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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
32/237

少女のお供をするにあたって・4

「カッコいいぜ相棒! 早速だがこれ何とかしてくれ!」

 俺はプチを誉めつつ、鎖からの解放をお願いする。


『先に私の鎖を! 解けさえすればどうとでも!』

 プチはキリノに巻き付けられた鎖を器用に牙で咥えると力を込める。

 魔力で作られた物だからだろうか、鉄の扉の様に簡単にはいかない様だ。

 横を見ると何故かアキマサも何かを噛み千切る様な仕草で口に力を込めている。

 別にお前が力を込めんでも……。


 パキン

 キリノの鎖の一部が甲高い音と共に砕けた。砕け、弛んだ鎖は地面に落ちるでも無く、音もたてずに空気中へと霧散していった。魔法で出した鎖ゆえだろう。原材料は魔力。

 鎖から解放されると同時、キリノは素早く、かつ短く詠唱すると、杖を軽く地面へ突き立てる。

 すると、瞬く間に俺達の鎖も消えていった。


 おお、流石は稀代の天才魔導士。魔法をそう多くは知らないので、今のが凄いんだか分からんがきっと凄いのだろう。


「おっし! さっさとここから出るぞ!」

 プチの背中に乗れ、と言葉を続けようとして後ろを振り向いた俺の唇が、プ、の形で止まる。タコか。


 タコさんの視線の先。

 キリノが凄まじくデカイ魔力の塊を天井に向け、いままさに放とうとしていた。

 俺の隣ではアキマサが、馬鹿みたいに口をパクパク開けて突っ立っている。鯉か。

 間抜けな口をしたタコと鯉に気付くことなく、キリノが魔力を解き放った。



 うん、アレだ、流石は稀代の天才魔導士。魔法をよく知らない俺でも分かる。すげえな凄いです。

 天井は直径10メートル程の大穴を開け、見上げた先には青空が広がっていた。今日も良い天気だと思った。


 そのままキリノは空へと昇って行く。

 そんなキリノに慌てた俺達三人はプチの背中へ飛び乗り、地下から地上へ飛び出す。

 地上に着いて、地面に散らばる瓦礫と城の壁が同じ色形をしているのに気付いた。

 俺は知らない。俺は何も見てない。

 城の三分の一が吹き飛んでいるなんて俺は信じない。


『プチ。案内して』

 名前を呼ばれたプチの体が一瞬震えた気がした。心無しか体も縮こまっている気がする。

 分かる。分かるぞ相棒よ。

 大丈夫。さっきのお前はかっこ良かったぜ。俺の心のメモリーに、君の勇姿はしっかり刻まれたんだぜ? ただし、如何せん容量が少ないので古い順から消えていきます。

 

 脅えた相棒はいつもより2割り増しの凄まじい速度で建物の屋根を駆け抜けていった。


 そんな相棒が辿り着いた先は、この国のオアシスであった。

 オアシスの畔、こちらに殺気を向けて対峙する武器を持った10人程の集団。

 その集団の最後尾。脇にラナを抱えたビブリスがいた。


『ビブリス! ―――ラナを、離せ』

 キリノが声に殺意を込めてビブリスに告げる。

 その迫力に、自分が向けられている訳でもないのに、若干震えた


『フハハ、流石に速いな。まさかこれ程とは』

 そう言いながらビブリスはニタニタと笑う。

 なんとも下卑た笑い方であるが、コイツには良く似合ってる。ブヒブヒ言っても俺は違和感なく受け入れる覚悟があるよ?


『ビブリス大臣! 何故です! あなた程の方が何故この様な愚かな行いを!』

 アンがビブリスに向け叫ぶ様に問う。

 ブタがニヤリと笑った。


何故ですと(ブヒ)? 変な事を聞きますな(ブヒブヒブー)あの方が誕生なされた(ブヒブブヒブヒ)(ブヒ)! 今こそが(ブヒーィ)! このビブリスが(ブヒブヒ)あの方の(ブヒ)お役に立つべき時(ブヒブヒィィーン)

 恍惚とした表情で語るビブリス。

 デブったおっさんのウットリ顔はハッキリ言って気持ち悪い。


 ブヒブヒうるせぇぞ!


