われ陽光を遮り、昼にも関わらず辺りは薄暗い。

 例の魔獣の姿は視認出来なかったが、プチが警戒を解く事なくオアシスを睨み付けていた。

 やはり居るのか。

 よくもまぁあの状態で生きていたもんだ。


 カシュルー達はまだ来ていない。どうやら追い越してしまった様だ。

 まぁそれはいいか。

 問題はあの魔獣をどうやって水中から引っ張り出すかだ。流石に水の中に潜って戦うのはプチにはキツいだろう。

 石でも投げたら怒って出て来ないかしら?

 いや、待てよ。ここは水神の巫女たる俺が飛び込むのが良いかも知れない。よし、それでいこう。可決。

 オアシスへ近付く。

 うへ、近くで見ると更に毒々しい。これに飛び込むの嫌なんですけど? 濁り過ぎて水中の様子も全然見えないし。まさか入った瞬間にパクッなんて事にならないよね?


 恐る恐る水面を指でつつく。


『ラナちゃん! ここで何してる!』

 急に背後から声を掛けられオアシスに落ちそうになった。


 待って! まだ心の準備が!

 慌てて体勢を立て直し、後ろを振り向くと、カシュルー達がプチに対峙する様に武器を構えていた。


『ラナちゃん! 早くこっちへ!』

 プチから目を離さず、ジリジリとこちらへ近付きながらカシュルーが叫んだ。

 プチはプチで関係ないとばかりに尚もオアシスを睨み付けていた。

 やれやれ、これはこれで面倒な展開である。

 とにかくまずは説明しようかと俺が口を開きかけた時だ。


 ――――素早く動いたプチが俺の服を咥え、オアシスから距離を取った。

 直後、水面が十数メートル持ち上がる。



 双頭の大魔獣・オンフィスバエナが姿を現したのだ。

 

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