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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
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師団のお供をするにあたって

 強い陽射しを避ける様に部屋の小陰に身を隠す。

 時刻は昼過ぎ。

 屋外の喧騒と屋内の静寂が交差した不思議な空気が部屋を満たしていた。

 時が止まったかの様なその空間で、ぬるくなってしまったグラスの水だけが時間の存在を知らせてくれた。

 少女は乾いた体に活を入れる様に、グラスの水を飲み干すとフゥと小さく呼吸を整える。


『フゥ、じゃないですよ』

 俺の俺による俺だけの空間に無遠慮に入って来たのはアキマサだ。

 喋り疲れて乾いた喉に、ただ水分を補給しただけで文句を言われるとは思ってもみなかった。

『これからどうするんですか?』


 どうするんですか? とはどの事柄についてだろうか?

 沢山在り過ぎて見当がつかない。


「お前が決めろよ。この勇者一行のリーダーはお前だろアキマサ」

 結果、丸投げである。


「そう言えば、宝玉はどうなった? 手に入れたのか?」

 さも、重要では無い、っと云った感じに聞いてみる。

 実際は世界を救えるか否かの大事な事なのだが。


『まだです』

 はぁ、とアキマサが大きく溜め息をつく。


「まだって……。お前さぁ、丸1日何してたの? アンとイチャイチャしてたの?」

『し、してません! というか分かってるでしょ? 捕まってたんです』

 情けない、と再度溜め息をつくアキマサ。

 溜め息ばかりつきやがって。こいつには勇者としての自信みたいなモノが足りない気がする。


『いえ、それについては私の責任です。まさか一国の大臣が伝承にすら名を残す悪魔だったなんて。大いなる使命を帯びた旅だと言うのに、油断していました。本当にすいませんでした』

 アンが体を曲げて謝罪する。

 そんなに真剣に謝られると俺が悪い様な気にさえなってくるのでご遠慮願いたいのだが。


『よして下さい! アンさんが謝る必要なんかないですよ! 油断していたと言うならば其れは俺も同じです。勇者として俺はまだまだ半人前です』


『お互い、まだまだ半人前ですね』

 アンはそう言いクスッと微笑む。

 釣られてアキマサも照れ臭そうにハハッと頭を掻いた。


 何これ? あまーい、とか言えば良いのか?


「お二人さん……本当にイチャイチャしなかったんだろうな?」

 俺の問いにブンブンと首を振って否定する二人。


「まぁ、良いけど」

 でも、と付け加え

「俺はキリノとイチャイチャしてたぜ?」

 な? とキリノに目配せする。


 実際は、昨夜、泣いているキリノの頭を撫でてやった程度なのだが。

 俺の言葉に昨夜の自分を思い出したのか普段、自身の感情をあまり表に出さないキリノの表情が僅かに曇る。

 それから、キリノは大泣きした自分がみっともない、とでも感じたのか、俺から目線を逸らした。

 オアシスでも、なんならついさっきも泣いていたので今更な気がしないでもない。


 しかし、そんなキリノの態度にアキマサとアンの表情が僅かに固くなる。

 加えて、現在、中身は俺とはいえラナの体に蹴り等繰り出す訳にもいかず、やり場のない怒りにキリノは少し顔を赤くしてプイッとそっぽを向いてしまった。

 そのキリノの態度に、アキマサとアンが驚愕の表情を浮かべる。


 実際は顔が赤いのは怒っているからであり、照れている訳ではないのだが。

 勘違いを爆進させたアキマサは複雑そうな顔をし、アンは涙を浮かべて友人を祝福した。

 人間と妖精で何かあると本気で思ってるのだろうか?