『400年前はあと一歩のところで邪魔が入ったが、今度こそはこの国をあの方へと捧げてみせよう』


『400年前!? ビブリス大臣、あなたは何を言っているのです!?』

 アンが困惑の表情を浮かべ再度ビブリスに問う。


『ふん、大臣などという人間の肩書きなどもはや必要ないわ。私の名はビブロス! 魔王様に仕えし17番目の剣・ビブロス! この時をどれ程待ち望んだ事か』

 再び恍惚としながら語る元ビブリス。またの名をビブロス。


『ビブ……ロス? 伝承に残るあの大悪魔!?』


『ほう、流石はアン副隊長。博識でおられる。そう、伝承に残る大悪魔こそこの私だ』

 以後お見知りおき、と仰々しく頭を下げるビブロス。

 なんの伝承かは知らないが、割りと有名な名であるのだろう。

 実際、俺もうっすら記憶にある。見た事はないが……。


『さて、お喋りもこの位にして、皆で伝説の魔獣の誕生を見届け様ではないか。双頭の大魔獣オンヒィスバエナの誕生を!』

 そう言うとビブロスは左手にラナを掲げる。反対の手にはナイフが握られていた。

 おいおいおい、ちょっと展開早くないか!?

 あんまり急ぐとゴッツンコしちゃうし、もうちょっと引き延ばすとかさ―――


『駄目!』

 キリノが宙を、アンが地上を、二人はそれぞれラナへ向け疾走する。そして、



 ―――ラナの胸にナイフが深々と突き刺さった。


 

 ビブロスは笑みを浮かべると、そのままラナをオアシスへと無造作に投げ捨てた。


『ああああああぁぁぁ!』

 慟哭の声を上げ、キリノがラナを追う様に水の中へと飛び込んでいった。

 アンは邪魔だとばかりに集団の先頭にいた二人の首を一瞬で刎ねる。

 少し遅れてアキマサもアンの援護に入った。

 

 時間にしてほんの数秒。

 ビブロスの護衛が半分程になった頃、ラナを両腕に抱えたキリノが水中から飛び出してくる。

 その直後、キリノを追う様にして水面が大きく盛り上がる。

 盛り上がった水の中、紅く輝く4つ眼が見えた。


『お、おお!』

 ビブロスが感嘆の声を上げる。

 伝説に残る双頭の大魔獣オンヒィスバエナの復活であった。

 その姿はまるで双頭の巨大な蛇の様である。

 デカイな……。目だけで大の大人程はある。


 大魔獣オンフィスバエナはその4つの眼でキリノを睨むと、巨大な口を開けキリノに襲いか―――


『邪魔』


 キリノの一睨み。

 それだけ。

 ただ、それだけでオンフィスバエナの上半身が吹き飛んだ。


 ボトンボトンとオンフィスバエナの肉塊が、飛沫を上げて次々とオアシスに沈んでいく様は、鍋に大きめの具でも放り込んでいるかの様だった。

 食通で通る俺としては、オンフィスバエナの出汁を取って、オンフィスバエナの肉が入った、緑色のスープとか飲みたくない。量に至っては大国を支える程の量なのがまたね……。


 加工され、スープの中に落ちていくオンフィスバエナの体を、笑顔のまま硬直したビブロスが見つめていた。


 ややあって、驚愕の光景から抜け出したのだろう、『バ、バ、ババ馬鹿な! ありえん! あり得んだろ!』


 そんなビブロスの声など完全に無視し、件の光景を作り出した帳本人キリノは、ラナに魔法をかけていた。

 神々しささえ感じる巨大な白光の渦が、キリノとラナを中心に吹き荒れている。

 よく分からんが、すんげぇなぁ……。ちょっとした竜巻だぜ?


