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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
31/237

少女のお供をするにあたって・3

「朝だ―――!」


 翌朝。

 寝ていた寝坊助の布団を剥ぎ取って起こす。


「おはよう、朝だぞラナ」

 そう言いながらラナの顔を濡れた布で拭いてやる。

 妖精の俺にはその程度でも中々の重労働である。


『クリ……おはよう』

 ラナは挨拶しながら、寝ぼけ眼で俺の頭をペチペチ叩く。

 そのペチペチ。まさか日課にするつもりじゃあるまいな?



『今日はお母さんとお父さん見付かるかなー』

 服を着替えながらラナがニコニコと聞いてくる。

 返答に困るので聞かないで欲しい。


「んー、うん、そうだなー。今日は見付かると良いなー。ってかラナのお母さんとお父さんかくれんぼ上手すぎ」

 俺がそう返すとラナはニコニコ笑いながら再び俺の頭をペチペチ叩いた。

 ぼちぼちただでさえ低い身長が更に低くなる頃かもしれん。

 子供とのスキンシップ自体はやぶさかではないが、もうちょっと違う形が望ましい。



 そんな変な心配をする俺だが、実は夜のうちにラナの自宅を突き止めていた。

 仕事はするのだ。むしろそれくらいしか活躍する場がないと言うのが正しい。

 あの後、俺は落ち着いたキリノにラナを任せ、人だかりがあった場所へ。

 そこへ行くと既に人だかりもラナの両親の遺体も無くなっていたが、代わりに見覚えのある人が居たので声を掛けた。


「こんばんは」

『ん? ああ、君か。どうしたんだいこんな夜中に』

 俺が声を掛けたのは警備所にいた口髭のおっさんだ。

 向こうも俺を覚えていた様で軽い感じで返してきた。まぁ、俺は目立つからな色々と……。

 事務的じゃない対応にちょっと安心する。


「いや、ちょっと前にココを通った時に人だかりが出来てたので何かなぁって気になって」

『ああ、そうなのかい。遺体だよ、たまたま通りかかった国の者が砂漠の中で見付けた様だね。まぁその時はほとんど砂に埋まっていたらしいがね』

「へー。魔獣にでも襲われたんですかね?」

『いや、どうも人の仕業の様だね』

「人に、ですか? 盗賊とか?」

『さあ、そこまではまだ……。何でそんな事聞くんだい?』

「いや、俺達の預かってる子供と関係あるかな~とか思って」

『まだ見付かってないのかい? あの子の両親』

「ええ、まだ」

 俺の言葉におっさんは少し悲しそうな顔をした。


『時間があるなら警備所まで来たまえ。うちの者の話だと遺体の身元はもう分かってるそうだ』

 了承し、警備所まで付いていく事になった。




『ああ、これだよ』

 警備所に着くと、机の上をごそごそとかき回したおっさんが、そう言って1枚の紙を差し出してきた。

 受け取り、机に広げて目を落とす。


『あの二人の夫婦には子供がいる様だね』

 殴り書きの様な文字が書かれたその紙には夫婦の名前と住所、そしてラナ、という名の文字が見えた。

 予想通りとはいえ、ハッキリとした事実として突き付けられると、結構へこむ。


『残念だよ、本当に……。それでどうするんだい? うちで引き取るかい? まだ君達と一緒なんだろ?』


「ええ、まぁ……。あの、あの子を俺達が引き取る事は?」


『うん? ……他に身内もいない様だし、本人が望むなら可能だよ。キチンとした手続きが必要だがね』

「一度、仲間と相談してから考えます」

『ああ、それが良い。一応、準備はしておくよ』

「ありがとう。それともうひとつ」

 俺はおっさんに礼を言い、ラナの自宅住所が分かる様に印をつけた簡易地図を貰った。


 俺は警備所から出たその足で、そのまま地図に記された場所まで向い、家に侵入、ラナの服を拝借した。

 どうやって侵入したかは企業秘密だ。決して窓を叩き割ったとかそんな悪い事はしてない。してないったらしてないのだ。





 そんな事を経て、俺達は、両親探しを止めてアキマサ達と合流すべく城へと向かっていた。

 もう探す意味はない。

 ちゃっちゃっと合流して、ラナの今後を話し合わねばならない。もしかしたら、一度バルド王国に戻る事も有り得た。面倒だし、早々の出戻りにちょっと気不味い気もするが、そんな事を気にする場合でもない。

 幸い、ここからならバルド王国も近いし、運が良ければ、カーランに助力を頂戴して、ラナだけ送り届けて貰うという選択肢もある。


「っつーかさぁ、アイツら宝玉ひとつ貰うのにどんだけ時間掛かってんだよ」

 全く帰ってくる気配のない二人に愚痴る。


「まさか二人で駆け落ちでもしたんじゃないだろうなぁ、もしくは暴走したアキマサがアンに襲い掛かってボコボコにされてるかのどっちかだな」

 そう軽口を叩くも今日は杖も蹴りも飛んで来ない。

 破壊神(俺限定)キリノ様はちょっとおセンチな日なのだろう。

 そんなキリノを心配したのか、ラナはプチの背中から降りると、小走りでキリノに近付き『えへへ~』と笑顔でキリノの手を握り、歩き出した。


 やだ、この子超可愛い。

 キリノもまた、そんなラナを微笑みながら見つめるのであった。





 城に到着すると、すんなり中へと案内された。流石に不味いかなと思いプチは城の近くでお留守番である。

 案内された先は執務室。

 どうやら大臣と面会させて貰えるらしかった。


 しばらく部屋で待っていると、恰幅の良い白髪混じりの初老の男性が入って来た。


『ようこそ! カーラン・スーへ! お話しは勇者様より伺っております。私はビブリスと申します。以後お見知りおきを』

 仰々しい態度で挨拶する男ビブリス。彼がこの国の大臣の様だ。え~っと、デブリス大臣?