 謎である。


「で、話を戻すけど宝玉を手に入れるにはどうすれば良いと思う?」

 俺は三人に問う。


 大きな問題点は2つ。

 まず1つ目は、この国は信用出来ないという事。

 のこのこと城に出向き、また罠にでも掛けられたら堪ったもんじゃない。


 もう1つは、この国が信用してくれるかという事。

 仮に、今回の事態が大臣個人の暴走で国家としては関わっていないとしよう。

 それだと1つ目の問題は解決するのだが、俺達、正確には天才魔導士様が城をぶっ壊してしまった為に在らぬ疑いを持たれてしまっているのは間違い無いだろう。

 トドメとばかりに一国の大臣を真っ二つにしているし。 

 そんな相手に宝玉を渡すなどまず有り得ないだろう。

 さて、困った。


 俺達がどうしたものかと頭を悩ませていた時。

 ドタドタと激しい足音と共に兵士が部屋へと突入してきたのだ。

 まさか向こうからやって来てくれるとは。まさにありがた迷惑である。

 こうなってしまっては仕方無い。俺のやる事は1つだ。

 俺はベッドに寝かされた妖精と傍にいた子犬を抱き上げ、びっくりしてますという体を装っておずおずとアキマサの背後に身を隠す。

 これで無垢な少女の完成だ。

 後は三人に丸投げである。


 先頭に立っていた兵士の一人が声を上げる。

『お前達には国家転覆の容疑が掛けられている!大人しく捕縛されるならばよし、抵抗するならばこの場にて斬り捨てる!』


『ま、待って下さい! カシュルーさん!』

 アンが慌てて声を上げた。


『アンさん! ……まさか貴女だったとは。それにキリノ様まで。貴女方二人がよもや我が国に敵対する事になるなんて』

『違うんです! どうか申し開きの機会を頂けないでしょうか!?』

『話しならば城にて伺いましょう。同行して頂けますね?』

 アンが頷き了承する。

 それを確認するとカシュルーは後ろの兵士達へ合図を送る。

 俺以外の三人は直ぐ様、後ろ手に手錠をかけられ、そのまま兵士に囲まれ城へと連行されてしまった。


『お嬢ちゃん、君は』

 急に声を掛けられて焦る。

 咄嗟に『娘です!』と言ってしまった。

 カシュルーは訝しげな顔をしながらも『そうか』と返し、兵士に俺を預けて部屋を後にする。

 出来れば俺も城に行きたいのだが、どうしたものか。

 そんな事を考えていると俺を預けられた兵士が声を掛けてきた。


『お嬢ちゃん、お嬢ちゃんのママは何ていうお名前なのかな?』

 え? いや、咄嗟に出た嘘なので別にどっちでも良いけど……。

 取り合えず『アン』と言っておいた。キリノは後が恐いから。


 名前を聞いた途端、兵士は『嘘だぁぁぁ――!』と叫びながら頭を抱えて蹲った。





 城についた俺達は国王と謁見する事となった。

 悲痛な叫びを上げる兵士に『お母さんのところに行きたい』と言うと、これまた悲痛な表情をしながらも城へと案内してくれた。

 去り際、兵士が仇を見る様な目でアキマサを睨んでいたのは気のせいでは無いだろう。


 玉座の間でしばらく待っていると、奥から派手な衣装を身に纏い王冠を被った青年が出て来る。

 彼こそが大国カーラン・スーの現国王、メシュリトス王その人であった。


『久しいなアンよ』

 メシュリトス王がそう言葉を発すると、アンも口上を述べ、そのまま今回の事の顛末を話す。


『そなたらの言い分は理解した。だがなぁ』

 メシュリトス王は城の被害状況やビブリス大臣が行方不明である事を話して聞かせる。

 城はあれだけの破壊にも関わらず幸いにも死者は居ないらしい。

 ビブリス大臣については、目下捜索中との事。


『我が国とバルド王国が同盟国なのは当然、理解しておるであろう? そなたらの立場で我が国に対し、事に及べば、その関係すら危うくなる事は十二分に承知しているはず』

 そこまで言うとメシュリトス王は何かを見定める様にこちらを見回す。


『そなたらの処遇はしばし保留とする。それまでは牢にて決定を待て』

 それだけ言い残すとメシュリトス王はその場を後にした。


 王が去った後、兵士がアキマサ達を立たせ牢へと連行する。

 牢へと向かうアンにカシュルーが近付き『お前の娘はしばらくはこちらで面倒をみる』と告げた。


 アンは不快感満載の顔で俺を見た後、諦めた様に溜め息をつき『よろしくお願いします』とカシュルーに礼を述べた。


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