 白光から察するに、おそらく回復魔法だろうか……。

 しかし、以前、稽古中のアキマサにアンがしていたレベルとは明らかに桁外れな魔力が籠められているだろう事は、俺にも理解出来た。ド迫力な魔力の奔流。迫力があり過ぎて、回復魔法なのに触れると怪我しそう。ミステリー。

 

『あ、あれ程の魔力を、詠唱も陣も無しに……。ば、化物めっ!』

 そう叫んだビブロスの体が、突然上下真っ二つに切り裂かれた。

 ブタさんがキリノの竜巻に気を取られている間に、アンの剣がビブロスを穿ったのだ。レンガで家を作らないからそういう事になるんだよ?

 しかし、不意討ちと呼ぶなかれ。戦いの最中に、大口開けて余所見してる奴が悪いのだ。あと、レンガで家を作らないからだと思う。レンガの有用性と共に、そこはグイグイ推していきたい。


 驚愕の表情で地面に転がるビブロスを、アンが冷たい眼で一瞥した。レンガさえ……レンガさえあれば。


『キリノ!』

 名を呼ばれたキリノは、オアシス上空からゆっくりとアンの元へと降りてくる。涙をポロポロと溢しながら……。

 だが、尚も絶え間無く注がれる魔力。

 しかし、そんな膨大な魔力の回復魔法を受けても、服を赤く染めたラナはピクリとも動かなかった。

 大陸史上最強とも称されるキリノの魔力をもってしても、死者を生き返らせる事など出来はしなかったのだ。


 傍目で見ていても分かる程に、徐々に、しかし確実に、弱々しくなるキリノの魔力。

 もう魔力が尽きかけているのだろう。キリノの顔は涙と汗と疲労でボロボロであった。

 アンも頭を項垂れて嗚咽を漏らしていた。

 アキマサも涙を我慢する様にキツく拳を握っている。


 はぁ、俺はポリポリと頭を掻き、溜息をつくと「仕方ない」と呟きラナへと近付く。

 そう、仕方無いのだ。ラナは何も悪くないのだから……。


「そんなに泣くな」

 俺はラナに手を翳して、僅かに力を込める。


 力を込めると同時に俺の視界が暗転した。

 一瞬の暗闇の後、俺はパチリと目を開ける。ちょっと長いまばたきといった風。

 俺の目の前には涙と汗と疲労、加えて驚きの表情でボロボロになったキリノの顔があった。

 酷い顔だが、元が良いせいか見られない程じゃない。


 ふと、横を見る。

 俺の横には、体長20センチ程の妖精の姿をした元俺が、手を俺の胸にかざしたまま、グッタリと死んだ様にもたれ掛かっていた。

 たまには自分の体を、他の視点から見るのも中々オツなもんである。ちょっと間抜けで。


「あ~、何から話したら良いんだろうか」

 俺がう~ん、と唸っていると、ガヤガヤと騒がしい声がする事に気が付いた。

 周囲に目を向けると、騒ぎを聞き付けた人々が集まって来ていた。


「うん、よし、まずは場所を変えよう。説明はそれからだな」

 抱き締めていたキリノの腕をどけて立ち上がる。

 動かした体に違和感は無かったし、服は真っ赤だが、キリノの回復魔法のお蔭で刺された胸も痛くない。


「おい、相棒。ちと重いかも知れないが全員乗せて宿屋まで戻れるか?」

 相棒はワン! と一言元気よく吠えると俺を咥えて背中に乗せた。


「おい、お前ら馬鹿みたいにポケーとしてないで早く乗れよ。人来ちゃうだろ」

 三人を促す。

 しかし、呆気に取られてか、事態を呑み込めずにいる三人は、ただ目を丸くするばかりで動こうとはしなかった。

 なんならキリノはちょっと睨んでいる気がした。レンガで心のバリケードを建てておく。もう安心ですね。


「あ、そこの小さいのも忘れずに持って来てくれ。後で必要になるし。ってかもう! アホ共! アホ面下げてないで、それ拾って早く乗れよ!」

 ラナの可愛い声が三人をアホと罵った。


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