『お初にお目にかかりますビブリス様。バルド王国にて専属魔導士をしておりますキリノと申します』

 キリノがそう言って頭を下げた。


 どちら様ですか?

 普段の不機嫌そう、かつ横柄なキリノとのギャップに目が点になる。まぁ、顔は相変わらず無表情で愛想がない。


『ええ、ええ、あなたのお噂はこのビブリスの耳にも届いておりますよ。大陸史上でも指折りの魔法使い稀代の天才キリノ導士』

 ニヤニヤと笑いながらビブリスが答える。

 ちょっとキモい。いや、本当に。見たら分かる。


『急がせて申し訳ない、連れの者達に会いたいのですが今どこに?』

『まぁまぁ、そんなに慌てずとも直ぐにお会い出来ますよ。それよりも』

 ビブリスがチラリとラナを見る。う~ん、ギョロリ、のが近いかなぁ……。

 そんなビブリスに、ラナも不安を覚えたのか、俺の後ろに隠れる様に縮こまる。

 いや、後ろに隠れるのは良いんだが……。まぁいいか。体格差の問題ではないのだろう。


『ラナが何か?』

 ギョロ目でラナを舐めまわす様に見るビブリスの視線を遮る様に、キリノが間に割り込む。

 表情こそ冷静そうだが、その背中からは、ラナをビビらせてんじゃねーよオーラが滲み出ていた。様な気がした。

 

『あー、いえいえ、何もご存知無い様ですな』

『……どういう意味でしょうか?』

 ふむ、とビブリスが自分の顔をひと撫でする。

 首元の脂肪がぷるんと震えた。


『この子は水神の巫女の末裔でしてな。 ――――あぁ、水神とは我が国の神聖なオアシスを守護する精霊だったのですが……。400年程前、水神はその身を魔へと堕としてしまわれた。結局、魔へと堕ちた水神はのちの勇者によって退治されてしまうのですが……』


『ビブリス様、申し訳ありませんが、私達は先を急いでおりまして』

 キリノの言葉など気にも留めず、ビブリスは続ける。


『水神が魔へ堕ちた理由とは巫女の死があったと言われております。そして、今、宝玉の復活と共に水神も蘇りつつあります。水神の復活。そして……巫女の血を引くものが目の前に』

 言い終わるとほぼ同時、ビブリスの手が妖しく輝き、部屋の床を覆う様に魔法陣が顕著した。


『――――ッ!』

『遅いわい!』

 キリノの魔法が発動するよりも早く、部屋の四方に新たな魔法陣が浮かび上がる。

 浮かび上がった左右の陣から鎖が飛び出し、一瞬で俺とキリノを縛り上げた。


『封魔の陣!?』

 キリノが苦々しく叫ぶ。


「てめぇなんのつもりだ!?」

『しばらく大人しくしておれ』

 ビブリスがそう言うと、床の陣が再び輝き、俺とキリノはあっという間に陣の中へと落ちていった。





『クリさん! クリさん!』

「ん?」

 誰かに呼ばれ、俺は目を覚ます。

 声のした方に顔を向けると見慣れた顔が二つ。


 アンとキリノだ。

 俺の後方、ガンガンと鉄の扉に体当たりを咬ましているのはアキマサだった。

 彼は何をはしゃいでいるんだか……。頭でもやられたのだろう。砂漠の国は熱いからな、仕方ないね。


「……何かのプレイ?」

 アキマサを白い目で見た後、アンとキリノを順に見渡す。

 全員鎖でグルグル巻きであった。

 どう見ても捕まってしまった罪人にしか見えない。捕まったのは事実だろうが……。

 更に部屋を見渡す。

 部屋の壁は石で出来ており、鉄の扉で堅く閉ざされている。

 牢屋、か?


『冗談言ってないでここから出る方法考えてくださいよ』

 そう言いながら、尚も鉄の扉へとぶつかり続けるアキマサ。

 彼は本気で鉄に勝てると思っているのだろうか?

 いや、勇者なんだし案外勝ちそうではあるが、それを言うならキリノの魔法だって勝ちそうである。

 しかし、観察した感じ魔法も駄目って事か? でなければアキマサがあんなにはしゃぐまい。


「俺、どんくらい寝てた?」

『5分程です』

 思っていたよりもさほど時間は経っていない様だった。


「ってか考えるって言ってもなぁ、鉄の扉を体当たりでどうにかするとか無理だろ。魔法も駄目なんだろ? 俺達だけの力じゃどうにもならんだろ」

『お前! 分かってるのか! このままじゃラナが!』

 キリノが今にも泣きそうな顔で俺を睨み付ける。


「だーかーら! 俺達には無理だって!」

『だからって諦めるな! この!薄情者!』

 グルグル巻きのままキリノが俺を蹴り飛ばそうとした時だ。


 ガガン!

 大きな音と共に鉄の扉が吹き飛んだ。

 体当たりしようと壁ぎりぎりまで下がっていたアキマサが、危うく壁と扉のサンドイッチになりそうだった体を、寸前のところで横に反らし、迫る扉をかわした。

 チッ。


「だから言ったろ? 俺達には無理だって」

 破壊された牢屋の先に、禍禍しい黒き魔獣の姿が見えた。

 地に立つ四肢からは力強さを感じる。

 俺達のピンチに颯爽と駆け付けたのは、俺の相棒、破滅の嵐。


 またの名をプチ。

 

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